「夏物の在庫がまだ倉庫に残っている」「トレンドが変わって売れ残った商品をどう処理すればいいのか分からない」——10月は秋冬商品への切り替え時期であり、創業間もない飲食・小売・アパレル系のスタートアップにとって、在庫の評価損を計上すべきかどうかが悩ましい季節です。しかし、棚卸資産の評価損は「損金にしたい」と思って自由に計上できるものではありません。税務上の要件を満たさなければ否認されるリスクがあります。本記事では、2026年10月の決算整理を念頭に、評価損の計上要件・陳腐化の立証方法・具体仕訳を丁寧に解説します。

01そもそも棚卸資産の評価損とは何か

棚卸資産の評価損とは、仕入れたときの取得原価よりも期末時点の「時価」が著しく下落した場合に、その差額を損失として計上する会計処理です。企業会計上は「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号)に基づき、正味売却価額が帳簿価額を下回ったときに簿価の切下げを行います。

一方、法人税法上は棚卸資産の評価損の損金算入について厳格な制限が設けられています。法人税法第33条では、原則として資産の評価損は損金に算入しないとしつつ、同条第2項および法人税法施行令第68条で限定的に損金算入が認められるケースを列挙しています。創業期の経営者がまず理解すべきは、「会計上は評価損を計上できても、税務上は損金にならない場合がある」という点です。

02法人税法上、評価損が認められる3つの事由

法人税法施行令第68条第1項では、棚卸資産について評価損の損金算入が認められる事由として、主に以下の3つを定めています。

  1. 災害による著しい損傷——台風・水害・火災などで物理的に商品が損傷した場合
  2. 著しい陳腐化——型式・性能・デザイン等の変化により、当該商品の価値が著しく減少し、今後回復の見込みがないと認められる場合
  3. 上記に準ずる特別の事実——破損・型崩れ・たなざらし・品質変化等により通常の方法で販売できなくなった場合

季節商品やトレンド商品の在庫処理で最も関連するのは、2番目の「著しい陳腐化」と3番目の「これに準ずる特別の事実」です。単に「売れ残った」「値下げした」というだけでは要件を満たしません。

ポイント:法人税基本通達9-1-4では、「著しい陳腐化」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず、経済的な環境の変化に伴い当該棚卸資産の価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態をいうとされています。季節商品の場合は「シーズン経過後に通常の価額では販売できないこと」を客観的に示す必要があります。

03「著しい陳腐化」を立証するために残すべき客観的証拠

税務調査で評価損の計上が否認されないためには、陳腐化の事実を客観的な証拠で裏付けることが不可欠です。創業期の事業者が実務上準備しておくべき資料には、以下のようなものがあります。

証拠書類のリスト

  • 値下げ販売の実績データ——POSデータ・ECサイトの販売履歴・セール価格の記録など。定価の50%以下でしか売れていない実績があれば有力な証拠になります。
  • 業界のトレンド資料——ファッション誌の特集記事、業界団体のレポートなど、当該デザインや型式が市場で陳腐化していることを示す外部資料。
  • 仕入先・メーカーの廃番通知——後継モデルの発売通知や廃番の案内文書は、型式変化の客観的証拠となります。
  • 在庫の写真・状態記録——品質変化(変色、劣化など)がある場合は写真撮影と日付記録を残しましょう。
  • 社内の棚卸評価会議の議事録——誰が、いつ、どのような基準で評価損の対象品目を判定したかを記録します。

特に創業1〜2年目のスタートアップは、過年度の販売データが少ないため「この商品は売れない」という主張に説得力を持たせにくい傾向があります。外部データや同業他社の事例を活用して補強することが重要です。

0410月決算整理での実務判断フロー

2026年10月の決算整理仕訳を行う前に、以下のフローで判断を進めてください。

ステップ1:棚卸資産の実地棚卸を行う

まず在庫の現物を確認し、品目ごとに数量・取得原価・現在の状態を一覧化します。

ステップ2:正味売却価額を見積もる

「今この商品を売ったらいくらで売れるか」を合理的に見積もります。実際のセール価格、同業他社の処分価格、フリマアプリ等での相場が参考になります。ここから見込販売直接経費(送料・手数料等)を差し引いた金額が正味売却価額です。

