「取引先のフリーランスから、契約書の書面交付や支払条件の変更を求められた——どう対応すればいい?」。フリーランス・事業者間取引適正化等法(以下「フリーランス保護新法」)が2024年11月1日に施行されてから約1年半。創業期の小規模法人や個人事業主が”発注者”の立場で外部に業務委託するケースは珍しくありませんが、法令の義務を正しく把握できていない方も多いのではないでしょうか。本記事では、2026年4月時点の最新実務をふまえ、発注者として押さえるべき3つの義務と契約書修正のポイント、違反リスクを整理します。

01フリーランス保護新法とは——創業期こそ「発注者」になりやすい

フリーランス保護新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、フリーランスに業務を委託する発注事業者に対し、書面等による取引条件の明示や報酬の支払期日の設定、不当な行為の禁止などを義務づける法律です。

ここで見落とされがちなのが、「従業員を使用しない個人事業主」であるフリーランスに仕事を発注する側であれば、たとえ創業したばかりの一人法人や個人事業主であっても”発注事業者(特定業務委託事業者)”に該当しうるという点です。創業初期は自社リソースが少ないため、Webデザイン・ライティング・経理事務などを外部フリーランスへ委託するケースが多く、むしろ新法の影響を真っ先に受ける立場にあります。

02発注者が守るべき3つの義務を整理する

義務1:取引条件の書面等による明示(第3条)

業務委託をした場合、直ちに以下の事項を書面またはメール等の電磁的方法でフリーランスに交付しなければなりません。

  • 発注事業者・フリーランス双方の名称
  • 業務委託の内容
  • 報酬の額(算定方法が決まっている場合はその方法)
  • 報酬の支払期日
  • 業務の遂行に必要な事項として政令で定めるもの(納期、検収方法など)

口頭だけの発注や、チャットで「よろしくお願いします」と送るだけでは不十分です。「いつも頼んでいるから大丈夫」という感覚は危険ですので、取引のたびに条件を明示する運用を整えましょう。

義務2:報酬支払期日の60日ルール(第4条)

フリーランスの給付を受領した日(納品日や検収完了日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬を支払う義務があります。この義務は、従業員を使用する発注事業者(特定業務委託事業者)に適用されます。一人法人であってもパートやアルバイトを1人でも雇用していれば該当する点に注意が必要です。

ポイント:「月末締め・翌月末払い」の支払サイトであれば、最長でも約60日以内に収まる計算になりますが、「月末締め・翌々月末払い」は最長約90日となり60日ルールに抵触します。自社の支払サイトを改めて確認しましょう。

義務3:7つの禁止行為(第5条)

政令で定める一定期間以上(1か月以上)の業務委託を行う特定業務委託事業者には、以下の行為が禁止されています。

  1. 受領拒否——正当な理由なく納品物の受領を拒むこと
  2. 報酬の減額——あらかじめ定めた報酬を正当な理由なく減額すること
  3. 返品——正当な理由なく納品物を返品すること
  4. 買いたたき——通常の対価に比べて著しく低い報酬を不当に設定すること
  5. 購入・利用強制——自社の商品やサービスの購入を強制すること
  6. 不当な経済上の利益提供要請——金銭・役務等の提供を不当に要請すること
  7. 不当な給付内容の変更・やり直し——費用を負担せずに仕様変更ややり直しを強制すること

これらは下請法の禁止行為と類似しています。下請法の適用がなかった小規模事業者間の取引にも、本法によって同様の規律が及ぶようになったと理解してください。

03契約書テンプレートの修正ポイント——チェックリスト5項目

取引先から見直しを求められた場合、既存の契約書テンプレートについて少なくとも以下の5点を確認しましょう。

  1. 報酬額・算定方法の明記:「別途協議」だけでは明示義務を満たしません。具体的な単価や計算式を記載し、見積書・発注書を別途交付する場合はその旨を本契約に紐づけましょう。
  2. 支払期日の明記:「検収完了後60日以内」の範囲で具体的な日付条件(例:納品月の翌月末日)を記載します。
  3. 検収期間の上限設定:検収が遅れると支払期日も後ろ倒しになるため、検収期間を「納品後○営業日以内」と定め、60日ルールに抵触しない設計にします。
  4. 仕様変更・やり直し時の費用負担条項:発注者都合の変更が生じた場合、追加費用を発注者が負担する旨を明記し、禁止行為(不当な給付内容の変更・やり直し)に抵触しない建付けにします。
  5. 交付方法の特定:書面・電子メール・クラウドサービスなど、取引条件の明示手段を契約書に明記しておくと運用がスムーズです。

注意:契約書を整備しても、実態として口頭ベースで条件を変更していれば法令違反のリスクがあります。チャットツールでの追加発注であっても、金額・納期・仕様を記録に残すルールを社内で徹底してください。

04違反時のリスク——勧告・命令・公表・罰金

フリーランス保護新法に違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣が調査・指導・勧告を行う権限を持ちます。勧告に従わない場合は命令が出され、命令に違反すると50万円以下の罰金(法人には両罰規定で法人にも罰金)が科される可能性があります。また、勧告・命令の事実は企業名とともに公表されることがあり、信用へのダメージは罰金額以上に大きいといえます。

創業期のスタートアップにとって、取引先やVC・金融機関からの信頼は生命線です。「知らなかった」では済まされないため、法令対応を後回しにしないことが重要です。

05実務で押さえたいQ&A

「従業員がいない一人法人」でも60日ルールは適用される?

60日以内の支払期日の義務(第4条)と7つの禁止行為(第5条)は「特定業務委託事業者」、すなわち従業員を使用する事業者に適用されます。従業員を雇用していない一人法人の場合は、書面等による取引条件の明示義務(第3条)が主な義務となります。ただし、短時間パートや期間雇用でも「従業員を使用する」に該当しうるため、判断に迷う場合は専門家に相談しましょう。

すでに締結済みの契約はどうすればいい?

施行日(2024年11月1日)以降に新たに行う業務委託から適用されます。既存契約であっても、契約更新・自動更新のタイミングで新法に適合する内容へアップデートするのが望ましい対応です。2026年4月現在、施行から1年半が経過しているため、早急に見直しを進めてください。

06まとめ——早めの対応でトラブルを防ぐ

この記事のまとめ
  • フリーランス保護新法は2024年11月に施行済み。創業期の小規模法人・個人事業主も「発注者」として義務を負う。
  • 発注者の主な義務は「取引条件の書面等による明示」「報酬支払期日の60日ルール」「7つの禁止行為の遵守」の3つ。
  • 契約書テンプレートは、報酬額・支払期日・検収期間・仕様変更時の費用負担・交付方法の5点を重点的に見直す。
  • 違反すると勧告・命令・公表・罰金のリスクがあり、スタートアップの信用に大きなダメージとなりうる。
  • 「月末締め・翌々月末払い」など支払サイトが長い場合は早急に短縮を検討する。