「事業用にスマートフォンを買ったけれど、プライベートでも使っている場合はどこまで経費にできるのか」「通信料の按分はどうやって根拠を残せばいいのか」——創業期のスタートアップ経営者や個人事業主の方から、こうしたご相談を頻繁にいただきます。端末代も月額通信料も、正しい勘定科目の選択と按分根拠の整備を怠ると、税務調査で否認されるリスクがあります。本記事では2026年9月時点の制度をもとに、1台持ち・2台持ち・BYODの3パターン別に、実務で使える経費処理の方法を具体的に解説します。

01端末購入費用の勘定科目と少額減価償却資産の特例

勘定科目の基本

スマートフォンやタブレットを事業用に購入した場合、取得価額によって会計処理が変わります。一般的な勘定科目は以下のとおりです。

  • 取得価額10万円未満:「消耗品費」として全額を一括経費処理
  • 取得価額10万円以上20万円未満:「一括償却資産」として3年均等償却が可能
  • 取得価額10万円以上30万円未満(青色申告の中小企業者等):「少額減価償却資産の特例」により全額を取得年度に経費処理可能(年間合計300万円まで)
  • 取得価額30万円以上:「工具器具備品」として法定耐用年数(通常4年)で減価償却

少額減価償却資産の特例を使う際の注意点

2026年9月現在、青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下等の要件あり)および青色申告の個人事業主は、取得価額30万円未満の減価償却資産について全額即時経費にできる特例が適用可能です。最新のiPhoneやiPad Proなどは本体価格が15万円〜25万円程度になるケースも多く、この特例の範囲内に収まることがほとんどです。

ただし、プライベート兼用の場合は取得価額全額ではなく、事業使用割合に応じた按分後の金額が経費となります。按分前の取得価額が30万円未満であれば特例の対象となる点は押さえておきましょう。

ポイント:法人の場合、端末の購入費用は「工具器具備品」や「消耗品費」で処理します。個人事業主の場合も同様ですが、家事按分が必要になるケースが多い点に注意してください。取得時の領収書やレシートには、端末名・型番・IMEI番号をメモしておくと、税務調査時に特定の端末であることを証明しやすくなります。

02月額通信料の勘定科目と按分の基本的な考え方

月々の携帯電話料金やデータ通信料は「通信費」として処理するのが一般的です。法人契約で事業専用回線であれば全額経費にできますが、個人名義の回線を事業でも使っている場合は按分が必要です。

按分の基準としてよく用いられるのは以下の3つです。

  1. 通話時間・通話件数による按分:通話明細から事業用の通話時間を集計し、全体に占める割合を算出する方法
  2. データ使用量による按分:スクリーンタイム機能やデータ使用量の内訳から、業務アプリの使用割合を算出する方法
  3. 使用日数による按分:週7日のうち業務に使う日数で按分する簡便法(例:週5日業務使用なら約70%)

税務調査では「合理的な基準で継続的に按分しているか」が重視されます。毎月同じ方法で記録を残すことが最大の防御策です。

03パターン別:1台持ち・2台持ち・BYODの経費処理

パターンA:1台をプライベート兼用で使うケース

創業直後に最も多いのがこのパターンです。個人名義のスマートフォン1台を事業にも使っている場合、端末代・通信料ともに按分が必要です。

按分根拠の作り方は次のとおりです。

  • iPhoneなら「設定」→「スクリーンタイム」、Androidなら「デジタルウェルビーイング」でアプリ別の使用時間を月末にスクリーンショットで保存する
  • 通話明細をダウンロードし、事業用通話(取引先・顧客への発信)にマーカーを付けて集計する
  • 上記をもとに「事業使用割合算定シート」を作成し、毎月の按分率を記録する

実務上は、毎月細かく変動させるのが難しい場合、3か月分の実績データから平均按分率を算出し、その率を年間通じて適用する方法も認められやすいです。たとえば3か月の業務使用割合が65%・70%・68%であれば、平均68%を年間の按分率とし、翌年に再度見直すといった運用です。

パターンB:事業専用端末を別に持つケース(2台持ち)

