「2024年の定額減税、予定納税や年末調整で精算したはずなのに、確定申告書を作成すると数字が合わない」——創業期の経営者の方から、こうしたご相談をいただくことが増えています。特に、法人の役員報酬と個人の事業所得が併存しているケースでは、定額減税の控除がどこで・いくら反映されたのかが見えにくく、2026年分の確定申告で思わぬ還付や追加納付が発生することがあります。本記事では、そのメカニズムと正しい処理方法を具体的な計算例とともに解説します。
01そもそも定額減税とは——2024年に実施された制度のおさらい
定額減税は、2024年分の所得税について1人あたり3万円(住民税1万円と合わせて計4万円)を控除する制度として実施されました。給与所得者は2024年6月以降の源泉徴収で月次減税が行われ、年末調整で精算される仕組みでした。一方、事業所得者や不動産所得者など確定申告が必要な方は、2024年分の確定申告書において「令和6年分特別税額控除」として所得税額から直接控除しました。
重要なのは、定額減税はあくまで2024年分の所得税に対する措置であり、2025年分以降の所得税には直接適用されないという点です。しかし、予定納税の仕組みを通じて、その影響が2025年・2026年の納税額計算に波及するケースがあるのです。
02予定納税額への影響——なぜ「精算ズレ」が生じるのか
予定納税の基準額と定額減税の関係
予定納税額は原則として前年分の「申告納税額」を基準に計算されます。2024年分の確定申告で定額減税(3万円)が控除された結果、申告納税額が通常より低くなっている場合、2025年の予定納税基準額もその分だけ低くなります。
ところが2025年分の所得税には定額減税の適用がないため、実際の年税額は定額減税なしの水準に戻ります。これにより、予定納税で前払いした金額が不足し、確定申告で追加納付(第三期分の納付)が発生するのです。
2026年分でもズレが残るケース
2025年分の確定申告で精算が完了していれば、2026年分の予定納税基準額は定額減税の影響を受けない正常な水準に戻ります。しかし、以下のようなケースでは2026年分の申告でもなお調整が必要になることがあります。
- 2025年中に減額申請を行い、予定納税額を意図的に引き下げていた場合
- 2024年分の確定申告を期限後に提出し、予定納税基準額の通知時点で定額減税が反映されていなかった場合
- 役員報酬の年末調整と事業所得の確定申告の両方で定額減税の控除が重複適用されていた場合(過大控除)
注意:定額減税は1人につき所得税3万円が上限です。役員報酬の年末調整で3万円全額が控除されているにもかかわらず、確定申告の事業所得側でも重ねて控除してしまうと、過大控除となり修正申告が必要になります。2026年分の確定申告を行う際には、2024年分の源泉徴収票と確定申告書の控えを必ず確認してください。
03具体計算例——役員報酬+事業所得の創業経営者のケース
前提条件
- Aさん(40歳・配偶者あり・扶養親族なし)。2024年に法人を設立し、代表取締役に就任
- 2024年分:役員報酬(給与所得)400万円、副業の事業所得200万円
- 2024年分の年末調整で定額減税3万円を全額控除済み
- 2024年分の確定申告書で申告納税額(予定納税基準額に影響する額)が18万円(定額減税控除後)
- 定額減税がなければ申告納税額は21万円だった
- 2025年の予定納税基準額:18万円 → 第1期・第2期各6万円を納付
- 2025年分の実際の年税額:22万円(所得増加を反映)
2025年分の確定申告での精算
年税額22万円 − 予定納税額12万円(6万円×2回) = 第三期納付額10万円
もし定額減税の影響がなく予定納税基準額が21万円であれば、第1期・第2期で各7万円=計14万円を前払いし、第三期は8万円で済んだはずです。つまり、定額減税の影響で2万円分の前払い不足が2025年分の確定申告時に上乗せされた形になります。
2026年分への波及
2025年分の申告納税額22万円が2026年の予定納税基準額となるため、通常はここで定額減税の影響は解消されます。しかし、Aさんが2025年分の確定申告で誤って定額減税を再度適用してしまい、申告納税額を19万円として申告していた場合はどうなるでしょうか。
