「売上は伸びているけれど、12月末にいくら納税資金を用意すればいいのか分からない」「経費を使うべきか、節約すべきか判断できないまま年末が近づいている」——創業期の経営者にとって、9月末は年間着地を見通せる最後のターニングポイントです。9か月分の実績データが揃う今こそ、楽観・標準・悲観の3シナリオで着地予測を行い、残り3か月の打ち手を具体的に決めましょう。
01なぜ「9月末」が第3四半期レビューの最適タイミングなのか
12月決算の法人および12月末が事業年度の個人事業主にとって、9月末は年間売上の75%が確定するタイミングです。1〜3月の立ち上がり、4〜6月の繁閑、7〜9月の夏商戦を経て、事業の実力値が数字に表れます。
残り3か月(10月〜12月)はまだ十分な調整余地があります。一方で、11月を過ぎると届出の期限や発注のリードタイムの関係で「打てる手」が急速に減ります。つまり、2026年9月末の今がレビューに最適なタイミングです。
023シナリオ試算の基本フレーム
ステップ1:9か月実績を集計する
まず、2026年1月〜9月の損益を確定させます。確認すべき数字は以下の5項目です。
- 売上高(税抜)
- 売上原価(仕入・外注費)
- 販管費(人件費・家賃・広告費など)
- 営業外損益(利息・雑収入など)
- 仮払消費税・仮受消費税の差額
ステップ2:月次平均を算出し、3パターンの乗数をかける
9か月の月次平均売上・月次平均経費を算出し、残り3か月に以下の乗数をかけて年間着地を試算します。
- 楽観シナリオ:月次平均売上 × 1.2倍、経費は据え置き
- 標準シナリオ:月次平均売上 × 1.0倍、経費も据え置き
- 悲観シナリオ:月次平均売上 × 0.8倍、経費は据え置き(固定費が多い創業期は売上が減っても経費は下がりにくい)
たとえば、9か月の月次平均売上が150万円の個人事業主の場合、残り3か月の売上見込みは楽観540万円・標準450万円・悲観360万円となり、年間着地は楽観1,890万円・標準1,800万円・悲観1,710万円と分かれます。
ポイント:創業1〜2期目は季節変動の実績データが少ないため、乗数の設定は受注残・商談パイプラインといった先行指標をベースに調整してください。「なんとなく1.2倍」ではなく、具体的な案件名と金額を積み上げると精度が上がります。
ステップ3:税額を概算する
3シナリオごとに課税所得を計算し、法人税(法人の場合)または所得税・住民税・事業税(個人事業主の場合)の概算額を出します。
個人事業主の場合の概算例を示します(青色申告65万円控除、基礎控除48万円、社会保険料控除60万円と仮定)。
- 楽観(課税所得500万円の場合):所得税約57万円+住民税約50万円+事業税約13万円=合計約120万円
- 標準(課税所得420万円の場合):所得税約42万円+住民税約42万円+事業税約9万円=合計約93万円
- 悲観(課税所得330万円の場合):所得税約27万円+住民税約33万円+事業税約5万円=合計約65万円
法人の場合は、資本金1億円以下・年所得800万円以下の軽減税率15%と、800万円超部分の23.2%を用いて試算します。地方法人税・法人住民税・法人事業税を含めた実効税率は概ね約34%前後(中小法人・所得800万円超部分)として概算してください。
03試算結果をキャッシュフローと届出判断に接続する
納税資金の確保
3シナリオの税額が出たら、最も税額が大きい楽観シナリオの金額を「納税準備口座」に確保しておくのが鉄則です。標準シナリオとの差額は、確定後に運転資金へ戻せます。「足りなかった」は資金繰りを直撃しますが、「余った」は問題になりません。
届出・申請の判断基準
10月〜12月に検討すべき届出・判断事項を整理します。
- 消費税の簡易課税制度選択届出書:2027年1月〜12月の課税期間に適用を受けるには、原則として2026年12月末までに提出が必要です。2026年の課税売上高が5,000万円以下で、かつ仕入率が低い業種(サービス業など)であれば、3シナリオの消費税額を本則課税と簡易課税で比較し、有利判定を行いましょう。
- 小規模企業共済・iDeCoの年払い:2026年分の所得控除として使うには12月末までに払い込む必要があります。楽観シナリオで課税所得が高くなる場合、掛金の増額を検討する余地があります。小規模企業共済は月額上限7万円(年84万円)、iDeCoは個人事業主の場合、国民年金基金等と合算で月額6.8万円が上限です。
- 30万円未満の少額減価償却資産の特例:中小企業者等が取得価額30万円未満の資産を即時償却できる特例(年間合計300万円が上限)の活用を検討します。楽観シナリオで利益が大きい場合、年内に必要な設備投資を前倒しすることで課税所得を圧縮できます。
注意:節税目的だけで不要な経費を使うのは本末転倒です。「利益を圧縮できた」としても、手元資金が減っては創業期の資金繰りを悪化させます。3シナリオの試算で「楽観でも資金に余裕がある」場合にのみ、投資の前倒しを検討してください。
04ワークシートの作り方と活用法
試算を毎年再現できるよう、以下の構成でスプレッドシートを作成しておくと便利です。
- Sheet1「月次実績」:1月〜9月の売上・原価・販管費・営業利益を月別に入力
- Sheet2「3シナリオ予測」:月次平均に乗数をかけた10月〜12月の予測値を自動計算し、年間合計を算出
- Sheet3「税額シミュレーション」:課税所得から所得税・住民税・事業税(または法人税等)を概算
- Sheet4「アクションリスト」:届出期限・投資判断・資金移動のToDoを期限付きで管理
Sheet2の乗数セルだけを変えれば、何パターンでもシミュレーションを回せます。受注が確定するたびに乗数を更新し、10月末・11月末にもレビューを行うことで精度を高めていきましょう。
05残り3か月で優先すべきアクション
最後に、10月〜12月に取り組むべき事項を時系列で整理します。
- 10月上旬:9月末の試算表を確定し、3シナリオ試算を完成させる。税理士と着地見込みを共有する。
- 10月中旬〜下旬:消費税の簡易課税選択の有利判定、小規模企業共済・iDeCoの掛金変更を検討。納税準備口座への資金移動を開始する。
- 11月:必要な設備投資・広告投資の意思決定。請求書の発行漏れ・経費計上漏れがないか棚卸しする。
- 12月上旬:届出書の提出期限を最終確認。年末調整(法人で給与を支払っている場合)の準備を開始する。
- 12月下旬:最終月の売上・経費を締め、確定申告に向けた資料整理を始める。
- 9月末は12月決算の75%が確定する「第3四半期レビュー」の最適タイミング
- 月次平均に乗数(1.2 / 1.0 / 0.8)をかけ、楽観・標準・悲観の3シナリオで年間着地を試算する
- 税額は最も大きい楽観シナリオの金額を納税準備口座に確保しておくと安心
- 消費税届出・小規模企業共済・少額減価償却資産の特例など、12月末期限の判断を10月中に済ませる
- ワークシートを作成し、10月末・11月末にも乗数を更新して精度を高める