ステップ3:取得原価と正味売却価額を比較する

正味売却価額が取得原価を「著しく」下回っているかを確認します。一般的には、時価が取得原価のおおむね50%以上下落している場合が「著しい下落」の目安とされます。

ステップ4:回復可能性を検討する

来シーズン以降に価格が回復する見込みがあるかを検討します。来年の夏にも同じ商品を定価で販売できる見込みがあるなら、陳腐化とは認められにくくなります。

ステップ5:証拠書類を整備する

前章で示した客観的証拠を揃え、評価損計上の根拠資料として保存します。

05具体的な仕訳例で理解する

ここでは、アパレル系スタートアップA社(10月決算法人・創業2年目)を例に、具体的な仕訳を示します。

事例の前提条件

  • 夏物ワンピース 100着、取得原価 @3,000円、合計300,000円
  • 10月末時点の正味売却価額 @800円(70%以上の値下がりが見込まれセールでも消化困難)
  • デザインの流行が変わり来年夏の再販は不可能と判断(メーカー廃番通知あり)
  • 評価損計上額:(3,000円 − 800円)× 100着 = 220,000円

会計上の仕訳(低価法適用)

棚卸資産の評価方法として低価法を届出済みの場合:

(借方)棚卸資産評価損 220,000円 /(貸方)商品 220,000円

税務上の取扱い

法人税法施行令第68条の「著しい陳腐化」に該当すると判断できる場合は、この220,000円を損金算入できます。一方、要件を満たさないと判断された場合は、別表四で加算調整(損金不算入)が必要です。

注意:低価法を選定届出していない法人が原価法を採用している場合、会計上は評価損を計上しても税務上は原則として損金算入できません。ただし、法人税法第33条第2項の「特別の事実」に該当すれば例外的に損金算入が認められます。創業期に棚卸資産の評価方法の届出を行っていない場合は最終仕入原価法(原価法)が法定評価方法となるため、評価損の損金算入には特に注意が必要です。評価方法の変更届出は事業年度開始日の前日までに提出する必要があります。

06個人事業主の場合の注意点

個人事業主(所得税法)の場合も、棚卸資産の評価方法として低価法を選択届出していれば、期末に時価が取得原価を下回った部分を必要経費に算入できます(所得税法施行令第99条・第100条)。届出をしていない場合の法定評価方法は最終仕入原価法による原価法ですので、低価法の適用を受けたい場合はその年の3月15日までに「所得税の棚卸資産の評価方法の届出書」を所轄税務署に提出しておく必要があります。

なお、個人事業主の場合は12月31日が事業年度末となるため、10月時点で在庫評価を検討しておき、年末の確定申告に向けて準備を進めるとよいでしょう。

07創業期だからこそ押さえたい3つの実務ポイント

  1. 評価方法の届出を早期に行う——創業初年度に低価法の届出を出しておけば、2年目以降の在庫評価損の計上がスムーズになります。法人は設立第1期の確定申告書の提出期限までに届出が必要です。
  2. 在庫管理ルールを最初から整備する——月次で在庫の回転率を確認し、滞留在庫を早期に把握する仕組みを作りましょう。評価損計上の判断にも役立ちます。
  3. 廃棄と評価損を混同しない——商品を実際に廃棄した場合は「棚卸資産廃棄損」として損金算入が認められます。評価損の計上が難しい場合は、廃棄処分を検討し、廃棄証明書(産廃業者の受領書等)を保存する方法も選択肢の一つです。
この記事のまとめ
  • 棚卸資産の評価損を税務上の損金にするには、法人税法施行令第68条の「著しい陳腐化」等の厳格な要件を満たす必要がある
  • 季節商品・トレンド商品は、値下げ販売実績・廃番通知・業界トレンド資料などの客観的証拠を整備して陳腐化を立証する
  • 低価法を選択届出していない場合、評価損の損金算入はさらにハードルが上がるため、創業初年度に届出を済ませておくことが重要
  • 評価損の計上が難しいケースでは、廃棄処分による損金算入も選択肢として検討する
  • 10月の決算整理では、実地棚卸→正味売却価額の見積もり→著しい下落の判定→回復可能性の検討→証拠整備のフローで判断する