「展示会で配るサンプル品の製造原価は、広告宣伝費で落としていいの?」「取引先に渡す試供品は交際費になるのでは?」——創業期のスタートアップや個人事業主の方から、こうしたご質問を数多くいただきます。サンプル品やノベルティは、配布先・目的によって勘定科目が変わり、処理を誤ると税務調査で否認されるリスクもあります。本記事では、2026年7月時点の税制をもとに、正しい科目の選び方から期末在庫の取扱い、消費税の仕入税額控除まで一気に解説します。

01サンプル品・試供品の費用は「経費」になる——基本の考え方

結論から言えば、事業に関連して製造・購入したサンプル品や試供品の原価は、原則として経費(損金)に算入できます。ただし「どの勘定科目で計上するか」が重要であり、ここを間違えると法人税・所得税の計算に影響が出ます。

具体的には、次の3つの科目が候補になります。

  • 広告宣伝費——不特定多数に対する自社のPRを目的とした支出
  • 販売促進費(販促費)——売上増加を直接の目的とした支出(値引きやキャンペーン関連)
  • 交際費等——特定の取引先との関係維持・構築を目的とした支出

いずれに該当するかは「誰に・何の目的で配布するか」で決まります。以下、判定基準を掘り下げていきましょう。

02広告宣伝費・販売促進費・交際費——3つの判定基準

不特定多数への配布は「広告宣伝費」

展示会・イベント会場で来場者に自社製品のサンプルを無料配布するケース、街頭でチラシと一緒にノベルティを手渡すケースなどは、配布先が不特定多数の一般消費者であるため「広告宣伝費」に該当します。社名ロゴ入りのボールペンやエコバッグなどの少額ノベルティも同様です。

法人税基本通達61の4(1)-9では、不特定多数の者に対するカレンダー・手帳・手ぬぐい等の配布費用は交際費に含めないと定められており、少額の宣伝用物品は広告宣伝費として処理して問題ありません。

販売に直結する配布は「販売促進費」

たとえば、新商品の発売に合わせて既存顧客全員にトライアルキットを送付するケースや、ECサイトの購入者に次回購入を促すサンプルを同梱するケースなどは「販売促進費」として整理するのが適切です。広告宣伝費との厳密な線引きは難しい場面もありますが、「売上への直接的な貢献を狙った施策かどうか」がポイントになります。

なお、広告宣伝費と販売促進費はどちらも全額が損金算入できるため、法人税の計算上はどちらに計上しても結果は同じです。ただし、管理会計上は区分しておくと、後から費用対効果を検証しやすくなります。

特定の取引先への贈答は「交際費」

一方、特定の取引先や得意先にだけ自社商品を贈答する場合は、たとえそれが「サンプル」と呼ばれていても、実態としては交際費に該当します。たとえば「A社の担当者に新商品を10セット送った」といったケースでは、相手が特定されており関係維持の意図があるため交際費として扱われます。

交際費は、資本金1億円以下の法人であれば年間800万円まで損金算入が可能です(租税特別措置法第61条の4)。個人事業主の場合は、業務上の必要性があれば交際費として必要経費に算入できますが、あまりに高額な場合は「業務との関連性」を問われることがあります。

ポイント:判定の決め手は「不特定多数か、特定の相手か」です。展示会での無差別配布なら広告宣伝費、特定取引先だけに送るなら交際費——この原則を押さえておけば、ほとんどのケースで迷わなくなります。

03具体的な仕訳例で確認しよう

ここでは、創業期のスタートアップでよくあるシーンを想定した仕訳例を示します(税込経理方式・消費税10%の場合)。

例1:展示会で配布するサンプル品を外注製造した場合

サンプル品500個を1個あたり税込330円(税抜300円)で製造委託し、展示会当日にすべて配布した場合:

(借方)広告宣伝費 165,000円 /(貸方)普通預金 165,000円

不特定多数の来場者に配布するため、全額を広告宣伝費として計上します。

例2:得意先5社にだけ自社新商品を贈答した場合

自社製品(原価1セット税込5,500円)を5社に各1セット送付した場合:

(借方)交際費 27,500円 /(貸方)製品(または仕入) 27,500円

特定の取引先への贈答であるため、交際費として処理します。

04期末に残ったサンプル品——在庫計上は必要か?

「展示会用に作ったサンプルが200個余ってしまった」というケースは珍しくありません。この場合、期末時点で手元に残っているサンプル品は棚卸資産として計上する必要があります。

理由はシンプルで、まだ「配布」という行為が完了していないため、費用として確定していないからです。配布した分だけが当期の経費となり、未配布分は「貯蔵品」や「仕掛品」として資産計上し、翌期以降に配布した時点で経費に振り替えます。

仕訳のイメージ

展示会用サンプル500個(1個あたり税抜300円)を製造し、期末までに300個配布、200個が未配布の場合:

【配布時】(借方)広告宣伝費 90,000円 /(貸方)貯蔵品 90,000円

【期末】貯蔵品として60,000円(200個×300円)が貸借対照表に残ります。

注意:「サンプルだから在庫計上しなくてよい」と思い込んでいるケースが少なくありません。税務調査では期末に残っている現物と帳簿の整合性がチェックされます。未配布のサンプル品がある場合は、必ず実地棚卸の対象に含めてください。

05消費税——仕入税額控除は取れるのか?

サンプル品・試供品の購入・製造に係る消費税は、原則として仕入税額控除の対象になります。事業として行う資産の譲渡等に要する課税仕入れに該当するためです。

ただし、以下の点に留意してください。

  • 免税事業者からの仕入れについては、2023年10月開始のインボイス制度により、適格請求書がなければ原則として仕入税額控除が認められません。2026年9月30日までは経過措置として80%の控除が可能ですが、2027年10月以降は50%に縮小されます。
  • 交際費に該当する支出であっても、課税仕入れであれば消費税の仕入税額控除は可能です。法人税法上の損金不算入と消費税の仕入税額控除は別の論点ですので、混同しないようにしましょう。

06よくある失敗パターンと対策

失敗1:すべて「広告宣伝費」で一括処理してしまう

特定の取引先への贈答分まで広告宣伝費に含めると、税務調査で交際費認定されるリスクがあります。配布先リストを残し、科目を分けて処理しましょう。

失敗2:高額なサンプルを交際費の枠外で処理してしまう

1個あたりの単価が高い自社製品を特定の取引先に配布した場合、たとえ「テスト用」と説明しても交際費とみなされることがあります。社内での配布稟議書や送付記録を保存しておくことが大切です。

失敗3:期末在庫の計上を忘れる

前述のとおり、未配布分は貯蔵品として計上が必要です。特に3月決算法人は年度末の展示会シーズンと重なりやすいため、棚卸のタイミングに注意してください。

この記事のまとめ
  • サンプル品・試供品の原価は事業関連性があれば経費になる。勘定科目は配布先と目的で決まる。
  • 不特定多数への配布は「広告宣伝費」、販売促進目的なら「販売促進費」、特定取引先への贈答は「交際費」に区分する。
  • 交際費は資本金1億円以下の法人で年間800万円の損金算入限度額がある。広告宣伝費・販売促進費は全額損金算入可能。
  • 期末に未配布のサンプル品が残っている場合は、貯蔵品として棚卸資産に計上する必要がある。
  • 消費税の仕入税額控除は原則として可能だが、インボイス制度への対応状況を確認すること。
  • 配布先リスト・稟議書・送付記録を保存しておくことで、税務調査時のリスクを大幅に軽減できる。