「来期の事業計画を作りたいけれど、何から手をつければいいのか分からない」「融資の面談で計画書を求められたが、数字の根拠をうまく説明できなかった」——創業期の経営者からこうしたご相談をいただくことが増える時期になりました。2026年10月、今期の実績データが9か月分そろった今こそ、来期の計画を”感覚”ではなく”数字”で組み立て始める絶好のタイミングです。本記事では、一枚のワークシートに売上・原価・固定費・納税額を月別に落とし込み、融資や補助金申請にもそのまま転用できる事業計画の作り方を解説します。
01なぜ10月に「来期の計画」を始めるのか
12月決算の法人であれば、10月時点で1月〜9月の9か月分の実績が確定しています。3月決算法人でも上半期の実績に加え、7〜9月の数字が出そろうため、年間着地予測の精度が飛躍的に上がります。年末や年度末ぎりぎりに慌てて計画を作ると、節税策や設備投資の判断が後手に回りがちです。10月に着手すれば、今期の残り3か月の打ち手と来期の計画を同時に検討できるという大きなメリットがあります。
創業期に事業計画が必要な3つの場面
- 金融機関の融資面談——数字の根拠がある計画書は審査担当者の納得感が段違いです
- 補助金・助成金の申請——事業計画の妥当性は採択率に直結します
- 自社の意思決定——「いつ人を採用するか」「設備投資の回収は何か月か」を客観的に判断できます
02ステップ1:今期9か月の実績から年間着地を予測する
ワークシート作成の出発点は「今期がいくらで着地するか」の予測です。以下の手順で進めましょう。
- 月次試算表を並べる——2026年1月〜9月(または直近9か月分)の売上高・変動費(原価)・固定費の月別推移を一覧にします。
- 季節変動を把握する——売上が特定の月に偏っていないか確認します。飲食業なら12月、建設業なら年度末といった繁閑差を前年データと照合します。
- 残り3か月を見積もる——受注残・契約済み案件をベースに楽観・中間・悲観の3シナリオで10月〜12月の売上を見積もります。
- 年間着地を算出する——9か月実績+3か月見積もり=年間着地予測となります。
たとえば、1月〜9月の売上合計が1,800万円、月平均200万円の事業であれば、残り3か月も同水準と仮定して年間着地は約2,400万円です。ただし、12月に大型案件が入る予定なら上振れ要因として別途加算します。
ポイント:着地予測はあくまで「仮の数字」で構いません。精度は70〜80%あれば十分です。大切なのは数字を出してから修正するプロセスを回すことであり、完璧な予測を最初から求める必要はありません。
03ステップ2:来期の月別ワークシートに落とし込む5つの項目
今期の着地予測ができたら、来期(2027年1月〜12月を想定)の月別計画を以下の5項目で作成します。Excelやスプレッドシートで十分対応可能です。
項目A:月別売上高
今期の月別実績に成長率を乗せて設定します。創業2〜3年目であれば、年間成長率10〜20%を目安にする方が多いですが、根拠なき右肩上がりは禁物です。既存顧客の継続率、新規獲得チャネルの見込み件数など、積み上げ式で算出しましょう。
項目B:変動費(原価)
今期の原価率(原価÷売上)を算出し、来期も同率で推移すると仮定します。たとえば今期の原価率が40%なら、来期売上2,800万円に対して変動費は1,120万円です。仕入先の変更や外注比率の見直しがあれば、その分を調整します。
項目C:固定費
家賃・人件費・保険料・通信費・リース料など、売上に連動しない費用です。来期に「人を1名採用する」「オフィスを移転する」といった計画があれば、その月から金額を上乗せします。人件費は社会保険料の会社負担分(給与の約15%)も忘れず加算してください。
項目D:設備投資
パソコン、車両、内装工事など、来期に予定している投資額を月別に配置します。減価償却費として翌月以降の固定費にも反映させる点が見落とされがちです。
項目E:納税スケジュール
法人税・消費税・住民税・事業税の納付月と概算額を記載します。12月決算法人であれば、確定申告の納付は翌年2月末、予定納税(中間申告)は8月末が目安です。消費税の課税事業者は中間納付の有無も確認しましょう。個人事業主の場合は所得税の予定納税(7月・11月)と確定申告(3月)を忘れずに組み込みます。
注意:納税資金の確保は創業期に最もつまずきやすいポイントです。特に消費税のインボイス登録をしたばかりの事業者は、初めて発生する消費税納付額に驚くケースが少なくありません。月次ワークシートに納税月の資金流出を明記しておくことで、「納税月に資金がショートする」事態を未然に防げます。
04ステップ3:融資・補助金に転用できる計画書に仕上げる
ワークシートの数字が固まったら、以下の3点を加えることで、そのまま融資面談や補助金申請に使える事業計画書にグレードアップできます。
- 前提条件の明記——成長率の根拠、原価率の算出方法、人員計画など「なぜその数字になったのか」を一段落で添えます。
- 資金繰り表の併記——売上の入金サイトと仕入の支払サイトを反映した月次キャッシュフローを作成します。売上が伸びていても入金が遅ければ資金はマイナスになり得ます。
- 損益分岐点の算出——固定費÷(1−変動費率)で損益分岐売上を計算し、「月商いくらを超えれば黒字か」を明示すると説得力が増します。たとえば固定費が月80万円、変動費率40%なら、損益分岐点は月約133万円です。
05ステップ4:計画と実績の乖離を月次でモニタリングする仕組み
計画は「作って終わり」ではなく、毎月の実績と比較して初めて意味を持ちます。月次モニタリングのポイントは次の3つです。
- 月次試算表との突合——翌月15日までに前月の試算表を確定させ、計画値との差額を自動算出する列をワークシートに追加します。
- 乖離率のアラート基準を設定——売上が計画比マイナス15%以上、固定費がプラス10%以上といった基準を決めておくと、対策の初動が早くなります。
- 四半期ごとのローリング修正——3か月に一度、残り期間の計画を実績ベースで上書きし、年間着地予測をアップデートします。
月次で数字を追いかける習慣がつくと、経営判断のスピードと精度が格段に上がります。「先月の固定費が想定より5万円高い。原因は外注費の増加だ。来月から内製に切り替えよう」といった具体的なアクションに直結するからです。
06ワークシート運用で陥りがちな3つの落とし穴
- 売上を楽観的に盛りすぎる——計画が絵に描いた餅になる最大の原因です。根拠のない成長率は避け、顧客数×単価×リピート率で積み上げましょう。
- 税金を後回しにする——「利益が出てから考える」では手遅れです。計画段階で概算の納税額を組み込むことで、節税策の検討も前倒しできます。
- 計画を一人で抱え込む——顧問税理士や金融機関の担当者と計画を共有することで、客観的なフィードバックが得られます。数字の「壁打ち相手」がいるだけで計画の精度は大きく変わります。
- 2026年10月は今期9か月分の実績が出そろい、来期の事業計画を数字ベースで組み立てる最適なタイミング
- 今期の着地予測を楽観・中間・悲観の3シナリオで算出し、来期計画の起点にする
- ワークシートには月別売上・変動費・固定費・設備投資・納税スケジュールの5項目を盛り込む
- 前提条件の明記、資金繰り表の併記、損益分岐点の算出を加えれば融資面談・補助金申請にも転用可能
- 毎月の試算表と突合し、乖離率にアラート基準を設けてモニタリングを継続する
- 計画の精度を上げるには顧問税理士など外部の「壁打ち相手」との共有が効果的
