「秋の事業拡大に向けて、デスク・チェア・モニターをまとめて買いたい。1つずつは30万円未満だから全部即時償却できるはず——」そう考えている創業期の経営者の方は少なくありません。しかし、セット購入や同一店舗でのまとめ買いには「1単位の取得価額」として合算されるリスクがあり、思わぬ落とし穴が潜んでいます。2026年9月、設備投資シーズンに合わせて少額減価償却資産の特例と一括償却資産の使い分けを総整理しましょう。
01少額減価償却資産の特例と一括償却資産——まず基本を押さえる
少額減価償却資産の特例(取得価額30万円未満)
青色申告をしている中小企業者等(資本金1億円以下の法人、または個人事業主)が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した場合、その全額を取得した事業年度(年分)の損金(必要経費)に算入できる制度です。ただし、年間の合計額には300万円という上限があります。
一括償却資産(取得価額20万円未満)
取得価額が20万円未満の減価償却資産について、3年間で均等償却(3分の1ずつ損金算入)する方法です。こちらは青色・白色を問わず利用でき、年間の合計額に上限はありません。また、固定資産税(償却資産税)の課税対象外となる点もメリットです。
10万円未満の少額減価償却資産
取得価額が10万円未満の資産は、そもそも減価償却資産に該当せず、取得時に全額を損金(必要経費)として処理できます。これは青色・白色を問わず、すべての事業者に適用される原則的な取扱いです。
ポイント:少額減価償却資産の特例は2026年(令和8年)3月31日までに取得した資産が対象とされていましたが、税制改正により適用期限の延長が繰り返されています。2026年9月現在の最新の適用期限は、顧問税理士や国税庁サイトで必ず確認してください。
02「1単位の取得価額」の判定——まとめ買いで合算されるケースに注意
少額減価償却資産の特例や一括償却資産の判定で最も見落としやすいのが、「1単位の取得価額」の考え方です。税務上、取得価額の判定は1個・1組・1セットごとに行います。
合算されるケース
- 応接セット(テーブル1台+ソファ2脚)のように、通常セットで使用される資産 → セット全体で1単位
- デスクとワゴン(袖机)が一体として機能するもの → 合算して1単位
- パソコン本体+モニター+キーボードなど、単体では機能しない組み合わせ → 合算して1単位
合算されないケース
- 同じ店舗で同日にデスク5台をまとめ買い → デスク1台ごとに1単位(それぞれ独立して機能するため)
- デスク+チェア → それぞれ独立して使用可能なため、別々に1単位
- モニター+モニターアーム → モニターアームが単なる付属品であれば合算。ただしモニター自体が独立使用可能で、アームが汎用品なら別判定になる場合も
たとえば、応接セットとしてテーブル12万円+ソファ2脚で各10万円を購入した場合、合計32万円が1単位の取得価額となり、30万円未満の特例は使えません。一方、デスク1台8万円を5台購入した場合は、1台ごとに8万円と判定されるため、全額を取得時の損金にできます。
注意:「同一の納品書・請求書にまとめて記載されているから合算」という判定ではありません。あくまで資産の機能・用途に基づいて「通常1単位として取引されるかどうか」で判断されます。ただし、明らかにセット販売されている商品をバラバラに計上すると、税務調査で否認されるリスクがあるため注意が必要です。
03年間合計300万円の上限に達したらどうする?——代替処理の判断フロー
少額減価償却資産の特例には、事業年度あたり合計300万円(個人は1月〜12月の暦年)の上限があります。創業期に什器備品を一気にそろえると、この上限にすぐ到達するケースがあります。
たとえば、1台25万円のデスク付きワークステーションを15台購入した場合、合計375万円です。300万円分(12台分)は少額減価償却資産の特例で即時償却できますが、残り75万円分(3台分)は特例を使えません。
このとき、残りの3台について取り得る選択肢は以下のとおりです。
- 通常の減価償却を行う(耐用年数に応じて定額法または定率法で償却)
- 取得価額が20万円未満であれば一括償却資産として3年均等償却する(今回の例では25万円なので不可)
つまり、取得価額が20万円以上30万円未満の資産は、300万円の枠を超えた分について一括償却資産の適用もできず、通常償却するしかありません。計画的な購入タイミングの分散や、事業年度をまたいだ購入が有効な対策になります。
04個人事業主と法人——適用要件の違い
個人事業主の場合
- 青色申告が必須
- 暦年(1月〜12月)で300万円の上限を判定
- 常時使用する従業員数が500人以下(2026年9月現在の要件)
法人の場合
- 青色申告が必須
- 資本金の額または出資金の額が1億円以下
- 常時使用する従業員数が500人以下
- 事業年度が12か月未満の場合、300万円の上限は月割計算(例:設立初年度が6か月なら上限150万円)
特に創業初年度の法人は事業年度が12か月に満たないことが多く、300万円の上限が月割で縮小される点を見落としがちです。たとえば7月設立・3月決算の法人であれば、初年度は9か月間で上限225万円(300万円×9/12)となります。
05消費税の経理方式で判定金額が変わる
少額減価償却資産や一括償却資産の取得価額は、消費税の経理方式によって判定金額が異なります。
- 税込経理方式:消費税込みの金額で判定
- 税抜経理方式:消費税抜きの金額で判定
具体例を見てみましょう。税抜価格272,728円(税込300,000円)のオフィスチェアを購入した場合、税抜経理なら272,728円で30万円未満の特例が使えますが、税込経理では300,000円ちょうどとなり、30万円未満の要件を満たしません(30万円「未満」なので30万円ちょうどは対象外)。
免税事業者は税込経理しか選択できないため、同じ商品でも課税事業者(税抜経理)より不利になる場合があります。創業期で免税事業者の方は、この点を意識して購入する備品の価格帯を調整しましょう。
06購入パターン別・処理の早見表
2026年9月に以下の什器備品を購入した場合の処理を整理します(税抜経理・青色申告・300万円枠に余裕あり、を前提)。
- デスク1台 税抜5万円 → 10万円未満のため少額減価償却資産(全額損金・申告不要)
- オフィスチェア1脚 税抜15万円 → 一括償却資産(3年均等)または少額減価償却資産の特例(即時償却)を選択可能
- モニター+PC本体 合計税抜28万円 → セットで1単位。少額減価償却資産の特例で即時償却可能
- 応接セット 合計税抜35万円 → 30万円以上のため特例不可。通常の減価償却
- コピー機 税抜18万円 → 一括償却資産(3年均等)または少額減価償却資産の特例を選択可能。償却資産税を避けたい場合は一括償却資産が有利
一括償却資産と少額減価償却資産の特例は資産ごとに選択できます。300万円の枠の残りや、償却資産税の負担も考慮して、資産ごとに最適な方法を選びましょう。
- 少額減価償却資産の特例(30万円未満・即時償却)と一括償却資産(20万円未満・3年均等償却)は資産ごとに選択可能
- 「1単位の取得価額」はセットで機能する資産は合算される。独立して使える備品は個別に判定できる
- 年間300万円の上限を超えた分は通常償却。法人の設立初年度は月割で上限が縮小される点に注意
- 消費税の経理方式(税込・税抜)で判定金額が変わる。免税事業者は税込判定となり不利になる場合がある
- 9月の設備投資は年度末までの償却計画とセットで検討し、300万円枠の配分を計画的に行うことが重要
