「事業計画は完璧なのに、創業融資の審査に落ちてしまった」——その原因が、数年前のクレジットカードの延滞やスマホ分割払いの滞納にあったというケースは決して珍しくありません。創業期は事業実績がないため、金融機関が頼りにするのは経営者個人の信用情報です。本記事では、信用情報の開示請求の手順から、チェックすべき項目、融資申込前に改善できるポイントまで、税理士の視点で整理します。

01なぜ創業融資で「個人の信用情報」が重視されるのか

一般的な事業融資では、直近2〜3期分の決算書や資金繰り表が審査の中心になります。しかし創業期にはこれらの書類がほとんど存在しません。日本政策金融公庫の新創業融資制度や、自治体の制度融資を利用する場合も同様で、金融機関は「この経営者にお金を貸して大丈夫か」を判断する材料として、個人の信用情報を確認します。

具体的には、以下の信用情報機関のデータが参照されます。

  • CIC(株式会社シー・アイ・シー):クレジットカード会社・信販会社が主に加盟
  • JICC(株式会社日本信用情報機構):消費者金融・一部の銀行が加盟
  • KSC(全国銀行個人信用情報センター):銀行・信用金庫が加盟

日本政策金融公庫はCICとKSCの両方を参照するとされています。信用金庫や地方銀行による制度融資の場合はKSCに加え、保証協会がCICやJICCを確認することもあります。つまり「どこに申し込むか」に関わらず、経営者個人の信用情報はほぼ確実にチェックされると考えてください。

02信用情報に記録される内容と「事故情報」の保有期間

記録される主な情報

CICの信用情報には、契約ごとに以下のような内容が記録されています。

  • 契約年月日・契約の種類(クレジットカード、割賦販売など)
  • 利用残高・請求額
  • 直近24か月分の入金状況(毎月の支払いが正常だったかどうか)
  • 延滞の有無・延滞解消日
  • 債務整理・自己破産などの事故情報(異動情報)

入金状況の記号を読む

CICの開示報告書には、直近24か月の入金状況が「$」「A」「P」などの記号で表示されます。特に注意すべきは以下です。

  • $(ドルマーク):請求通りに入金があった(正常)
  • A:お客様の事情により入金がなかった(未入金・延滞)
  • P:請求額の一部のみ入金があった
  • −(ハイフン):請求も入金もなかった

融資審査で最も問題になるのは「A」の記録です。24か月中に複数の「A」があると、金融機関は返済能力に疑問を抱きます。1回だけの「A」であっても、担当者から理由を問われることがあります。

事故情報(異動情報)の保有期間

61日以上または3か月以上の延滞があると「異動」と記録され、いわゆるブラックリスト入りの状態になります。保有期間の目安は以下のとおりです。

  • CIC:延滞解消日から5年間
  • JICC:延滞解消日から5年間(ただし契約終了後の場合は5年間)
  • KSC:自己破産の場合は7年間(2022年11月以降の登録分は7年、官報情報として10年とされていたものが短縮)

注意:スマートフォンの端末代金を分割払いにしている場合、その支払いも割賦販売契約として信用情報に登録されます。「携帯料金を滞納した」という認識でも、実際には端末代金の延滞として「A」マークが記録されていることがあります。創業融資の審査落ちの原因として、実務上非常に多いパターンです。

03融資申込前にやるべきセルフチェック——信用情報の開示請求手順

融資に申し込む前に、必ずご自身の信用情報を開示請求で確認しましょう。2026年4月現在の手順は以下のとおりです。

CICの開示請求方法

  1. インターネット開示:CIC公式サイトからマイナンバーカードを用いた本人認証で申請。手数料500円(税込)。即時に結果をダウンロードできるため、最も手軽です。
  2. 郵送開示:申込書と本人確認書類を郵送。手数料1,500円(税込、定額小為替)。結果が届くまで10日前後かかります。

JICCの開示請求方法

  1. スマートフォンアプリ:専用アプリから本人確認を行い申請。手数料1,000円(税込)。
  2. 郵送:手数料1,000円(税込)。

KSC(全国銀行個人信用情報センター)の開示請求方法

  1. インターネット開示:本人認証後にオンラインで申請。手数料1,000円(税込)。
  2. 郵送:手数料1,124円(税込)。

日本政策金融公庫への申し込みを検討している方は、少なくともCICとKSCの2機関は確認しておくことをおすすめします。信用金庫や保証協会付き融資も視野に入れるなら、JICCも含めた3機関すべてを確認するのが安心です。

