「夏場に食材を大量に廃棄してしまったけれど、これって経費にできるの?」「税務調査で否認されないためには何を残しておけばいい?」——創業間もない飲食店や小売業のオーナーから、毎年この時期になると寄せられるご相談です。2026年の夏も猛暑が続き、食品ロスや季節商品の売れ残りに頭を抱えている方は多いのではないでしょうか。本記事では、棚卸減耗損・商品廃棄損を確定申告で正しく計上するための要件と、税務調査に耐えうる証拠書類の残し方を、実務目線で丁寧に解説します。

01棚卸減耗損と商品廃棄損——まずは用語を正しく理解する

棚卸減耗損とは

棚卸減耗損とは、帳簿上の在庫数量と実際の在庫数量の差異から生じる損失をいいます。原因としては、蒸発・乾燥などの自然減耗、盗難、数量の計測誤差などが挙げられます。飲食業では液体調味料の蒸発や生鮮食品の目減りが典型例です。

商品廃棄損とは

商品廃棄損は、品質劣化・消費期限切れ・破損などにより販売不能となった在庫を処分した際に計上する損失です。夏場の飲食店で賞味期限切れの食材を捨てるケース、小売業で季節外れとなった商品を廃棄するケースがこれにあたります。

棚卸資産の評価損との違い

混同されやすいのが「棚卸資産の評価損」です。評価損は在庫が手元に残っているものの、時価が帳簿価額を下回った場合に計上するものです。法人税法では、評価損の計上が認められる場面は限定的で、所得税法上も同様に厳格な要件があります。一方、廃棄損・減耗損は在庫が物理的に失われているため、適切な証拠があれば経費計上のハードルは相対的に低いといえます。

ポイント:「まだ手元にあるが価値が下がった」=評価損、「物理的になくなった・捨てた」=減耗損・廃棄損。この区別を誤ると、税務調査で計上根拠を問われた際に説明がつかなくなります。

02確定申告で廃棄損を経費計上するための3つの要件

廃棄損を確定申告で損金(必要経費)として認めてもらうためには、以下の3つの要件を満たすことが求められます。

  1. 廃棄の事実が客観的に証明できること
    いつ・何を・どれだけ・なぜ廃棄したのかを記録し、第三者が検証できる状態にしておく必要があります。
  2. 廃棄が事業上合理的な判断であること
    消費期限切れ、腐敗、法令上の販売禁止など、廃棄に至った理由が事業遂行上やむを得ないものであることが求められます。
  3. 帳簿との整合性が取れていること
    期末棚卸の数量と帳簿残高の差異が、廃棄記録と一致していることが重要です。差異の原因が不明のままでは、損金算入が否認されるリスクがあります。

03税務調査で求められる証拠書類——具体的な残し方

実際に税務調査が入った場合、調査官は「本当に廃棄したのか」「私的に消費したのではないか」「数量の水増しはないか」といった観点でチェックします。以下の書類を日常的に整備しておくことで、適正な廃棄であることを立証できます。

(1)廃棄理由書(廃棄報告書)

社内で統一フォーマットを用意し、以下の項目を記録します。

  • 廃棄日
  • 品名・商品コード
  • 数量と単価(帳簿価額)
  • 廃棄理由(消費期限切れ、腐敗、破損、季節落ちなど)
  • 廃棄方法(自社処分、廃棄業者委託など)
  • 担当者の署名または押印

個人事業主で従業員がいない場合でも、自分自身で作成し保管しておくことが大切です。Excelやスプレッドシートで管理しても構いませんが、改ざん防止の観点からPDF化して日付入りで保存しておくとより安心です。

(2)写真・動画の記録

廃棄前の商品の状態がわかる写真を撮影しておきましょう。スマートフォンで撮影する際は、日付・時刻のメタデータが残る設定にしておくのがポイントです。腐敗した食材であれば、その状態が視覚的にわかる写真が有力な証拠となります。1回の廃棄につき2〜3枚程度で十分です。

