「年末に近づくと、なぜか入金が遅れる取引先が増える」——そんな不安を感じたことはないでしょうか。創業から間もないスタートアップや個人事業主にとって、たった1件の貸倒れが資金繰りを一気に悪化させることは珍しくありません。東京商工リサーチの調査によれば、企業倒産件数は例年10月〜12月にかけて増加する傾向にあります。2026年もその例外ではありません。本記事では、10月の試算表を活用した売掛金の滞留チェックから、取引先ごとの簡易与信スコアの算出方法、そして回収が危ぶまれる場合の具体的なアクションプランまでを時系列で整理します。

01なぜ10月〜12月に貸倒れリスクが高まるのか

年末は多くの企業にとって資金需要が集中する時期です。賞与の支払い、仕入代金の決済、年末調整にかかる事務コストなど、キャッシュアウトが重なります。特に中小零細企業や創業間もない企業は、金融機関からの追加融資が受けにくい場合もあり、支払い遅延が発生しやすくなります。

創業期の企業にとって深刻なのは、売掛金が総資産に占める割合が大きいことです。取引先が2〜3社に集中しているケースでは、そのうち1社の入金が滞っただけで月次の資金繰りが破綻するリスクがあります。だからこそ、10月のこの時期に「先手を打つ」ことが極めて重要です。

0210月の試算表から売掛金の滞留状況を洗い出す

売掛金の「年齢表」を作る

まず取り組むべきは、2026年9月末時点(または10月の最新試算表)の売掛金残高を取引先ごとに一覧化し、滞留期間別に分類する「売掛金年齢表(エイジングレポート)」の作成です。以下の区分で整理してみましょう。

  • 正常(0〜30日):支払期日内、または期日から30日以内
  • 要注意(31〜60日):支払期日を1か月以上超過
  • 警戒(61〜90日):支払期日を2か月以上超過
  • 危険(91日以上):支払期日を3か月以上超過

クラウド会計ソフト(freee・マネーフォワード等)を利用している場合は、取引先別の売掛金レポートを出力すれば、この分類は比較的容易です。Excelで管理している方は、請求日・支払期日・入金日の3列を必ず記録し、ピボットテーブルで集計するとよいでしょう。

滞留売掛金の「危険度」を数値化する

年齢表ができたら、取引先ごとに以下の5項目を簡易的にスコアリングします(各項目1〜5点、合計25点満点)。

  1. 支払遅延の頻度:過去6か月で遅延が何回あったか(0回=5点、3回以上=1点)
  2. 遅延日数の長さ:直近の遅延が何日間か(0日=5点、60日超=1点)
  3. 取引金額の集中度:売上全体に占める割合(10%未満=5点、50%以上=1点)
  4. 先方の業績情報:公開情報やヒアリングで把握した経営状態(良好=5点、悪化兆候あり=1点)
  5. 担保・保証の有無:契約書の有無や連帯保証人の設定(あり=5点、なし=1点)

合計点が15点以下の取引先は「要対策先」として、次章で解説する回収強化アクションに進んでください。

ポイント:スコアリングは完璧を目指す必要はありません。重要なのは「なんとなく不安」という感覚を数値に変換し、優先順位をつけることです。創業期は取引先の数が少ないぶん、1社あたり10分もあれば十分にチェックできます。

03回収強化の時系列アクションプラン(10月〜12月)

ステップ1:10月中——友好的な確認連絡と条件交渉

まずは電話やメールで「年末に向けた入金スケジュールの確認」という形で接触します。この段階では督促ではなく、あくまで確認です。支払いが厳しそうな兆候があれば、分割払いの提案や支払期日の再設定を早めに交渉しましょう。口頭の合意であっても、メールや書面で記録を残すことが大切です。

ステップ2:11月上旬——督促文の送付

10月中に改善が見られない場合は、書面での督促に移行します。督促文には以下の要素を盛り込みます。

  • 請求書番号・請求金額・支払期日の明記
  • 現在の滞留日数
  • 支払い期限の再設定(到達から7〜14日後を目安)
  • 「期限までにお支払いがない場合は法的措置を検討する」旨の記載