ポイント:開示請求は融資申込の2〜3か月前に行うのが理想です。問題が見つかった場合に対処する時間を確保できますし、改善に動いた結果を反映させてから申し込むことができます。

04融資申込前にできる信用情報の改善策

1. 延滞中の支払いがあれば即時に解消する

現在進行形の延滞がある場合、これを解消しない限り融資が通ることはまずありません。延滞を解消すれば「異動」の記録は残りますが、CICの場合は解消日から5年で消えます。まず現状の延滞をすべて解消することが最優先です。

2. 不要なクレジットカード・ローンを整理する

使っていないクレジットカードのキャッシング枠も「借入可能額」として評価されることがあります。融資審査前に不要なカードを解約し、借入余力があるように見せることは有効です。ただし、長期間利用しているカードを解約すると信用履歴が短くなる場合もあるため、メインカード1〜2枚は残しておきましょう。

3. 少額の支払いを確実に継続して「$」を積み上げる

CICの入金状況は直近24か月分が表示されます。過去に「A」があっても、その後の月が「$」で埋まっていれば、金融機関の担当者に「現在は改善している」という印象を与えることができます。24か月すべてを「$」にするには2年間の継続が必要ですが、直近12か月が正常であるだけでも評価は変わります。

4. 複数の金融機関への同時申込を避ける

短期間に複数の金融機関へ融資を申し込むと、信用情報に照会履歴が残ります。これが「申込ブラック」と呼ばれる状態です。照会履歴はCICの場合6か月間保有されます。本命の金融機関を決めたうえで、申込先を絞ることが大切です。

5. 消費者金融からの借入残高を減らす

消費者金融の借入が残っていると、金融機関は「資金繰りに余裕がない人」と判断する傾向があります。可能な限り完済してから融資に申し込みましょう。完済が難しい場合でも、残高を大幅に圧縮しておくことが重要です。

05信用情報に問題がある場合の対処法

開示請求の結果、「異動」の記録が残っている場合はどうすればよいでしょうか。

まず、記録が誤りである可能性を確認します。実際に支払っているのに延滞と記録されている場合は、信用情報機関に調査依頼を出すことができます。CICでは「信用情報の調査・訂正等の申出」という手続きが用意されています。

記録に誤りがなく、異動が事実である場合は、原則として保有期間が経過するのを待つしかありません。ただし、創業のタイミングを調整することは可能です。たとえば延滞解消日が2022年6月であれば、CICでの記録消去は2027年6月頃になります。融資申込を数か月遅らせるだけで状況が好転するケースもあるため、タイムラインを逆算して計画を立てることが重要です。

また、異動が残っている期間であっても、十分な自己資金(目安として創業資金の3分の1以上)を準備し、事業計画の精度を高めることで融資が通った事例も実務上は存在します。信用情報に不安がある場合は、融資申込前に専門家へ相談し、戦略を立てたうえで臨むことをおすすめします。

06税理士として伝えたいこと——信用情報は「過去の通信簿」ではなく「これからの信頼の土台」

信用情報に傷があると、どうしても後ろ向きな気持ちになりがちです。しかし、信用情報は一生変わらないものではありません。延滞を解消し、正常な支払いを継続すれば、確実に改善していきます。

大切なのは、融資を申し込む前に自分の信用情報を正確に把握し、問題があれば対処してから臨むことです。「知らなかった」で審査に落ちてしまうのは、創業の貴重なタイミングを失うことにもつながります。

当事務所では、創業融資を見据えた資金計画のご相談をお受けしています。信用情報の開示結果をお持ちいただければ、融資申込のタイミングや改善すべきポイントについて具体的なアドバイスが可能です。

この記事のまとめ
  • 創業融資では事業実績がないため、経営者個人の信用情報(CIC・JICC・KSC)が審査の重要な判断材料になる
  • スマホ端末の分割払い滞納も信用情報に「A」として記録され、審査落ちの原因になる
  • 融資申込の2〜3か月前に信用情報の開示請求を行い、セルフチェックしておくことが重要
  • 延滞中の支払いの解消、不要カードの整理、正常入金の積み上げなど、申込前にできる改善策は複数ある
  • 異動情報がある場合でも、保有期間の経過や自己資金の充実によって融資が通る可能性はある
  • 不安がある場合は融資申込前に税理士等の専門家に相談し、戦略を立てて臨むことが大切