(3)廃棄業者の受領証・マニフェスト

産業廃棄物として専門業者に処理を委託した場合は、廃棄業者が発行する受領証や産業廃棄物管理票(マニフェスト)を必ず受け取り、保管してください。これは廃棄の事実を第三者が証明する最も強力な書類です。飲食店が生ゴミとして一般廃棄物で処分する場合は、ゴミ処理券の控えや自治体の回収記録を残しておくと良いでしょう。

(4)棚卸表との突合

期末の実地棚卸の際に、帳簿数量と実数量の差異を一覧にし、差異の原因(廃棄・自然減耗・販売記録漏れなど)を注記しておきます。差異原因が廃棄である場合は、上記の廃棄理由書と突合できる状態にしておくのが理想です。

注意:「廃棄した」と口頭で説明するだけでは税務調査で通用しません。特に創業1〜3年目は調査対象になりやすい時期でもあります。廃棄が発生するたびにリアルタイムで記録する習慣を、2026年の夏から始めましょう。後からまとめて作成した書類は、日付の整合性が取れず信頼性を疑われるリスクがあります。

04仕訳の具体例——飲食店で食材30万円分を廃棄した場合

たとえば、創業1年目の飲食店が2026年8月に仕入原価ベースで30万円分の食材を消費期限切れで廃棄したケースを考えます。

個人事業主の場合

所得税の確定申告では、期末棚卸高の計算において、廃棄した分を棚卸資産から除外します。結果として売上原価が増加し、事業所得が減少します。青色申告決算書の「棚卸」欄で期末在庫を実際の数量に基づいて記載すれば足りますが、廃棄の内訳がわかる別紙を添付または保管しておくことが望ましいです。

法人の場合

法人の場合は仕訳で明示的に処理します。

(借方)棚卸減耗損 300,000円 /(貸方)商品(棚卸資産) 300,000円

棚卸減耗損は売上原価の内訳科目として処理するのが一般的ですが、金額が多額の場合や異常な廃棄の場合は特別損失として計上することもあります。

05夏場に特有のリスクと創業期ならではの注意点

夏場は廃棄が集中しやすい

7〜9月は気温上昇により食品の劣化スピードが速まります。農林水産省の調査によれば、食品製造業における食品ロスの発生量は夏季に増加する傾向があり、飲食店でも同様の傾向が見られます。仕入量の見直しとあわせて、廃棄が出た際の記録体制を整えておくことが重要です。

創業期は仕入量の予測が難しい

創業1〜2年目は来客数の予測が立てにくく、結果として過剰仕入れ・大量廃棄につながりがちです。月次で廃棄率(廃棄額÷仕入額)を把握し、仕入計画にフィードバックすることで、翌期以降の廃棄ロスを削減できます。目安として、飲食業の食材廃棄率は売上高の3〜5%程度が一般的とされており、これを大幅に超える場合は仕入管理の見直しが必要です。

在庫管理と廃棄記録を一元化する

POSレジや在庫管理アプリを活用し、仕入・販売・廃棄の流れを一元管理すると、帳簿との突合が容易になります。クラウド会計ソフトと連携させれば、記帳の手間も大幅に軽減できます。

06よくある失敗パターンと対策

  • 廃棄記録を一切残していない:期末にまとめて「推定で廃棄分を計上」すると、税務調査で全額否認されるリスクがあります。都度記録を徹底しましょう。
  • 自家消費との区別がついていない:事業主自身や家族が消費した分は「自家消費」として売上計上が必要です。廃棄と自家消費を混同すると、所得の過少申告と指摘されます。
  • 廃棄業者の領収証を紛失している:領収証・受領証は最低7年間(法人は10年間の保存が推奨)保管してください。電子保存でも構いません。
この記事のまとめ
  • 棚卸減耗損・商品廃棄損は、廃棄の事実を客観的に証明できれば確定申告で経費(損金)として計上可能
  • 廃棄理由書・写真記録・廃棄業者の受領証の3点セットを都度作成・保管することが税務調査対策の基本
  • 棚卸資産の「評価損」とは区別して処理する必要がある(評価損は在庫が手元にある場合、廃棄損は物理的に失われた場合)
  • 創業期の飲食・小売業は仕入予測が困難なため、月次で廃棄率を把握し仕入計画を見直すことが重要
  • 自家消費と廃棄の混同は所得の過少申告につながるため、明確に区分して記録する