「従業員との暑気払いやBBQの費用を経費にしたいけれど、税務調査で否認されたらどうしよう」——創業間もないスタートアップや少人数法人の経営者から、夏になると毎年のように寄せられるご相談です。福利厚生費として認められるのか、交際費になるのか、それとも従業員への給与課税が発生するのか。2026年の税制も踏まえ、線引きのポイントと否認されないための記録術を具体的に解説します。

01夏のイベント費用が該当しうる3つの勘定科目

暑気払いやBBQ、チームビルディングイベントの支出は、その内容と参加者の範囲によって税務上の取り扱いが大きく変わります。まずは該当しうる3つの科目を整理しましょう。

(1)福利厚生費

全従業員を対象とした社内行事であり、社会通念上相当な金額の範囲内であれば「福利厚生費」として損金算入が認められます。従業員個人への給与課税も発生しません。

(2)交際費等

取引先や外部関係者が参加している場合、または特定の役員・従業員のみを対象とした飲食の場合は「交際費等」に区分されます。資本金1億円以下の法人であれば年間800万円までの損金算入枠がありますが、それを超える部分は損金不算入となります。

(3)給与(役員報酬含む)

特定の人だけが享受する経済的利益とみなされた場合、その金額はその人への「給与」として所得税・住民税の課税対象になります。役員が対象であれば定期同額給与の要件を満たさず、法人側でも損金不算入となるケースがあり、最もダメージの大きい処理です。

ポイント:福利厚生費・交際費・給与課税の3つのうち、どれに該当するかは「参加対象者の範囲」と「1人あたりの金額の相当性」で判断されます。後述する要件をしっかり押さえましょう。

02福利厚生費として認められるための4つの要件

国税庁の通達や過去の裁決例を踏まえると、夏のイベント費用を福利厚生費として処理するためには、以下の4要件を満たす必要があります。

  1. 全従業員を対象としていること
    部署・役職に関わらず、全従業員に参加の機会が平等に与えられていることが必要です。「役員だけの暑気払い」「営業部だけのBBQ」は原則として対象外です。ただし、部署単位の行事であっても、全部署で同様の行事が行われていれば認められる余地があります。
  2. 社会通念上相当な金額であること
    明確な法定基準はありませんが、実務上は1人あたり5,000円〜10,000円程度が一つの目安とされています。1人あたり数万円を超える豪華な内容になると、福利厚生費としての相当性が疑われます。
  3. 事業年度内で回数が常識的であること
    忘年会・新年会・暑気払いなど、年に数回程度であれば通常の社内行事として認められます。毎週のように開催していれば、実質的な給与とみなされるリスクが高まります。
  4. 会社が主催し、会社が直接支払っていること
    従業員個人が立て替えた後に精算する形でも構いませんが、領収書の宛名は法人名とし、支払いの流れが明確であることが重要です。

03少人数法人・スタートアップ特有の注意点

従業員が3〜5名程度の少人数法人やスタートアップでは、「全従業員対象」の要件は満たしやすい一方で、以下の点で税務調査時に疑義を持たれやすくなります。

役員比率が高い場合の問題

たとえば従業員2名・役員3名の会社で暑気払いを行った場合、参加者の過半数が役員です。形式上は全社行事でも、「実質的に役員の飲食を福利厚生費で処理しているだけではないか」と指摘される可能性があります。このような場合は、社内規程に行事の実施方針を明記し、議事録や写真で「全員参加の社内行事である」ことを立証できるようにしておくことが大切です。

家族従業員がいる場合

個人事業主で専従者(家族従業員)がいる場合、家族だけの食事会は福利厚生費として認められません。事業主本人の飲食代はそもそも必要経費にならない点も注意が必要です。法人成りしている場合であっても、役員である家族だけの参加であれば交際費または給与認定のリスクがあります。

