「従業員を雇ったものの、6月〜7月に届出が集中するらしい……何をいつまでに出せばいいのか分からない」——創業して初めての夏を迎える経営者の方から、こうしたご相談を多くいただきます。労働保険の年度更新や社会保険の算定基礎届は、慣れた会社でも毎年バタバタする手続きです。初めてであればなおさら、期限を逃してペナルティを受けるリスクがあります。本記事では、2026年6月〜7月に集中する届出の全体像をスケジュール・必要書類とともに整理し、少人数法人でもスムーズに乗り切るための段取りを解説します。
01なぜ6月〜7月は届出が集中するのか
毎年6月から7月にかけては、国が定めた届出期限が複数重なる時期です。創業期の法人にとって特に重要なものは以下の3つです。
- 労働保険の年度更新(労働基準監督署・ハローワーク)
- 社会保険の算定基礎届(年金事務所)
- 住民税の特別徴収税額通知への対応(各市区町村)
いずれも届出先が異なるうえ、必要書類や計算方法もそれぞれ違います。初めて従業員を雇用した法人では「そもそも自社がどの届出の対象なのか」が分からないまま期限を過ぎてしまうケースも珍しくありません。まずは全体像を把握し、スケジュールを押さえることが大切です。
02届出スケジュール一覧——2026年の期限を確認
労働保険の年度更新
労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新は、前年度の確定保険料の精算と当年度の概算保険料の申告・納付を同時に行う手続きです。2026年度は以下のスケジュールが見込まれます。
- 申告書送付:2026年5月下旬〜6月初旬(緑色の封筒で届きます)
- 申告・納付期限:2026年6月1日〜7月10日
対象となるのは、労災保険または雇用保険に加入しているすべての事業所です。たとえパート・アルバイト1名でも、労災保険は加入義務がありますので、従業員がいる法人はほぼ全社が該当します。
社会保険の算定基礎届
算定基礎届(定時決定)は、毎年4月・5月・6月に支払った報酬をもとに「標準報酬月額」を見直す届出です。
- 届出用紙送付:2026年6月初旬
- 届出期限:2026年7月1日〜7月10日
対象となるのは、健康保険・厚生年金保険の被保険者がいるすべての事業所です。7月1日時点で在籍している被保険者全員(一部例外あり)について届出が必要です。
住民税の特別徴収
5月中に各市区町村から届く「特別徴収税額決定通知書」に基づき、2026年6月支給の給与から新年度の住民税額に切り替えて天引きを開始します。届出というよりは給与計算上の切り替え作業ですが、忘れると従業員から過不足が出るため注意が必要です。
ポイント:6月1日〜7月10日の約40日間に「年度更新」と「算定基礎届」の両方の期限が来ます。どちらも7月10日が最終期限となるため、6月中旬までに準備を終わらせるスケジュールを組むと安心です。
03労働保険の年度更新——初めての法人が押さえるべき3つのステップ
ステップ1:賃金集計表を作成する
年度更新では、2025年4月1日〜2026年3月31日(前年度)に支払った賃金の総額を集計する必要があります。集計対象は「労災保険の対象者」と「雇用保険の対象者」で異なる場合があるため、注意してください。
- 労災保険:パート・アルバイト・日雇いを含む全従業員が対象
- 雇用保険:週所定労働時間20時間以上かつ31日以上雇用見込みの従業員が対象
ステップ2:保険料を計算する
賃金総額に保険料率を乗じて計算します。2026年度の保険料率は申告書に印字されていますが、業種によって労災保険率が異なります。たとえば、一般的なオフィスワーク(その他の各種事業)の労災保険率は1000分の3、建設事業であればさらに高い料率が適用されます。
ステップ3:申告書の記入・納付
送付された申告書に集計結果を記入し、金融機関・労働基準監督署・ハローワークの窓口、または電子申請(e-Gov)で提出します。概算保険料が40万円以上の場合は最大3回に分割して納付することも可能です。
