「今年の利益はどのくらいで着地しそうか」「消費税の納税資金は足りるのか」――創業1〜3期目の12月決算法人や個人事業主にとって、年末に向けたこの2つの問いは、同時に解決しなければならない最大の課題です。2026年10月、ちょうど決算まで残り約2か月半。このタイミングで試算表を開き、損益と消費税を”連動”させて打ち手を決められるかどうかが、年明けのキャッシュフローを大きく左右します。本記事では、10月の試算表データを起点に実行すべき5つの施策を具体的に解説します。

01なぜ「10月の試算表」がターニングポイントなのか

12月決算の場合、1月〜9月の実績が固まった10月時点の試算表は、年間の約75%の数字が確定した状態です。ここから残り3か月の売上・経費をシミュレーションすることで、利益の着地予測の精度は格段に上がります。

一方、消費税については、課税売上高と課税仕入高の年間累計から納税額の概算を把握できるのもこの時期です。仮に年間の課税売上高が3,000万円、課税仕入高が1,200万円の本則課税事業者であれば、概算の消費税納税額は(3,000万円 − 1,200万円)× 10% = 180万円。この金額を年末までにプールできるかどうか、10月に確認しておかなければ手遅れになりかねません。

利益の着地と消費税の納税額は、経費の増減や設備投資によって同時に動きます。だからこそ、個別ではなく「連動」させて施策を考えることが重要です。

02施策1:経費の前倒し・繰延べ判断——利益と消費税を同時に動かす

10月の試算表で「思ったより利益が出ている」場合、年内に予定していた経費を前倒しすることで利益を圧縮できます。たとえば、来年1月に予定していた広告出稿やコンサルティング契約を12月中に実行・支払いすれば、当期の損金として計上できます。

ここで重要なのは、その経費が課税仕入れに該当するかどうかです。課税仕入れであれば、本則課税の場合は消費税の仕入税額控除が増えるため、法人税等と消費税の両方を引き下げる効果があります。一方、給与や社会保険料の前倒し(たとえば賞与の支給)は、利益の圧縮にはなりますが消費税の仕入税額控除には影響しません。

判断のポイント

  • 課税仕入れに該当する経費(広告費、外注費、消耗品費など)の前倒しは、法人税等と消費税の両方に効果がある
  • 不課税・非課税の経費(給与、社会保険料、保険料など)の前倒しは、法人税等のみに効果がある
  • 逆に利益が少ない場合は、経費の繰延べ(来期への先送り)を検討し、今期の赤字幅を抑える

ポイント:経費を前倒しする場合、「実際に役務の提供を受けている」「物品が納品されている」など、当期の損金として認められる要件を満たしているか必ず確認しましょう。単に請求書の日付だけを操作するのは税務上認められません。

03施策2:売上の期ずれリスク確認——意図しない利益変動を防ぐ

創業期に見落としがちなのが「売上の計上時期」の問題です。たとえば12月末に納品が完了した商品の売上を、入金が1月だからといって来期に計上してしまうと「期ずれ」として税務調査で指摘される可能性があります。

売上の計上基準は、原則として「引渡基準」です。10月の段階で、11月〜12月に完了予定のプロジェクトや納品スケジュールを洗い出し、当期に計上すべき売上を正確に見積もりましょう。

チェックすべき項目

  1. 12月中に検収・納品が完了する案件のリストアップ
  2. 継続的なサービス提供の場合、契約上の役務提供完了日の確認
  3. 前受金として処理している売上のうち、当期に収益認識すべきものの有無

売上が正しく計上されていなければ、利益予測も消費税の課税売上高も狂います。10月のうちに営業部門・プロジェクト担当者と連携して、年内の売上着地を精緻に見積もることが不可欠です。

04施策3:消費税の簡易課税・本則課税の有利不利チェック

2026年12月期が課税期間となる事業者で、基準期間(2024年12月期)の課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度を選択できる可能性があります。ただし、簡易課税の届出(消費税簡易課税制度選択届出書)は、原則として適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに提出が必要です。つまり2026年12月期に適用するためには、2025年12月31日までに届出を済ませている必要があり、今から届出を出しても2026年12月期には間に合いません。

しかし、来期(2027年12月期)に向けた検討は今がちょうどよい時期です。10月の試算表から年間の課税売上高と課税仕入高を予測し、本則課税と簡易課税でどちらが有利かをシミュレーションしておきましょう。