文面は丁寧かつ毅然とした表現にします。「お忙しいところ恐れ入りますが」と前置きしつつも、期限と金額を明確に記載することで、相手に支払い意思を促す効果があります。

ステップ3:11月下旬——内容証明郵便の送付

督促文に対しても反応がない場合は、内容証明郵便を送付します。内容証明は郵便局の窓口で差し出す方法のほか、「e内容証明(電子内容証明)」を使えばオンラインでも手続きが可能です。費用は電子内容証明の場合で約1,500円〜2,000円程度です。

内容証明を送ることで「いつ、どのような内容の文書を送ったか」が公的に証明されるため、後の法的手続きにおいて有力な証拠となります。

ステップ4:12月——少額訴訟・支払督促の検討

それでも回収できない場合は、法的手段の検討に入ります。債権額が60万円以下であれば「少額訴訟」、それ以上であれば「支払督促」の申立てが実務上よく用いられます。少額訴訟は原則1回の期日で判決が出るため、スピーディーです。いずれも弁護士に依頼せず本人申立てが可能ですが、不安な場合は弁護士や認定司法書士への相談を検討してください。

注意:法的手続きに着手する前に、取引先が既に破産手続開始の申立てをしていないか確認してください。破産手続が開始されると個別の回収行為は禁止されます。また、創業期に取引先との関係を完全に断つことのリスクも踏まえ、経営判断として慎重に進めることが大切です。

04回収不能になった場合の税務処理——貸倒損失の要件

最善を尽くしても回収できなかった売掛金は、一定の要件を満たすことで「貸倒損失」として損金(経費)に算入できます。法人税基本通達では、貸倒損失が認められるケースとして主に以下の3つを定めています。

  1. 法律上の貸倒れ(基通9-6-1):会社更生法・民事再生法・破産法等の法的整理により、債権の全部または一部が切り捨てられた場合
  2. 事実上の貸倒れ(基通9-6-2):債務者の資産状況・支払能力等から、債権の全額が回収不能であることが明らかになった場合
  3. 形式上の貸倒れ(基通9-6-3):継続的な取引を行っていた債務者に対する売掛債権について、最後の弁済期日から1年以上経過した場合(担保物がある場合を除く)。備忘価額1円を残して損金算入可能

いずれの場合も、回収努力を行った事実の記録(督促文の控え、内容証明の謄本、メールの履歴等)が税務調査で重要な証拠となります。「何もせずに諦めた」では貸倒損失として認められないリスクがありますので、前章のアクションプランを確実に実行し、記録を保管しておきましょう。

05創業期だからこそ「与信管理」を仕組み化する

貸倒れ対策は「問題が起きてから対処する」のではなく、日頃から仕組みとして運用することが理想です。創業期でもすぐに取り組める施策として、以下を検討してください。

  • 新規取引開始時の与信チェック:法人であれば登記情報の確認、帝国データバンクやリスクモンスター等の簡易レポート(数百円〜数千円)の活用
  • 契約書の整備:支払条件・遅延損害金(年14.6%等)・期限の利益喪失条項を明記した契約書を交わす
  • 入金確認の自動化:クラウド会計とネットバンキングを連携し、入金予定日に未入金アラートを設定する
  • 売掛金残高の月次レビュー:毎月の試算表チェック時に、滞留状況をあわせて確認する習慣をつける

これらの取り組みは、一つひとつは小さなことですが、創業期の限られたキャッシュフローを守る「防波堤」になります。

この記事のまとめ
  • 10月〜12月は取引先の資金繰りが逼迫しやすく、売掛金の貸倒れリスクが高まる時期。創業期は影響が特に大きい
  • 9月末・10月の試算表から売掛金年齢表を作成し、取引先ごとに5項目の簡易与信スコアで危険度を数値化する
  • 回収強化は「10月:友好的な確認」「11月上旬:督促文」「11月下旬:内容証明」「12月:法的手段」と段階的に進める
  • 回収不能時の貸倒損失の税務処理には、法律上・事実上・形式上の3類型があり、いずれも回収努力の記録が不可欠
  • 新規取引時の与信チェックや契約書の整備など、日常の仕組み化が最大の予防策になる