04否認されないための「記録術」——証拠書類チェックリスト

税務調査で福利厚生費が否認される最大の原因は「記録不足」です。以下のチェックリストに沿って、イベントの都度、書類を整備しましょう。

  • 社内通知・案内文:全従業員宛に参加を呼びかけたメール・チャット・掲示物のコピー(日付入り)
  • 参加者名簿:氏名・役職を記載し、欠席者とその理由も記録する
  • 領収書・請求書:法人名宛で、日付・場所・金額・人数が明記されたもの
  • イベントの写真:日付・場所が分かる写真を数枚保管する
  • 1人あたり金額の算定メモ:総額÷参加人数を計算し、記録に残す
  • 福利厚生規程:社内行事に関する条項を盛り込んだ規程を整備しておく

注意:「後から作成した」と疑われないよう、社内通知や案内文はイベント開催前の日付で保存しましょう。ビジネスチャットツールのログをPDF出力しておくのも有効です。二次会の費用は福利厚生費として認められにくいため、一次会と明確に分けて精算・記録することをおすすめします。

05金額の目安と科目判定の早見表

以下は実務上の目安です。法令で明確な金額基準が定められているわけではありませんが、参考にしてください。

  • 1人あたり5,000円以下:福利厚生費として認められやすい。少人数でも比較的安全圏
  • 1人あたり5,000円超〜10,000円程度:全員参加・年数回であれば福利厚生費として認められる余地あり。記録の整備が特に重要
  • 1人あたり10,000円超:社会通念上の相当性を超える可能性あり。交際費または給与課税のリスクが高まる
  • 取引先が参加:金額にかかわらず交際費等に該当。1人あたり5,000円以下の飲食であれば、所定の要件を満たすことで交際費から除外可能(措法61条の4第4項)

06社内規程の整備——テンプレートのポイント

福利厚生費として処理するための裏付けとして、「福利厚生規程」を作成しておくことを強くおすすめします。規程に盛り込むべき主な項目は以下のとおりです。

  1. 目的:従業員の慰労・親睦・チームワーク向上を図ること
  2. 対象者:正社員・契約社員・パートタイマーを含む全従業員
  3. 実施時期・回数:暑気払い(7〜8月)、忘年会(12月)など年○回以内
  4. 費用上限:1人あたり○○円以内、会社が全額負担
  5. 手続き:実施前に代表者の承認を得ること、参加者名簿を作成すること

規程の作成日は実際にイベントを行う前にしておくことが重要です。創業直後であっても、就業規則の一部として早めに整備しておきましょう。

072026年度の税制で押さえておきたい関連トピック

2026年度(令和8年度)においても、少額飲食費の交際費除外制度(1人あたり10,000円以下)は引き続き適用されています。取引先を交えた会食であっても、1人あたり10,000円以下で所定の書類を保存していれば交際費等から除外できるため、社外の方が参加するイベントではこの制度の活用も検討してください。

また、インボイス制度の定着に伴い、BBQ食材の仕入れやケータリング業者への支払いについても、適格請求書(インボイス)の保存が仕入税額控除の要件となっています。イベント関連の支出でもインボイスの受領・保存を忘れないようにしましょう。

この記事のまとめ
  • 夏のイベント費用は「福利厚生費」「交際費」「給与」のいずれかに区分され、判定を誤ると税務調査で否認されるリスクがある
  • 福利厚生費として認められるには「全従業員対象」「社会通念上相当な金額(目安:1人あたり5,000〜10,000円程度)」「常識的な回数」「会社主催・会社負担」の4要件を満たすことが必要
  • 少人数法人では役員比率の高さや家族従業員のみの参加が論点になりやすいため、社内規程の整備と記録の保存が特に重要
  • 社内通知・参加者名簿・領収書・写真・1人あたり金額の算定メモをセットで保管し、「後付け」と疑われない運用を心がける
  • 2026年度も少額飲食費の交際費除外制度(1人あたり10,000円以下)やインボイス制度の要件に留意する