簡易課税の有利・不利の目安

  • 課税仕入れの割合が低い業種(コンサルティング、IT開発など)は、簡易課税のみなし仕入率が有利になるケースが多い
  • 設備投資が多い年は本則課税のほうが仕入税額控除を多く取れるため有利になることがある
  • インボイス制度の2割特例の適用期間(2026年9月30日を含む課税期間まで)を過ぎた事業者は、改めて簡易課税の検討が重要になる

注意:2割特例(インボイス発行事業者の負担軽減措置)は、2026年9月30日の属する課税期間までが適用対象です。12月決算法人の場合、2026年12月期はこの期間に含まれるため適用可能ですが、2027年12月期以降は対象外となります。来期の消費税負担が大きく変わる可能性があるため、今のうちにシミュレーションを行いましょう。

05施策4:設備投資の年内実行判断——減価償却と消費税控除の両面で考える

パソコン、業務用ソフトウェア、車両など、来期以降に予定している設備投資を年内に前倒しすべきかどうかは、利益の着地と消費税の両面から判断します。

法人税等の観点

取得価額が30万円未満の資産であれば、中小企業者等の少額減価償却資産の特例により、年間合計300万円まで全額を即時償却できます(青色申告が要件)。それを超える資産は耐用年数に応じた減価償却となるため、当期の利益圧縮効果は限定的です。

消費税の観点

本則課税であれば、設備投資にかかる消費税は仕入税額控除の対象となります。たとえば税込330万円(税抜300万円)の車両を12月に購入すれば、30万円の仕入税額控除が発生します。これは利益の圧縮とは別に、消費税の納税額を直接引き下げる効果があります。

ただし、簡易課税を適用している場合は、実際の仕入税額ではなくみなし仕入率で計算するため、設備投資を行っても消費税の納税額には影響しません。この点を誤解している経営者は少なくないため、注意が必要です。

06施策5:納税資金の口座プール計画——「払えない」を防ぐ仕組みをつくる

利益が出ていても、納税資金がなければ意味がありません。特に消費税は「預かっている」性質の税金であり、手元に残っていなければならない資金です。

10月からの具体的アクション

  1. 10月の試算表から法人税等と消費税の概算納税額を計算する
  2. 納税用の専用口座(または専用の定期預金)を開設し、毎月の売上入金時に一定割合を自動的に移す
  3. 消費税の納税額については、月次売上の10%程度を目安にプールする(簡易課税の場合はみなし仕入率を考慮して調整)
  4. 12月末時点で納税額に不足がないか最終チェックを行い、不足があれば12月中に手当てする

たとえば、年間の消費税納税額が180万円と見込まれる場合、10月〜12月の3か月で毎月60万円ずつプールすれば、確定申告時の納税に備えられます。すでに1月〜9月分の一部をプール済みであれば、不足分だけを補填する計算になります。

法人税等についても同様に、予想税額の不足分を計算し、12月末までにプールしておく計画を立てましょう。12月決算法人の場合、法人税の申告・納付期限は原則として2027年2月末日、消費税の申告・納付期限は2027年3月末日です。

075つの施策を「連動」させて考える

ここまで紹介した5つの施策は、それぞれ独立しているように見えて、実はすべて相互に影響しています。たとえば、設備投資を年内に実行すれば、利益が圧縮され、本則課税であれば消費税も減り、結果として納税資金のプール額も変わります。

大切なのは、10月の試算表をもとに「何もしなかった場合」の着地予測をまず立て、そこから各施策を加減したシミュレーションを複数パターン用意することです。Excelでもクラウド会計ソフトのシミュレーション機能でも構いません。数字に基づいて意思決定することが、創業期の経営を安定させる最大のポイントです。

この記事のまとめ
  • 10月の試算表は年間の約75%の実績が固まっており、年末の利益着地と消費税納税額を予測する最適なタイミングである
  • 経費の前倒し・繰延べは、課税仕入れかどうかで消費税への影響が異なるため、法人税等と消費税の両面で判断する
  • 売上の期ずれリスクは、利益予測と消費税計算の両方を狂わせるため、11〜12月の納品・検収スケジュールを10月中に確認する
  • 2割特例は2026年12月期まで適用可能だが、来期以降の消費税負担増に備えて簡易課税の届出を検討すべき時期である
  • 設備投資は少額減価償却資産の特例や仕入税額控除の可否を踏まえて、年内実行の要否を判断する
  • 納税資金は専用口座にプールする仕組みをつくり、10月から逆算して毎月の積立額を決める