「帳簿上は黒字なのに、月末になると通帳残高がギリギリ」——創業1〜2年目の経営者から、こうしたご相談を数多くいただきます。損益計算書(PL)は”利益”を示してくれますが、”現金がいくら増減したか”までは教えてくれません。手元資金の動きを正しく把握するために必要なのが、キャッシュフロー計算書(CF計算書)です。本記事では、2026年9月時点の最新実務をふまえ、ExcelやGoogleスプレッドシートで月次CFを自作する手順と、その読み解き方を解説します。
01なぜPLが黒字でもキャッシュが減るのか
PLは発生主義で作成されるため、売上を計上しても入金が翌月末であれば、その月の現金は増えません。一方、仕入代金や家賃の支払いは当月に発生します。創業期に特に多い「黒字なのにお金がない」パターンには、主に次のような原因があります。
- 売掛金の回収サイトが長い:売上は立っているが入金まで30〜60日かかる
- 在庫の先行仕入れ:商品を先に仕入れ、売れるまで現金が固定される
- 設備投資の支出:PCや内装工事など、PLでは減価償却として少額ずつ費用化されるが、現金は一括で出ていく
- 借入金の元本返済:PLには載らないが、毎月キャッシュが流出する
これらのズレを数値で「見える化」するのがキャッシュフロー計算書であり、特に間接法は月次PLと貸借対照表(BS)の増減から作成できるため、創業期のスモールビジネスに適しています。
02間接法キャッシュフロー計算書の基本構造
3つの区分を押さえよう
キャッシュフロー計算書は、資金の動きを以下の3つに区分します。
- 営業キャッシュフロー(営業CF):本業の稼ぎによるキャッシュの増減。税引前当期純利益をスタートに、減価償却費や売掛金・買掛金の増減を加減して算出します。
- 投資キャッシュフロー(投資CF):設備投資や有価証券の取得・売却による増減。創業期は設備購入でマイナスになることが多い区分です。
- 財務キャッシュフロー(財務CF):借入や返済、出資による増減。日本政策金融公庫の創業融資を受けた場合、借入実行月はプラス、毎月の元本返済はマイナスとなります。
3区分の合計が「当月のキャッシュ増減額」となり、前月末の現預金残高に加算すると当月末残高が一致します。この一致確認が、CF計算書の精度を担保する最も重要なチェックポイントです。
ポイント:間接法では、PLの税引前当期純利益に「現金の動きを伴わない費用(減価償却費など)を足し戻し」「現金の動きを伴わない収益を差し引く」ことで営業CFを算出します。直接法のように入出金を1件ずつ集計する必要がないため、月次決算データがあればすぐに作成できます。
03ExcelやスプレッドシートでCF計算書を自作する5ステップ
ここでは、実際にExcelまたはGoogleスプレッドシートで月次CF計算書を作る手順を紹介します。会計ソフトから出力した月次試算表(PLとBS)を手元に準備してください。
ステップ1:月次BSの増減表を作る
前月末と当月末のBS各科目を横に並べ、差額(増減)列を設けます。売掛金が前月100万円→当月150万円なら、増減は+50万円です。
ステップ2:営業CFを計算する
当月PLの税引前当期純利益からスタートし、以下を加減算します。
- 加算:減価償却費、引当金の増加額
- 減算:売掛金の増加額(現金未回収分)
- 加算:買掛金の増加額(支払猶予で現金が残った分)
- 減算:棚卸資産の増加額(在庫に現金が変わった分)
- 加減:未払金・前受金などの増減
たとえば、税引前利益30万円、減価償却費5万円、売掛金増加20万円、買掛金増加10万円の月であれば、営業CFは30+5−20+10=25万円となります。
ステップ3:投資CFを計算する
固定資産の取得や売却による支出・収入を記載します。当月に15万円のPCを購入した場合、投資CFは−15万円です。
ステップ4:財務CFを計算する
借入金の増減、元本返済額を記載します。月5万円の元本返済がある場合、財務CFは−5万円です。
ステップ5:合計と残高照合
営業CF(25万円)+投資CF(−15万円)+財務CF(−5万円)=当月キャッシュ増減額(+5万円)。前月末の現預金残高に+5万円を加えた金額が、当月末BSの現預金残高と一致すれば正しく作成できています。
注意:消費税の処理方法(税込経理・税抜経理)によって、BS科目の増減に差が出ます。税抜経理の場合は仮払消費税・仮受消費税の増減も営業CFの調整項目に含める必要があります。不一致が生じた場合、まずこの処理方法を確認しましょう。
043区分から読み取る経営判断のヒント
営業CFがマイナスの場合
本業で現金を稼げていない状態です。売掛金回収サイトの短縮交渉、不要在庫の処分、仕入れ条件の見直しなど、運転資金の改善策を早急に検討しましょう。創業1年目であれば初期投資の影響もあり得ますが、3か月以上連続でマイナスが続く場合は要注意です。
投資CFがマイナスの場合
創業期は成長のための投資でマイナスになるのが一般的です。ただし、営業CFのプラス額を大幅に超える投資を行っている場合は、手元資金の枯渇リスクがあります。「営業CFの範囲内で投資できているか」を毎月チェックすることが大切です。
財務CFで見るべきポイント
借入金の返済が進めば財務CFはマイナスになります。これ自体は健全ですが、営業CFのプラスで返済を賄えていない場合、追加融資が必要になるタイミングを早めに見極めましょう。金融機関との面談で月次CF計算書を提示できると、資金繰りへの理解が深い経営者として信頼度が高まります。
05月次CF管理を定着させるコツ
CF計算書は「作って終わり」では意味がありません。経営に活かすために、以下の運用を意識しましょう。
- 月次決算を翌月10日までに締める:スピードが命です。会計ソフトへの入力を習慣化し、試算表の確定を早めましょう。
- 6か月先までの予測CFも作る:過去の実績CFをベースに、受注見込みや設備投資計画を反映した予測CFを作成すると、資金ショートの予兆を早期に発見できます。
- 営業CFの推移をグラフ化する:月ごとの折れ線グラフにすると、季節変動やトレンドが一目で分かります。
- 税理士と定期的にレビューする:自作のCF計算書を月次面談で共有し、数値の精度や改善ポイントについてフィードバックを受けましょう。
創業期は資金の流れが事業の生命線です。月次キャッシュフロー計算書を経営の「計器盤」として活用することで、利益だけに目を奪われない堅実な意思決定が可能になります。
- PLの黒字とキャッシュの増減は一致しない。売掛金・在庫・借入返済などがズレの原因になる。
- 間接法CF計算書は月次PLとBSの増減データから作成でき、創業期のスモールビジネスに適している。
- 営業CF・投資CF・財務CFの3区分で資金の動きを分類し、合計額と現預金残高の一致を確認する。
- 営業CFのプラスで投資と返済を賄えているかを毎月チェックし、6か月先の予測CFも作成して資金繰りを先読みする。
- 月次CF計算書を税理士と共有・レビューすることで精度と経営判断の質が向上する。
