「忘年会の会計が1人あたり9,800円だったけど、これは交際費? それとも会議費で落とせる?」——年末の接待シーズンに入ると、こうした判断に迷うスタートアップ経営者や個人事業主の方からのご相談が急増します。2024年4月以降、飲食費の除外基準が1人あたり5,000円から1万円に引き上げられましたが、引き上げから2年以上が経過した2026年10月現在でも、領収書の記載要件や参加人数の按分計算を誤って損金不算入となるケースが後を絶ちません。本記事では、年末に頻出する支出パターンごとに正しい適用判定フローと仕訳例を解説します。
01そもそも「1万円基準」とは何か——制度の基本をおさらい
交際費等の損金不算入制度において、「社外の者との飲食費」で1人あたりの金額が一定額以下のものは交際費等から除外し、全額損金に算入できるという特例があります。この基準額が、2024年度(令和6年度)税制改正により次のように変更されました。
- 改正前(2024年3月31日以前に開始する事業年度):1人あたり5,000円以下
- 改正後(2024年4月1日以後に開始する事業年度):1人あたり1万円以下
根拠条文は租税特別措置法第61条の4第4項第2号および同施行令第37条の5です。ここで言う「飲食費」とは、飲食その他これに類する行為のために要する費用を指し、社内飲食費(専ら自社の役員・従業員等に対する接待等)は対象外です。
ポイント:1万円基準は「社外の相手が1人でも含まれる飲食」に適用されます。自社の社員だけで行う忘年会や打ち上げは、金額にかかわらずこの特例の対象外です。福利厚生費として処理できるか否かは別の判断基準になります。
02領収書・帳簿に必ず記載すべき5つの事項
1万円基準を適用して損金算入するためには、帳簿書類に以下の事項を記載・保存することが法令上求められています(措置法施行規則第21条の18の4)。1つでも欠けると交際費等として扱われるリスクがあるため、必ず確認してください。
- 飲食等の年月日
- 飲食等に参加した得意先・仕入先等の氏名または名称、およびその関係
- 飲食等に参加した者の数
- 飲食費の金額と飲食店等の名称・所在地
- その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項
よくある記載漏れパターン
実務でとくに多い記載漏れは次の3つです。
- 「参加者の氏名」を社名だけで済ませている(個人名まで必要)
- 「参加人数」を領収書の裏に書き忘れている
- レシートに店舗名はあるが所在地がなく、補足メモもない
領収書を受け取ったその場で裏面にメモを書く習慣をつけましょう。電子帳簿保存法に対応している場合は、スキャン保存時にメタデータとして参加者情報を付与する運用がおすすめです。
031万円基準の適用判定フロー
年末の飲食支出について、損金算入できるかどうかを以下のフローで判定します。
- 社外の者が参加しているか? → いいえ → 社内飲食費(1万円基準の対象外)
- 支出の総額 ÷ 参加人数 ≦ 10,000円か? → いいえ → 交際費等(損金不算入の可能性)
- 領収書・帳簿に5つの記載事項があるか? → いいえ → 交際費等として処理
- すべて「はい」 → 交際費等から除外し、全額損金算入OK
なお、資本金1億円以下の中小法人は、交際費等のうち年間800万円までの定額控除限度額が別途認められています(措置法第61条の4第2項)。1万円基準で除外できなかった交際費等も、この800万円枠の範囲内であれば損金算入が可能です。
04年末に頻出する支出パターン別——損金算入の可否と仕訳例
パターン1:得意先との忘年会(1人あたり8,000円)
自社2名+得意先3名=計5名で忘年会を実施。飲食代の総額は40,000円。1人あたり8,000円で1万円以下のため、5つの記載要件を満たせば交際費等から除外し全額損金算入できます。
仕訳例:
(借方)会議費(または接待飲食費)40,000円 /(貸方)現金 40,000円
パターン2:取引先との忘年会(1人あたり12,000円)
自社3名+取引先2名=計5名。飲食代総額60,000円。1人あたり12,000円で1万円超のため、全額が交際費等に該当します。中小法人であれば800万円の定額控除枠内で損金算入が可能です。
仕訳例:
(借方)交際費 60,000円 /(貸方)現金 60,000円
パターン3:接待ゴルフ後の食事(ゴルフ代と飲食代の区分)
接待ゴルフのプレー代(グリーンフィー等)は、飲食費ではないため1万円基準の対象外であり、交際費等に該当します。一方、ゴルフ後の懇親会での飲食代は、1人あたり1万円以下かつ記載要件を満たせば除外できます。請求書や領収書でプレー代と飲食代を明確に区分しておくことが重要です。
仕訳例(プレー代30,000円+飲食代20,000円、参加者4名、1人あたり飲食5,000円):
(借方)交際費 30,000円 /(貸方)現金 50,000円
(借方)会議費 20,000円
パターン4:得意先への手土産(菓子折り5,000円)
手土産・贈答品は「飲食その他これに類する行為のために要する費用」には該当しません。したがって、金額にかかわらず1万円基準の適用対象外であり、交際費等として処理します。
仕訳例:
(借方)交際費 5,000円 /(貸方)現金 5,000円
注意:飲食の場に持ち込むための弁当やケータリングは「飲食費」に該当しますが、後日届ける贈答用の食品は飲食費ではなく交際費等です。「その場で飲食に供されるかどうか」が判断の分かれ目になります。
パターン5:自社社員のみの忘年会(1人あたり6,000円)
社外の者が参加していないため、1万円基準の適用対象外です。全社員を対象とする社内行事で、社会通念上相当な金額であれば福利厚生費として損金算入が認められますが、特定の部署や役員のみを対象とした場合は交際費等や給与課税の論点が生じる場合があります。
05創業期に押さえておきたい実務上の注意点
二次会の扱い
一次会と二次会は原則として別々の飲食として判定します。一次会が1人あたり9,000円、二次会が1人あたり7,000円であれば、それぞれが1万円以下なので各々について要件を満たせば除外可能です。ただし、同一店舗で席を移動しただけの場合など、実態として一体の飲食と認められる場合は合算して判定される可能性があるため、店舗・時間帯を明確に区分してください。
消費税の扱い
1万円の判定は、法人の経理方式に応じます。税込経理を採用している法人は税込金額で、税抜経理を採用している法人は税抜金額で判定します。たとえば税抜経理の場合、税込11,000円(税抜10,000円)の飲食費は1人あたり税抜10,000円で1万円以下となり、除外の対象になります。
個人事業主の場合
交際費等の損金不算入制度は法人税の規定であり、個人事業主には直接適用されません。個人事業主の場合、事業に関連する接待飲食費は必要経費として計上できますが、業務との関連性や金額の妥当性について説明できるよう、領収書の記載事項は法人と同様のレベルで整備しておくことを強くおすすめします。
- 2024年4月以降、社外飲食費の交際費除外基準は1人あたり「1万円以下」に引き上げ。2026年10月現在も同基準が適用中。
- 除外を受けるには、飲食年月日・参加者の氏名と関係・参加人数・金額・店舗名と所在地の5項目を帳簿書類に記載・保存することが必須。
- 手土産・贈答品は飲食費に該当しないため1万円基準の対象外。接待ゴルフのプレー代も同様に対象外。
- 自社社員のみの忘年会は社内飲食費であり、1万円基準は適用されない。福利厚生費としての要件を別途検討する。
- 二次会は原則として別々に判定。消費税の判定は法人の経理方式(税込・税抜)に従う。