- 2026年の予定納税基準額:19万円 → 第1期・第2期各約6.3万円
- 2026年分の実際の年税額が23万円だった場合
- 第三期納付額:23万円 − 12.6万円 = 10.4万円
本来の予定納税基準額(22万円ベース)であれば第1期・第2期で計約14.6万円を前払いでき、第三期は約8.4万円で済みます。2万円の差額は、2025年分の誤った定額減税適用が原因です。この場合、まず2025年分の修正申告を行ったうえで、2026年分の確定申告を正しく行う必要があります。
04申告書の記載箇所と確認ポイント
2026年分(令和8年分)の確定申告書で関連する記載箇所は以下のとおりです。
- 第一表「税金の計算」欄:算出された所得税額を記載。2026年分には定額減税の控除欄はありませんので、ここに定額減税を記載しないよう注意してください。
- 第一表「予定納税額」欄(第50欄付近):2026年中に納付した予定納税額(第1期+第2期)を正確に記載します。税務署から届いた通知書の金額と実際の納付額が一致しているか確認しましょう。
- 第一表「納める税金」または「還付される税金」:年税額から予定納税額と源泉徴収税額を差し引いた結果がここに表示されます。
- 第二表「特例適用条文等」欄:2026年分には定額減税の記載は不要です。誤って記載すると税務署から問い合わせが来る場合があります。
ポイント:2026年分の確定申告書には定額減税の専用欄はありません。定額減税は2024年分限りの措置であるため、2026年分の申告で控除することはできません。過去の精算ズレの影響は、あくまで予定納税額の過不足として表面化するものであり、申告書上は「予定納税額」と「源泉徴収税額」の正確な記載で処理されます。
05還付が発生するケースと追加納付が発生するケース
還付が発生しやすいケース
- 2025年分の所得が大きく、予定納税基準額が高めに設定されたが、2026年は事業縮小や役員報酬の減額で所得が減少した場合
- 予定納税の減額申請をせずに高い予定納税額を納付してしまった場合
追加納付が発生しやすいケース
- 2024年分の定額減税の影響で予定納税基準額が低く、かつ2026年の所得が増加した場合
- 2025年分の確定申告で定額減税を誤って再適用し、申告納税額が実態より低くなっていた場合
- 役員報酬と事業所得の割合が変動し、源泉徴収でカバーしきれない税額が生じた場合
いずれのケースでも、2024年分・2025年分の確定申告書の控え、源泉徴収票、予定納税額の通知書を手元に揃えたうえで計算を進めることが重要です。
06正しく精算するために今できること
2026年分の確定申告期限は2027年3月15日です。2026年10月現在、第1期の予定納税(7月納付)は既に完了し、第2期(11月納付)が間近に迫っている時期です。以下の点を今のうちに確認しておきましょう。
- 2024年分の確定申告書の控えで、定額減税の控除額と適用箇所を再確認する
- 2025年分の確定申告書の控えで、定額減税が誤って再適用されていないかチェックする
- 2026年の予定納税額の通知書と、実際の納付額(第1期分)を照合する
- 2026年の所得見込みが大きく変動している場合は、第2期の納付前に減額申請を検討する
判断に迷う場合は、早めに税理士へご相談いただくことをおすすめします。修正申告や更正の請求が必要なケースでは、対応が遅れるほど延滞税等のリスクが高まります。
- 2024年の定額減税(所得税3万円)は2024年分限りの措置だが、予定納税基準額を通じて2025年・2026年の納税額に影響が波及することがある
- 役員報酬と事業所得が併存する創業経営者は、年末調整と確定申告での定額減税の重複適用(過大控除)に特に注意が必要
- 2026年分の確定申告書には定額減税の控除欄はなく、精算ズレは「予定納税額」と「源泉徴収税額」の正確な記載で処理される
- 2024年分・2025年分の申告書控え、源泉徴収票、予定納税通知書を手元に揃えて計算を進めることが正確な精算への第一歩
- 判断に迷う場合や修正申告の可能性がある場合は、早めに税理士に相談することでリスクを最小限に抑えられる
