「決算まであと2か月。利益がどれくらい出そうか、まだ正確に把握できていない」——9月決算の創業期スタートアップにとって、8月は着地予測を立てる最後のタイミングです。この記事では、7月までの試算表をベースに残り2か月の利益を予測し、概算税額を算出する手順と、決算前に間に合う節税策の優先順位を税理士がステップバイステップで解説します。
01なぜ8月中に着地予測が必要なのか
9月決算法人の場合、決算日は2026年9月30日です。法人税の申告期限は原則2か月後の11月30日ですが、納税額が確定してから慌てても「打てる手」はほとんど残っていません。節税策の多くは「事業年度内に支出・計上を完了」する必要があるため、実行に動ける最後の月が8月なのです。
特に創業1~2期目の法人は、前期実績が少なく予測の精度が低い傾向があります。だからこそ、7月の試算表が確定した8月上旬~中旬のタイミングで一度シミュレーションを行い、残り2か月の打ち手を整理しましょう。
02ステップ1:7月までの試算表を「3つの数字」で読む
まず手元に7月末時点の月次試算表(損益計算書)を用意してください。着地予測に必要なのは、次の3つの数字だけです。
- 累計売上高(4月~7月の合計、または期首からの合計)
- 累計粗利益(売上総利益)——売上高から売上原価を引いた金額
- 累計営業利益(または経常利益)——販管費まで差し引いた利益
月平均値を出して残り2か月を掛ける
もっとも簡易な着地予測は「直近実績の月平均 × 残月数」です。たとえば10月決算ではなく9月決算(12か月決算)で、期首が2025年10月、7月までの10か月間の累計経常利益が500万円であれば、月平均50万円。残り8月・9月の2か月分で100万円を加算し、通期の着地予測は約600万円となります。
ただし創業期は月ごとのブレが大きいため、直近3か月の平均を使うほうが精度は上がります。5月~7月の3か月平均が月70万円なら、残り2か月で140万円。これを10か月実績に加えた640万円が着地予測です。
ポイント:売上に季節変動がある業種(イベント関連、EC、飲食など)は、前年同月や受注残ベースで8月・9月の売上を個別に見積もるとさらに精度が高まります。会計ソフトの「部門別推移表」や「前年同月比較」機能を活用しましょう。
03ステップ2:概算税額をシミュレーションする
着地予測の利益が出たら、次は概算の納税額を算出します。創業期の中小法人が押さえるべき税目と実効税率は次のとおりです。
法人税等の概算早見
- 法人税:課税所得800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%(資本金1億円以下の中小法人)
- 地方法人税:法人税額の10.3%
- 法人住民税:法人税額の約7%+均等割(東京都特別区で最低7万円)
- 法人事業税・特別法人事業税:課税所得に対して合計で約3.5~7%程度(所得区分により変動)
ざっくり計算するなら、課税所得800万円以下の中小法人の実効税率は約22~25%と覚えておけば大きくは外れません。
計算例
着地予測の経常利益が600万円、税務調整(交際費の損金不算入など)を加味した課税所得が620万円と仮定すると、概算税額は以下のようになります。
- 620万円 × 約24% = 約149万円
ここに均等割7万円を加えると、合計で約156万円の納税が見込まれます。この数字をまず「基準値」として、次のステップで節税余地を検討します。
04ステップ3:駆け込み節税策の優先順位
決算まで残り2か月で実行可能な節税策を「効果の確実性」「資金負担の軽さ」の2軸で優先順位付けします。以下、上から順に検討してください。
優先度A:確実性が高く実行しやすい
- 少額減価償却資産の一括損金計上(30万円未満)
中小企業者等に認められる特例で、取得価額30万円未満の減価償却資産を年間合計300万円まで全額損金にできます。業務に必要なPC・ソフトウェア・備品の購入を9月末までに済ませれば、その期の経費として計上可能です。
たとえばPC 25万円を2台購入すれば50万円の損金が増え、概算で約12万円の節税になります。 - 決算賞与の未払計上
従業員への決算賞与は、期末までに「全従業員に支給額を個別通知」し、決算日の翌月末(10月末)までに実際に支給すれば、当期の損金に算入できます。ただし役員賞与は事前確定届出がなければ損金不算入ですので注意してください。
優先度B:条件を満たせば有効
- 短期前払費用の特例
家賃・保険料・リース料など、継続的な役務提供の対価を1年分前払いすると、支払時に全額損金にできる特例です。ただし「翌期以降も同じ処理を継続すること」が条件であり、利益調整目的で単年だけ行うのはリスクがあります。年間120万円の事務所家賃を9月中に翌年8月分まで一括払いすれば、約120万円の前倒し損金が可能です。 - 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)への加入・前納
掛金は月5,000円~20万円で、年240万円まで全額損金算入可能です。創業期で加入がまだの場合は、9月末までに加入手続きと掛金払込を完了させる必要があるため、8月中に動き始めてください。ただし2024年10月の制度改正により、解約後2年間は再加入しても掛金が損金不算入となる点にご注意ください。
注意:節税策はあくまで「将来必要な支出の前倒し」や「制度を正しく使う」ものに限るべきです。不要な備品を買う、実態のないコンサル費を計上する、といった行為は税務調査で否認されるリスクがあり、資金繰りも悪化します。「手元資金を減らしてまでやる価値があるか」を必ず判断基準にしてください。
優先度C:中長期の視点で検討
- 役員報酬の改定検討(来期に向けて):今期中の変更は原則損金不算入ですが、来期の定時株主総会で適正額に改定することで翌期以降の税負担を調整できます。
- 小規模企業共済(個人事業主の場合):個人事業主は年間84万円まで全額所得控除。12月決算でなくても年内に加入・増額すればその年の確定申告で控除可能です。
05実行判断のフレームワーク——「3つの問い」
節税策を検討する際は、以下の3つの問いに順番に答えてください。
- 事業に本当に必要な支出か?——必要性がないものを買っても資金流出が増えるだけです。
- キャッシュフローに耐えられるか?——納税予測額と手元資金を比較し、節税後も運転資金が確保できるか確認します。最低でも月商1.5か月分の現預金は残しましょう。
- 税務リスクは許容範囲か?——制度の要件を正確に満たしているか、税理士に確認を取ったうえで実行しましょう。
3つすべてにYesと言えるものだけを実行する。これが創業期の節税判断の鉄則です。
068月中にやることチェックリスト
最後に、2026年8月中に完了させたいタスクを時系列で整理します。
- 8月上旬:7月試算表を確定させ、着地予測・概算税額を算出する
- 8月中旬:節税策の候補をリストアップし、3つの問いで優先順位を決定する
- 8月下旬:少額減価償却資産の発注、決算賞与の支給額検討、前払費用・共済の手続き開始
- 9月中:発注品の納品・検収完了、決算賞与の個別通知、各種支払いの実行
スケジュールに落とし込むことで「気づいたら決算日を過ぎていた」という事態を防げます。
- 9月決算法人は8月中に7月試算表ベースの着地予測を立てるのが必須。月平均利益 × 残月数で簡易シミュレーションが可能
- 課税所得800万円以下の中小法人なら実効税率約22~25%で概算税額を把握する
- 駆け込み節税は「少額減価償却資産」「決算賞与」「短期前払費用」「経営セーフティ共済」の順で検討する
- 節税策は「事業に必要か」「キャッシュフローに耐えられるか」「税務リスクは許容範囲か」の3つの問いで判断する
- 不要な支出による節税は資金繰り悪化のリスクがあるため、手元資金とのバランスを最優先にする