注意:年度更新を期限までに行わなかった場合、政府が保険料を決定し、さらに追徴金(保険料の10%)が課される可能性があります。「届出書が届いていない」「届いたが放置していた」という事態を避けるため、5月末までに前年度の賃金台帳を整理しておきましょう。
04算定基礎届——標準報酬月額の「定時決定」のしくみ
算定基礎届は、4月・5月・6月に実際に支払った報酬の平均額から新しい標準報酬月額を決定する届出です。ここで決定された標準報酬月額は、原則として2026年9月〜2027年8月までの1年間適用されます。つまり、この届出が今後1年間の社会保険料に直結するため、正確な記入が求められます。
届出に必要な情報
- 各被保険者の4月・5月・6月の報酬支払額(通勤手当を含む)
- 各月の支払基礎日数(出勤日数ではなく、給与計算の基礎となった日数)
- 現在届出ている標準報酬月額(届出用紙に印字済み)
パートタイマーについては、支払基礎日数が17日未満の月は計算から除外するなど、細かいルールがあります。従業員が少ないからといって簡単とは限りませんので、給与明細と出勤記録を事前にそろえておくことが重要です。
05届出を効率よく乗り切るための実務チェックリスト
少人数の法人でも、以下のチェックリストに沿って準備を進めれば、慌てずに期限に間に合わせることができます。
- 5月中旬まで:前年度の賃金台帳を確定させる(年度更新の準備)
- 5月下旬:届出書類が届いたら開封し、印字内容(事業所情報・保険料率)に誤りがないか確認する
- 6月初旬:4月・5月の給与が確定したら、算定基礎届用の報酬データを整理し始める
- 6月中旬まで:年度更新の申告書を完成させ、提出・納付を済ませる
- 6月下旬:6月分の給与が確定したら、算定基礎届を記入する
- 7月1日〜7月10日:算定基礎届を年金事務所に提出する
- 6月の給与支給時:住民税の新年度税額で天引き額を切り替える
電子申請(e-Gov)を利用すると窓口に出向く手間が省け、受付状況もオンラインで確認できます。初回は事前準備(電子証明書の取得やアカウント登録)に時間がかかるため、5月中に環境を整えておくことをおすすめします。
06よくある失敗パターンと対処法
失敗1:届出書類を見落とす
年度更新の申告書は緑色の大きな封筒で届きますが、他の郵便物に紛れて開封が遅れることがあります。届出書を受け取ったらすぐに中身を確認し、提出期限をカレンダーに登録してください。
失敗2:賃金の集計範囲を間違える
年度更新では「役員報酬」は原則として集計対象外ですが、兼務役員(使用人兼務役員)の給与部分は対象になるなど、判断が難しいケースがあります。迷った場合は、管轄の労働基準監督署に事前に確認しましょう。
失敗3:算定基礎届で通勤手当を含め忘れる
所得税では非課税となる通勤手当も、社会保険の報酬には含まれます。集計漏れがあると標準報酬月額が正しく決定されないため、必ず含めて計算してください。
07専門家への依頼も選択肢に
労働保険の年度更新は社会保険労務士の業務範囲ですが、税理士が顧問として給与計算をサポートしている場合は、必要なデータの整理や社労士との連携をスムーズに進めることが可能です。当事務所でも、顧問先の皆さまに対して、届出スケジュールのリマインドや賃金台帳の整備についてサポートを行っています。
「手続きの全体像は理解できたが、自社のケースで判断に迷う部分がある」という方は、早めに専門家に相談されることをおすすめします。期限直前の6月下旬〜7月上旬は社労士事務所・税理士事務所ともに繁忙期となるため、余裕をもって動くことが大切です。
- 6月〜7月は「労働保険の年度更新(期限:7月10日)」と「社会保険の算定基礎届(期限:7月10日)」の届出が集中する時期
- 年度更新は前年度の賃金総額をもとに保険料を精算・申告する手続き。届出を怠ると追徴金(10%)のリスクがある
- 算定基礎届は4月〜6月の報酬をもとに標準報酬月額を決定する届出で、今後1年間の社会保険料に影響する
- 5月中に賃金台帳の整理と電子申請環境の準備を済ませ、6月中旬までに年度更新を完了させるスケジュールが理想
- 判断に迷う点があれば、期限に余裕をもって社労士・税理士に相談することでペナルティを防げる
