「創業して初めての夏、従業員にボーナスを出したいけれど、税金や社会保険の手続きがよく分からない」――そんな声をスタートアップの経営者からよくいただきます。賞与の支給には、源泉所得税の計算・納付と、年金事務所への賞与支払届の提出という2つの手続きを同時並行で進めなければなりません。どちらか一方でも漏れると、延滞税や届出遅延につながるリスクがあります。本記事では、2026年の夏季賞与を前提に、支給日から逆算した準備スケジュールと、少人数法人にありがちなミスを防ぐチェックリストをまとめました。

01賞与支給で必要な「2つの手続き」を整理する

創業期に初めて賞与を支給する場合、まず全体像を押さえておきましょう。必要な手続きは大きく分けて次の2つです。

手続き(1):源泉所得税の計算と納付

賞与から所得税を差し引き(源泉徴収)、原則として支給月の翌月10日までに税務署へ納付します。納期の特例(従業員10人未満)を受けている場合は、1月~6月分をまとめて7月10日までに納付できます。計算には「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使います。

手続き(2):賞与支払届の提出

健康保険・厚生年金保険の保険料を計算するために、賞与を支給した日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を管轄の年金事務所(または健康保険組合)へ提出します。届出をもとに「標準賞与額」が決定され、保険料が算出されます。

ポイント:源泉所得税は「税務署」、賞与支払届は「年金事務所」と、提出先がまったく異なります。創業直後は窓口を混同しやすいため、それぞれの提出先・期限をメモに書き出しておくと安心です。

02支給日から逆算する実務タイムライン(2026年夏)

ここでは、2026年7月10日(金)に賞与を支給するケースを例にとり、逆算スケジュールを示します。支給日が異なる場合は日付を読み替えてください。

6月中旬~下旬:支給額の決定と情報収集

  • 賞与の支給額を確定する
  • 各従業員の扶養親族等の数を「扶養控除等申告書」で再確認する
  • 前月(6月)の給与から社会保険料等を控除した金額を把握する(源泉徴収税額の算出率を求めるために必要)
  • 最新の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を国税庁サイトから入手する

7月初旬(支給日の1週間前まで):計算と明細書の作成

  1. 賞与額から健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料を計算する
  2. 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で税率を求め、源泉所得税を算出する
  3. 賞与明細書を作成し、差引支給額を確定する
  4. 賞与支払届の記載内容(支給日・支給額・被保険者情報)を準備する

7月10日(支給日当日):支給と届出の起算

  • 従業員へ賞与を振り込み、明細書を交付する
  • ここから賞与支払届の提出期限(5日以内=7月15日)がカウント開始

7月15日まで:賞与支払届の提出

  • 管轄の年金事務所へ賞与支払届を提出する(電子申請・郵送・窓口)
  • 届出の控えを保管する

8月10日まで:源泉所得税の納付

  • 7月支給分の源泉所得税を翌月10日(8月10日)までに納付する
  • 納期の特例の適用を受けている場合は、2026年7月10日までに1月~6月支給分をまとめて納付(7月支給分は2027年1月20日までの対象)

注意:納期の特例を受けている場合、7月支給の賞与に係る源泉所得税は「7月~12月分」としてまとめて翌年1月20日までの納付となります。6月以前に支給する場合は「1月~6月分」として7月10日期限に含まれますので、支給月によって納付時期が変わる点にご注意ください。

03源泉所得税の計算を具体例で確認する

従業員Aさんに夏季賞与30万円を支給するケースで、ざっくりとした計算の流れを確認しましょう。

  1. 前月(6月)の給与総額から社会保険料等を差し引いた金額を算出する(例:月給25万円 − 社会保険料約3.7万円 = 約21.3万円)
  2. 扶養親族等の数を確認する(例:1人)
  3. 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で該当する税率を求める(例:4.084%)
  4. 賞与額30万円 × 4.084% = 12,252円が源泉徴収税額
  5. 賞与から社会保険料(健康保険料+厚生年金保険料)と雇用保険料、源泉所得税を差し引いた金額が手取り額

給与計算ソフトを使えば自動計算されますが、初めての賞与では手計算の流れを理解しておくと、ソフトの出力結果を検算できます。

04社会保険の「標準賞与額」で見落としやすいポイント

標準賞与額の上限に注意

健康保険の標準賞与額は年度(4月~翌3月)の累計で573万円が上限です。厚生年金保険の標準賞与額は1回の支給につき150万円が上限となります。創業期の少人数法人で上限に達するケースは多くありませんが、役員賞与を高額に設定する場合は上限を意識しましょう。

賞与を支給しなかった場合の届出

事前に「賞与支払予定月届」で届け出た月に賞与を支給しなかった場合でも、「賞与不支給報告書」を年金事務所に提出する必要があります。届出をしないままにすると、年金事務所から問い合わせが来たり、算定基礎届の処理に影響したりすることがあるため、忘れずに対応してください。

05少人数法人にありがちなミスを防ぐチェックリスト

最後に、創業期の法人が賞与支給時に確認しておくべきチェックリストをまとめます。

  • 扶養控除等申告書は最新の内容で提出されているか
  • 前月の給与支給額・社会保険料控除額は正しいか(賞与の源泉税率算出に必要)
  • 健康保険料率・厚生年金保険料率は2026年度の最新料率を使用しているか
  • 雇用保険料率は2026年度の料率(一般の事業:労働者負担 6/1000)を適用しているか
  • 賞与支払届は支給日から5日以内に提出できるよう準備しているか
  • 源泉所得税の納付書(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)の「賞与」欄を正しく記入したか
  • 賞与不支給の場合、賞与不支給報告書を提出したか
  • 役員賞与の場合、事前確定届出給与の届出どおりの金額・支給日になっているか

特に最後の項目は法人税にも影響します。事前確定届出給与として届け出た役員賞与は、届出と1円でも異なる金額を支給すると全額が損金不算入になるリスクがあるため、慎重に確認してください。

06電子申請・ソフト活用でミスと手間を減らす

賞与支払届は「e-Gov」や「GビズID」を使った電子申請が可能です。窓口や郵送よりも手間が省け、届出の履歴も残るため、創業期から電子申請に慣れておくことをおすすめします。また、クラウド型の給与計算ソフト(freee人事労務、マネーフォワード クラウド給与など)を導入すれば、源泉所得税の自動計算と賞与支払届の出力を一元管理できるため、手続きモレのリスクを大幅に減らせます。

ただし、ソフトの初期設定(保険料率・扶養情報など)が誤っていると計算結果も誤ったまま進んでしまいます。初回の賞与支給時は、出力された数値を手計算でも検算することを強くおすすめします。

この記事のまとめ
  • 賞与支給では「源泉所得税の計算・納付(税務署)」と「賞与支払届の提出(年金事務所)」の2つの手続きを同時に進める必要がある
  • 賞与支払届の提出期限は支給日から5日以内。源泉所得税の納付は原則翌月10日まで(納期の特例適用時は半年ごとにまとめて納付)
  • 標準賞与額の上限(健康保険:年度累計573万円、厚生年金:1回150万円)や、賞与不支給時の届出義務など見落としやすい論点がある
  • 役員賞与は事前確定届出給与の届出内容と1円でもずれると全額損金不算入になるリスクがあるため要注意
  • 初回の賞与はクラウド給与ソフトの出力結果を手計算で検算し、ミスを防ぐのが安心