「今年は業績が良さそうだから、スタッフに年末賞与を出してあげたい。でも、いくらまでなら出せるのか、届出は必要なのか、社会保険料はどれだけ増えるのか――」。創業期の経営者にとって、初めての賞与支給は分からないことだらけです。本記事では、2026年10月時点の試算表をもとに賞与原資を逆算し、届出要件や社会保険料の上乗せコストまで含めた「賞与の真のコスト」を把握するためのフレームワークを解説します。

01なぜ「10月中」に判断すべきなのか

年末賞与の支給日を12月に設定している会社が多いと思いますが、実は10月の段階で意思決定しておくべき理由が3つあります。

  1. 試算表の精度が上がるタイミング:9月締めの試算表が出来上がるのが10月上旬。上期(1月〜6月決算なら本決算後)の実績が固まり、通期着地見込みの精度が高まります。
  2. 届出や手続きの準備期間を確保できる:法人の事前確定届出給与や、個人事業主の専従者給与の変更届出など、所定の手続きには一定のリードタイムが必要です。
  3. 従業員への早期アナウンスでモチベーションを維持できる:「賞与があるかどうか分からない」状態が続くと、創業期の少人数チームでは士気に大きく影響します。

0210月の試算表から賞与原資を逆算する方法

ステップ1:通期の税引前利益を予測する

9月までの実績をベースに、10月〜12月の売上・経費を見積もります。創業期は月次のブレが大きいため、楽観・標準・悲観の3パターンで見積もることをおすすめします。

ステップ2:目標税引前利益を設定する

賞与を支給した後でも最低限確保しておきたい利益ラインを決めます。例えば「法人税等を支払った後に手元に300万円残したい」なら、実効税率を約25%と仮定して税引前利益は約400万円が目標です。

ステップ3:賞与の「総コスト」を算出する

ここが最も見落としやすいポイントです。賞与の支給額そのものに加え、会社負担の社会保険料がかかります(詳しくは後述)。たとえば従業員3名に各30万円、合計90万円の賞与を支給する場合、会社負担の社会保険料を含めた真のコストは約104万円になります。

計算式は以下のとおりです。

賞与原資の上限 = 通期予測税引前利益 − 目標税引前利益

この「賞与原資の上限」の中に、賞与額面+会社負担社会保険料の合計が収まるかどうかを確認しましょう。

ポイント:賞与を経費(損金)にできれば法人税等の負担が減ります。たとえば賞与総コスト104万円を損金算入できた場合、実効税率25%なら約26万円の税軽減効果があるため、実質的な手取りベースの負担は約78万円になります。「出すか出さないか」だけでなく、「税引後の実質負担はいくらか」で判断することが重要です。

03法人の場合:事前確定届出給与の届出要件を確認する

役員賞与は届出なしでは損金不算入

法人が役員に対して賞与を支給する場合、原則として損金不算入です。損金に算入するためには「事前確定届出給与に関する届出書」を所轄税務署に提出する必要があります。届出期限は以下のいずれか早い日です。

  • 株主総会等の決議日から1か月を経過する日
  • 事業年度開始の日から4か月を経過する日

つまり、3月決算法人であれば2026年7月末までに届出を済ませている必要があります。10月の時点で届出をしていなければ、今期の役員賞与は損金算入できません。

従業員賞与は届出不要

一方、使用人(従業員)に対する賞与は、届出なしで損金算入が可能です。ただし、未払計上して損金にするには、期末までに「支給額が各人に通知されていること」「通知した事業年度の翌期首から1か月以内に支払われること」など一定の要件を満たす必要があります。12月中に現金で支給してしまえばシンプルですので、創業期はこの方法が安全です。

注意:事前確定届出給与は届け出た金額と実際の支給額が1円でも異なると全額が損金不算入になります。届出を提出済みの場合は、届出内容どおりに支給してください。資金繰りの都合で減額せざるを得ない場合は、支給を見送る(ゼロにする)方が税務上は有利になるケースがあります。

04個人事業主の場合:専従者給与の変更届出の要否

個人事業主が青色事業専従者に賞与を支給する場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」にあらかじめ賞与の金額・支給時期を記載している必要があります。届出書に賞与の記載がない場合、あるいは届出額を超える金額を支給したい場合は、変更届出書を事前に提出しなければなりません。

変更届出書は「遅滞なく」提出することとされていますので、賞与支給を決定したら速やかに届出を行いましょう。10月中に判断すれば、12月支給に十分間に合います。

05社会保険料の「上乗せコスト」をシミュレーション

賞与にも健康保険料・厚生年金保険料がかかります。2026年度の保険料率(協会けんぽ・東京都の場合)を前提に、従業員1人あたり30万円の賞与を支給したときの会社負担分を試算します。

  • 健康保険料(介護保険該当なし):標準賞与額30万円 × 約4.985% = 約14,955円
  • 厚生年金保険料:標準賞与額30万円 × 9.15% = 27,450円
  • 雇用保険料(会社負担):30万円 × 0.95% = 2,850円
  • 労災保険料(その他の事業):30万円 × 0.3% = 900円

合計すると、会社負担の社会保険料等は約46,155円。賞与額面30万円に対して約15.4%の上乗せコストが発生します。

従業員3名なら、賞与額面90万円+社会保険料約13.8万円=約103.8万円が「賞与の真のコスト」です。手取りベースで見ると、従業員側も社会保険料・所得税が天引きされるため、額面30万円に対して手取りは約24万〜25万円程度になります。

06意思決定フレームワーク:5つのチェックリスト

最後に、10月中に年末賞与の可否を判断するためのチェックリストを整理します。

  1. 通期利益の着地見込み:3パターンの予測を立て、悲観シナリオでも目標利益を確保できるか
  2. 賞与の真のコスト:額面+会社負担社会保険料の合計を算出し、利益の範囲内か
  3. 届出要件の充足:役員賞与なら事前確定届出給与の届出済みか、専従者給与なら届出書に賞与の記載があるか
  4. 資金繰り:12月の支給日に十分な現預金があるか(納税資金・年明けの支払いとの兼ね合い)
  5. 従業員への効果:金額の多寡だけでなく、支給基準やメッセージを明確にし、次期以降の期待値コントロールができるか

これら5項目をすべてクリアできれば、賞与支給に踏み切ってよいでしょう。逆に1つでも不安が残る場合は、賞与を見送るか、金額を縮小する判断も立派な経営判断です。

この記事のまとめ
  • 年末賞与の判断は10月中に行うのがベスト。9月までの試算表をもとに通期利益を予測し、賞与原資を逆算する
  • 法人の役員賞与は事前確定届出給与の届出がなければ損金不算入。従業員賞与は届出不要だが、未払計上には要件あり
  • 個人事業主の専従者賞与は、届出書への記載が必須。記載がなければ変更届出を速やかに提出する
  • 賞与額面に対して約15%の社会保険料が会社負担として上乗せされる。「真のコスト」で意思決定することが重要
  • 利益見込み・届出要件・資金繰り・従業員への効果の4軸で総合的に判断する