事業専用のスマートフォンを法人契約または個人事業の屋号付き口座から支払っている場合、その端末の購入費用と通信料は原則として全額経費にできます。

税務調査で問われるのは「本当に事業専用か」という点です。以下の対策を講じておきましょう。

  • 法人の場合は法人名義で回線契約する
  • 個人事業主の場合は事業用の電話番号として名刺・Webサイトに記載し、業務使用の実態を示す
  • 通話明細を定期的に保存し、私的利用がないことを示せるようにしておく

2台持ちの最大のメリットは、按分計算が不要になり記帳の手間が大幅に減ることです。月額通信料が月3,000円程度のサブ回線プランも増えていますので、創業期でもコスト面のハードルは下がっています。

パターンC:従業員のBYOD(私物端末の業務利用)ケース

従業員が個人所有のスマートフォンを業務に使い、会社が通信費の一部を補助するBYOD方式は、創業期の小規模法人で採用されることがあります。この場合の処理ポイントは以下のとおりです。

  • 会社から従業員へ支給する通信費補助は、合理的な計算に基づく実費精算であれば「通信費」として経費処理可能
  • 一律定額(例:月5,000円)を支給する場合、業務使用の実態を超える部分は給与課税の対象となるリスクがある
  • BYOD規程を整備し、補助額の算定根拠(業務使用割合の目安、対象となる費用の範囲)を文書化しておく

注意:BYOD方式で通信費を一律定額支給する場合、税務調査で「実質的に給与ではないか」と指摘されることがあります。これを避けるには、従業員に通信料明細の提出を求め、業務使用割合を確認したうえで精算する仕組みを作ることが重要です。BYOD規程のひな形がない場合は、早めに専門家へご相談ください。

04税務調査で否認されない記録術——日常の5つの習慣

按分根拠は「作った」だけでは不十分で、「継続的に記録・保存している」ことが信頼性を高めます。以下の5つの習慣を日常業務に組み込みましょう。

  1. 毎月の通話明細PDFを保存:キャリアのマイページから毎月ダウンロードし、クラウドストレージに年月フォルダを作って格納
  2. スクリーンタイムのスクリーンショットを月末に撮影:アプリ別使用時間の記録として有効
  3. 按分率算定シートの更新:Excelやスプレッドシートで月別の按分率を記録し、年度ごとにファイルを保管
  4. 端末購入時の証憑にIMEI番号を記載:どの端末を事業用としているかを明確にする
  5. 法人の場合は取締役会議事録等で端末購入を記録:小規模法人でも購入決定の経緯を議事録に残しておくと有効

これらの記録は、税務調査の際に「事業との関連性」と「按分の合理性」を説明するための客観的資料となります。記録が何もない状態で調査を受けると、経費そのものを全額否認される可能性もあるため、日頃からの習慣化が大切です。

05よくある質問と実務上の注意点

ケースカバーや保護フィルムも経費になる?

事業用端末のアクセサリー(ケース、保護フィルム、充電器等)は「消耗品費」として経費処理できます。プライベート兼用端末の場合は、端末本体と同じ按分率を適用するのが合理的です。

分割払いで端末を購入した場合は?

キャリアの分割払い(24回・36回等)で購入した場合でも、会計上は購入時点の取得価額で資産計上または一括経費処理を行います。毎月の支払額をそのまま経費にするのではなく、取得価額全体で判定する点に注意してください。分割払いの未払残高は「未払金」として処理します。

この記事のまとめ
  • スマホ・タブレットの購入費用は取得価額に応じて「消耗品費」「一括償却資産」「少額減価償却資産の特例」「工具器具備品(減価償却)」のいずれかで処理する
  • 月額通信料は「通信費」で処理し、プライベート兼用なら通話明細・スクリーンタイム等を根拠に按分する
  • 1台持ちは按分必須、2台持ち(事業専用)は全額経費が可能、BYODは給与課税リスクに注意し規程を整備する
  • 按分根拠は毎月の通話明細・スクリーンタイムのスクリーンショット・算定シートの3点セットで継続的に記録する
  • 税務調査では「合理的な基準」と「継続的な記録」の2つが揃っているかが最大のポイント