「9月決算の着地予想が出てきたので、利益が出ているうちに30万円未満のPCや備品をまとめ買いして経費にしよう」――創業期のスタートアップや小規模法人でよくある節税策です。しかし、購入しただけでは損金にならないことをご存じでしょうか。たった数日の判断ミスで、今期の損金に入らず翌期送りになるケースは毎年のように発生しています。本記事では、2026年9月決算法人が期末直前に少額減価償却資産を取得する際に押さえるべき「事業の用に供した日」の判定基準と、実務で陥りやすい落とし穴を具体例とともに解説します。
01少額減価償却資産の特例とは?――制度の基本をおさらい
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67条の5)は、青色申告を行う資本金1億円以下等の中小企業者等が、取得価額30万円未満の減価償却資産を取得し事業の用に供した場合に、その事業年度で全額を損金算入できる制度です。
適用要件の概要(2026年度時点)
- 青色申告法人であること
- 資本金の額または出資金の額が1億円以下であること(一定の大法人の子会社等を除く)
- 取得価額が30万円未満(税込経理の場合は税込額、税抜経理の場合は税抜額で判定)
- 事業年度における合計額が年300万円まで(※12か月決算の場合)
- 確定申告書に明細書(別表十六(七))を添付すること
ここで最も注意すべきキーワードが「取得し、事業の用に供した」という部分です。購入契約を結んだ日でも、代金を支払った日でもなく、実際にその資産を事業で使い始めた日が基準となります。
02「事業の用に供した日」とは?――納品日・検収日との違い
法人税法上、減価償却資産の償却が開始されるのは「事業の用に供した日」です。国税庁は、この日を「資産をその本来の用途に使用し始めた日」と解しています。具体的には以下の3つの日付を区別する必要があります。
発注日・購入日
注文書を出した日や売買契約を締結した日です。これだけでは資産の取得すら完了していない場合が多く、損金算入の要件を満たしません。
納品日
物品がオフィスに届いた日です。ただし、届いただけで開梱もセットアップもしていない状態では「事業の用に供した」とはいえません。特にPCやサーバー機器の場合、初期設定やソフトウェアのインストールが完了していなければ、事業での使用開始とは認められないリスクがあります。
検収日(事業供用日)
資産を実際にセットアップし、本来の目的で使える状態になった日です。税務上はこの日が「事業の用に供した日」と判定されるのが原則です。
ポイント:「買った日」でも「届いた日」でもなく、「使い始めた日」が損金算入のタイムリミットです。9月決算法人であれば、2026年9月30日までに事業供用が完了している必要があります。逆にいえば、9月30日に届いてその日のうちにセットアップまで完了すれば、当期の損金に算入できます。
03具体例で見る――当期損金になるケース・ならないケース
9月決算法人(事業年度:2025年10月1日〜2026年9月30日)を前提に、よくあるケースを見てみましょう。
ケース1:当期損金OKのパターン
- 9月20日にノートPC(税抜28万円)を発注
- 9月25日に納品
- 9月26日に初期設定完了、業務使用開始
事業供用日は9月26日であり、当期末(9月30日)までに事業の用に供されているため、全額を当期損金に算入可能です。
ケース2:当期損金NGのパターン
- 9月25日にPC5台(税抜1台27万円、合計135万円)を発注
- 9月29日に納品されたが、在庫として保管
- 翌期の10月3日に各部署に配布しセットアップ完了
納品は期内ですが、事業供用日は翌期の10月3日です。したがって、当期の損金には算入できず、翌期の損金算入となります。
ケース3:一部だけ当期損金のパターン
- 9月25日にPC5台を発注
- 9月28日に3台が先行納品され、即日セットアップ完了
- 残り2台は10月2日に納品・セットアップ
この場合、先行納品の3台(税抜81万円分)のみ当期損金に算入でき、残り2台(税抜54万円分)は翌期の損金算入となります。
04期末駆け込み購入でありがちな4つの落とし穴
- 年300万円の上限を忘れる:当期中にすでに他の少額資産で特例を使っている場合、合計300万円(12か月決算)を超える部分は即時償却の対象外です。通常の減価償却が必要になります。
- 納品遅延リスクを考慮しない:9月末は多くの企業が駆け込み購入を行うため、メーカーや販売店の在庫切れ・配送遅延が起きやすい時期です。9月28日発注では納品が翌期にずれ込む可能性があります。
- ソフトウェアのライセンスとハードを混同する:PCの本体は30万円未満でも、別途購入したソフトウェアが独立した資産として取得価額30万円以上になる場合は、即時償却の対象外です。
- 事業供用の証拠を残さない:税務調査で事業供用日を問われた際、納品書だけでは不十分です。セットアップ完了の記録がなければ期末までの供用を証明できません。
注意:「期末に買ったけど段ボールを開けていない」「届いたが倉庫に置いたまま」という状態は、税務調査で事業供用日を否認されるリスクが高い典型例です。特に高額品を複数台購入した場合は、調査官が納品書・検収記録・実際の使用開始日を照合することがあります。
05決算直前の少額資産購入――実務チェックリスト
9月決算法人が期末直前に少額資産を購入して即時償却を行う場合、以下のチェックリストを活用してください。
- 取得価額の確認:税込経理か税抜経理かに応じて、1単位あたり30万円未満であることを確認する
- 年間合計額の確認:当期中にすでに適用した少額減価償却資産との合計が300万円以内に収まるか(短期事業年度の場合は月割計算)
- 納品スケジュールの確保:遅くとも9月最終週の前半(9月24日頃まで)には納品が完了するよう手配する
- セットアップ・動作確認の日程確保:納品日当日または翌営業日中にセットアップを完了し、事業供用日を期末までに確定させる
- 証拠書類の整備:納品書・検収書・セットアップ完了記録(日付入りのスクリーンショットやメール等)を保管する
- 別表十六(七)の添付準備:確定申告書に明細書の添付を忘れると特例が適用できないため、経理担当者・顧問税理士と事前に共有する
06万が一、期末までに事業供用が間に合わなかった場合
納品遅延等により9月30日までに事業の用に供せなかった場合でも、翌事業年度で即時償却の特例を適用することは可能です(翌期も要件を満たす前提)。焦って虚偽の供用日を記録することは絶対に避けてください。
また、取得価額が10万円未満の資産であれば、少額減価償却資産の特例ではなく、法人税法施行令133条に基づく少額の減価償却資産として取得時に損金算入が認められます。こちらも「事業の用に供した日」が基準である点は同様ですが、300万円の上限がない点が異なります。
さらに、取得価額が20万円未満の場合は一括償却資産(3年均等償却)として処理する選択肢もあります。この場合、事業年度の月数に応じた按分ではなく、取得した事業年度から3年間で均等に損金算入します。期末購入でも3分の1は当期損金になるため、状況に応じて使い分けると有効です。
- 少額減価償却資産の即時償却は「購入日」ではなく「事業の用に供した日」が損金算入の基準となる
- 「事業の用に供した日」とは、資産をセットアップし本来の用途で使用開始した日であり、納品日や購入日とは異なる
- 9月決算法人は2026年9月30日までに事業供用を完了させなければ当期の損金に算入できない
- 年間合計300万円の上限、別表十六(七)の添付漏れにも注意が必要
- 期末直前の駆け込み購入は、納品遅延リスクを織り込み、遅くとも9月最終週前半までに納品・セットアップ完了のスケジュールを組むことが重要
- 事業供用日を証明するため、検収記録やセットアップ完了記録を必ず残しておく
