「定額減税の精算って、もう終わったはずだけど……本当に大丈夫だったかな?」——創業間もない少人数法人やスタートアップの経営者の方から、こうした不安の声をよくお聞きします。2024年(令和6年)に実施された所得税の定額減税は、多くの事業者にとって初めての対応でした。あの慌ただしさのなかで処理した源泉徴収事務に、積み残しや誤りが残っていないか。2026年9月のいま、改めて点検し、年末調整に向けた準備を始めるのに最適なタイミングです。
01なぜ2026年9月に「定額減税」を振り返るのか
定額減税は2024年6月以降の源泉徴収から月次で控除を行い、最終的に2024年分の年末調整(または2025年3月の確定申告)で精算が完了する仕組みでした。すでに精算時期から1年以上が経過しています。
しかし、創業期の法人では次のような事情から、いまだに処理が不完全なケースが散見されます。
- 創業直後で経理体制が整わないまま年末調整を迎え、精算計算が曖昧になった
- 2024年途中に従業員が入退社し、前職分の源泉徴収票の回収が不十分だった
- 扶養親族の人数変更(出生・離婚・同居老親の追加など)を反映しきれなかった
- 税理士への依頼が年末ギリギリになり、確認が不十分なまま処理された
これらの積み残しは、税務調査で指摘されるリスクがあるだけでなく、従業員との信頼関係にも影響します。2026年の年末調整に向けた準備と合わせて、いまのうちに棚卸ししておきましょう。
02定額減税の仕組みをおさらい——控除額と対象者
まず、2024年の定額減税の基本をおさらいします。
控除額
- 本人:所得税3万円、住民税1万円
- 同一生計配偶者・扶養親族1人につき:所得税3万円、住民税1万円
対象者
2024年分の合計所得金額が1,805万円以下(給与収入のみなら2,000万円以下)の居住者が対象です。非居住者は対象外となります。
控除の方法
給与所得者の場合、2024年6月以降の源泉徴収税額から順次控除し、控除しきれなかった残額は年末調整で精算しました。それでも控除しきれない場合は、市区町村から「調整給付金」として支給される仕組みでした。
ポイント:定額減税は「所得税」と「住民税」で控除の方法が異なります。所得税は源泉徴収(月次控除)→年末調整で精算。住民税は2024年6月分の特別徴収を0円とし、7月以降の11か月で均等割りする方法でした。年末調整で直接精算するのは所得税部分のみです。
039月に確認すべき「積み残しチェックリスト」
以下の項目を、2024年分の年末調整関連書類を手元に用意して確認してください。
チェック1:源泉徴収簿の「定額減税」欄は正しく記載されているか
2024年分の源泉徴収簿には、月次控除額の累計と年末調整での精算額を記載する欄がありました。記載漏れや計算誤りがないか、従業員ごとに確認します。特に、扶養親族の人数が途中で変わった従業員は要注意です。
チェック2:源泉徴収票の「定額減税」記載は適切か
2024年分の源泉徴収票の摘要欄には「源泉徴収時所得税減税控除済額 ○○円」「控除外額 ○○円」の記載が必要でした。この記載が漏れている場合、従業員が調整給付金を受け取る際に支障が出る可能性があります。
チェック3:中途入社者の前職分は正しく合算されているか
2024年中に中途入社した従業員について、前職の源泉徴収票を回収し、前職での定額減税の月次控除額を把握したうえで年末調整を行う必要がありました。前職分の回収が漏れていた場合は、従業員本人に確定申告で精算してもらう必要があります。いまからでも状況を確認し、未対応であれば本人に連絡しましょう。
チェック4:扶養親族の異動届は反映済みか
2024年中に子どもが生まれた、配偶者の収入が変わった、親を扶養に入れたなどの変更があった場合、定額減税の控除額(1人あたり所得税3万円)に直接影響します。「扶養控除等異動申告書」の内容と、実際の控除額が一致しているか確認してください。
04年末調整に向けた「9月スタート」段取り表
2024年分の積み残し確認と並行して、2026年分の年末調整準備も進めていきましょう。少人数法人向けに、9月から12月までの段取りを整理します。
9月:基礎固めの月
- 2024年分の定額減税精算の積み残しチェック(上記チェックリスト)
- 従業員名簿の更新——入退社・扶養変更・住所変更の確認
- 給与計算ソフトの最新版へのアップデート確認
- マイナンバーの収集状況の確認(新入社員分など)
10月:書類準備の月
- 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の配布準備
- 「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の様式確認
- 「給与所得者の保険料控除申告書」の配布準備
- 従業員への案内文(提出期限・必要書類リスト)の作成
11月:回収・確認の月
- 各申告書の回収と記載内容チェック
- 生命保険料・地震保険料の控除証明書の回収
- 住宅ローン控除の適用がある従業員の書類確認
- 不備があれば早期に従業員へ差し戻し
12月:計算・精算の月
- 年末調整計算の実施
- 過不足税額の精算(12月給与または1月給与での調整)
- 源泉徴収票の作成・交付
- 法定調書合計表・給与支払報告書の準備(提出期限は翌年1月31日)
注意:従業員が5人以下の少人数法人であっても、年末調整の義務は変わりません。「人数が少ないから後回しでいい」と考えがちですが、少人数だからこそ1人分の誤りが全体に大きく影響します。早めの着手を心がけましょう。
05積み残しが見つかった場合の対処法
チェックの結果、2024年分の定額減税に関する処理に誤りが見つかった場合、対処方法はケースによって異なります。
年末調整のやり直しが可能な場合
年末調整のやり直しは、原則として翌年1月31日(2024年分であれば2025年1月31日)までに行う必要がありました。この期限を過ぎている場合は、年末調整のやり直しはできません。
期限を過ぎている場合
従業員本人が確定申告(更正の請求または修正申告)で対応する必要があります。事業者側としては、正しい源泉徴収票を再交付し、従業員に確定申告の手続きを案内してください。なお、所得税の更正の請求は法定申告期限から5年以内に行えますので、2024年分であれば2030年3月15日まで可能です。
源泉所得税の納付額に誤りがあった場合
過大に納付していた場合は「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額の還付請求」、過少に納付していた場合は速やかに不足額を納付し、延滞税が生じる可能性に注意してください。
06創業期だからこそ「仕組みづくり」を意識する
定額減税のような臨時的な制度変更は、今後も起こり得ます。創業期のうちに、源泉徴収事務の基本的な仕組みを整えておくことが、将来の負担軽減につながります。
- 給与計算ソフトを導入し、税制改正への対応を自動化する
- 従業員からの申告書回収スケジュールを年間カレンダーに組み込む
- 扶養親族の異動があった場合に速やかに届け出てもらうルールを就業規則等に明記する
- 税理士との定期的な打ち合わせを設け、源泉徴収事務の不明点を都度解消する
特に従業員数が増えてくると、経営者一人で対応するのは困難になります。早い段階から専門家と連携し、正確で効率的な事務体制を構築しておきましょう。
- 2024年の定額減税の精算処理に積み残しがないか、2026年9月の今こそ再点検するタイミング
- 源泉徴収簿・源泉徴収票の記載内容、中途入社者の前職分、扶養変更の反映を重点的にチェック
- 年末調整の準備は9月から段階的に進めることで、12月の繁忙期を乗り越えやすくなる
- 積み残しが見つかった場合は、年末調整やり直し期限の経過状況に応じて確定申告や還付請求で対応
- 創業期にこそ源泉徴収事務の仕組みを整え、将来の税制変更にも対応できる体制をつくることが大切
