「法人成りしたのに、個人時代の税金がまだ届くんですか?」——2026年に入って法人を設立された経営者の方から、こうしたご相談が増えています。法人成り直後の年は、個人時代の所得に基づく住民税や個人事業税の納付書が届く一方で、新法人での役員報酬に対する源泉徴収や住民税の特別徴収も始まり、まるで「二重に税金を取られている」ように感じてしまうものです。しかしこれは二重課税ではなく、課税のタイミングのズレによるものです。本記事では、このズレの正体を解き明かし、納付スケジュールを時系列で整理する方法を解説します。
01「二重課税」と感じる原因はタイムラグにある
結論から言えば、法人成り後に届く個人時代の住民税・事業税は、二重課税ではありません。住民税と個人事業税はいずれも「前年の所得」に基づいて計算され、翌年度に課税される仕組みだからです。
住民税は「前年課税」が大原則
住民税は、前年1月1日から12月31日までの所得をもとに、翌年6月から翌々年5月にかけて納付します。たとえば2025年(令和7年)に個人事業で利益を上げていた場合、その住民税は2026年6月以降に届きます。法人を2026年1月に設立していても、2025年分の個人所得に対する住民税は当然に課税されます。
個人事業税も後からやってくる
個人事業税は、前年の事業所得が年間290万円(事業主控除)を超えた場合に課税されます。納付書は例年8月頃と11月頃の2回に分けて届きます。2025年分の事業所得に対する個人事業税は、2026年の8月・11月に届くため、法人成り後であっても支払い義務があります。
つまり、法人成りした2026年には次のような税金が同時進行で発生します。
- 個人時代(2025年分)の所得に対する住民税・個人事業税の納付
- 法人の役員報酬に対する源泉所得税の納付
- 法人の役員報酬に対する住民税の特別徴収(ただし開始時期は後述)
これらが重なるため、体感として「二重に取られている」と感じるわけです。
02法人成り後の納付スケジュールを時系列で整理する
ここでは、2025年12月まで個人事業を営み、2026年1月に法人を設立して役員報酬の受給を開始したケースを例に、2026年の税金の納付スケジュールを整理します。個人事業時代の事業所得を600万円、法人成り後の役員報酬を月額40万円と仮定します。
2026年1月〜5月:源泉所得税の納付が始まる
法人を設立し役員報酬の支給を開始すると、毎月の給与から源泉所得税を天引きし、原則として翌月10日までに納付します(納期の特例の届出をした場合は半年に1回)。この段階では、住民税の特別徴収はまだ始まっていません。
2026年6月:住民税の通知が届く要注意月
6月は住民税の年度切り替え月です。2025年分の個人所得に基づく住民税の納税通知書が届きます。法人成りしたばかりの場合、この住民税は「普通徴収」として個人宛てに届くのが一般的です。年税額を4回(6月・8月・10月・翌年1月)に分けて自分で納付する形になります。
仮に2025年の課税所得が600万円であれば、住民税は概算で約60万円前後(税率約10%)です。これが6月にまとめて通知されるインパクトは小さくありません。
ポイント:法人成り初年度は、住民税が「普通徴収(自分で納付)」で届くケースがほとんどです。これは、法人設立直後は給与支払報告書の提出実績がなく、市区町村が特別徴収に切り替えるための情報を持っていないためです。法人で特別徴収に切り替えたい場合は、市区町村に「特別徴収への切替届出書」を提出する必要があります。
2026年8月・11月:個人事業税の納付書が届く
2025年分の事業所得に基づく個人事業税の納付書が届きます。税率は業種によりますが、多くの場合5%です。事業所得600万円の場合、事業主控除290万円を差し引いた310万円に対して約15万5千円が課税されます(青色申告特別控除前の金額で計算される点に注意)。
2026年12月・翌年1月:住民税の残りの納付
普通徴収の3期目(10月)・4期目(翌年1月)の納付が続きます。法人の資金繰りとは別に、個人の預金口座から支出するため、見落としがちです。
注意:個人事業税は、法人成り年の確定申告で廃業日までの事業所得を申告した場合、その分の事業税も翌年に課税されます。つまり2026年中に個人事業を一部でも営んでいた場合(引継ぎ期間など)、2027年にもう一度個人事業税が届く可能性があります。廃業届の提出日と所得の帰属期間を正確に把握しておきましょう。
03法人の資金繰りに「個人の税金」を織り込む方法
法人成り直後にありがちな失敗は、法人の事業計画やキャッシュフロー予測に「個人時代の税金」を入れていないことです。以下の手順で資金繰りに組み込みましょう。
- 前年の確定申告書を確認する:2025年分の確定申告書の課税所得を確認し、住民税(約10%)と個人事業税(約5%、控除後)の概算額を把握します。
- 納付月を資金繰り表に記入する:住民税は6月・8月・10月・翌年1月、個人事業税は8月・11月を目安にキャッシュフロー表に反映します。
- 役員報酬の手取りから逆算する:個人の住民税を普通徴収で支払う場合、役員報酬の手取りから充てることになります。生活費に加えてこの税金が出ていく前提で報酬額を設定しましょう。
- 法人から個人への資金移動を計画する:個人の預金残高が不足する場合は、役員報酬とは別に役員貸付金の返済原資を確保するなど、法人と個人の間の資金移動を計画的に行いましょう。
04普通徴収と特別徴収の切り替えタイミング
法人成り後、いつから住民税の特別徴収(給与天引き)に切り替わるのかは、多くの経営者が疑問に思うポイントです。
特別徴収が始まるのは最短で翌年6月
2026年1月に法人を設立し、同年中に役員報酬を支給した場合、法人は翌年1月末までに市区町村へ「給与支払報告書」を提出します。これを受けて市区町村が特別徴収税額を決定し、2027年6月から特別徴収が開始されます。
つまり、2026年度の住民税(2025年分所得ベース)は原則として普通徴収、2027年度の住民税(2026年分所得ベース)から特別徴収に切り替わるのが標準的な流れです。
年度途中での切り替えも可能
市区町村によっては、年度途中でも普通徴収から特別徴収への切り替えを受け付けています。届出書を提出すれば、未到来の納期分から特別徴収に移行できる場合がありますので、お住まいの市区町村に確認してみてください。
05法人成り初年度に押さえておきたい実務チェックリスト
最後に、法人成り初年度の住民税・事業税に関して、見落としやすい実務ポイントをまとめます。
- 個人の確定申告(廃業年分)は翌年3月15日までに必ず行う
- 廃業届・青色申告の取りやめ届出書の提出を忘れない
- 住民税の普通徴収の納付書が届いたら、納期限と金額を資金繰り表に即反映する
- 個人事業税は青色申告特別控除「前」の金額で計算されるため、想定より高くなることがある
- 予定納税(所得税)が発生する場合は、減額申請の検討も必要
- 法人の給与支払報告書を期限内に提出し、翌年度からの特別徴収をスムーズに開始する
- 法人成りした年に届く住民税・個人事業税は「前年の個人所得」に対するもので、二重課税ではなく課税タイミングのズレが原因
- 住民税は6月・8月・10月・翌年1月、個人事業税は8月・11月の納付スケジュールを事前に把握し、資金繰り表に織り込む
- 法人成り初年度の住民税は普通徴収で届くのが一般的。特別徴収への切り替えは最短で翌年6月から
- 前年の確定申告書から住民税(約10%)・個人事業税(約5%)の概算額を早めに試算し、役員報酬の設定や個人の資金計画に反映する
- 廃業届の提出日と所得の帰属期間を正確に管理し、翌年以降に届く税金の有無も確認しておく
