「インボイス経過措置が50%に下がったけれど、結局うちの消費税はいくらになるの?」——2026年10月の控除率縮小を迎え、創業間もない経営者の方から、このご質問を多くいただいています。年末が近づく11月の今こそ、試算表データを使って本則課税・簡易課税の有利判定をやり直し、確定に近い納税額を資金繰り計画へ織り込む絶好のタイミングです。本記事では、シミュレーションの具体的な手順から届出変更の可否、納税資金の確保方法まで一気通貫で解説します。

012026年10月に何が変わったのか——経過措置80%から50%への縮小

インボイス制度は2023年10月にスタートしましたが、免税事業者からの仕入れについては段階的な経過措置が設けられています。具体的なスケジュールは次のとおりです。

  • 2023年10月1日〜2026年9月30日:仕入税額相当額の80%を控除可能
  • 2026年10月1日〜2029年9月30日:仕入税額相当額の50%を控除可能
  • 2029年10月1日以降:控除不可(0%)

つまり2026年10月を境に、免税事業者への支払いにかかる仕入税額控除が30ポイントも縮小しました。たとえば免税事業者のフリーランスに月額55万円(税込)を外注している場合、従来は月額4万円の仕入税額控除が可能でしたが、10月以降は2.5万円に減少します。年間ベースでは約18万円の負担増になる計算です。

ポイント:経過措置の縮小は「本則課税」を選択している事業者にのみ影響します。簡易課税はみなし仕入率で計算するため、免税事業者からの仕入れかどうかは納税額に直接影響しません。この違いが、11月の有利判定を左右する大きなカギになります。

02なぜ「11月」がシミュレーションの最適タイミングなのか

11月にシミュレーションを行うべき理由は、主に3つあります。

  1. 10月分の試算表が出そろう:経過措置50%が初めて反映された月次データを使えるため、従来の80%控除時代との差額を実数で把握できます。
  2. 届出期限に間に合う:12月決算法人や個人事業主の場合、簡易課税の届出は原則として適用を受けようとする課税期間の前日までに提出が必要です。翌期の判断材料を固めるには11月がラストチャンスです。
  3. 資金繰り計画の修正が可能:年末〜翌年3月の確定申告・納付に向け、納税資金を別口座に確保するなどの対策を講じる時間的余裕が残っています。

03本則課税での年間納税額シミュレーション手順

ステップ1:10月までの課税売上・仕入データを集計する

会計ソフトの試算表から、1月〜10月(法人であれば期首〜10月)の課税売上高と課税仕入高を抽出します。ここでは個人事業主(1月〜12月が課税期間)を例にします。

ステップ2:仕入税額控除を「経過措置別」に区分する

仕入税額控除の計算では、1月〜9月分と10月〜12月分で経過措置の控除率が異なります。免税事業者への支払いを次のように区分してください。

  • 1月〜9月の免税事業者への支払い → 仕入税額相当額 × 80%
  • 10月〜12月の免税事業者への支払い → 仕入税額相当額 × 50%
  • 適格請求書発行事業者への支払い → 仕入税額相当額 × 100%

ステップ3:11月・12月分を予測値で補完する

11月・12月の売上と仕入は、直近数か月の平均値または受注状況をもとに見込額を入力します。季節変動がある業種では、前年同月の実績も参考にしましょう。

ステップ4:年間の消費税納税額を算出する

計算式はシンプルです。

納税額 = 課税売上にかかる消費税額 − 仕入税額控除額(上記ステップ2の合計)

たとえば年間課税売上が2,200万円(税込)、適格事業者への課税仕入が880万円(税込)、免税事業者への外注費が年間660万円(税込/うち10月以降220万円)の場合を計算してみます。

  • 課税売上にかかる消費税:200万円
  • 適格事業者分の仕入税額控除:80万円
  • 免税事業者分(1〜9月):40万円 × 80% = 32万円
  • 免税事業者分(10〜12月):20万円 × 50% = 10万円
  • 仕入税額控除合計:122万円
  • 本則課税での納税額:200万円 − 122万円 = 78万円

04簡易課税での年間納税額シミュレーション手順

簡易課税制度では、実際の課税仕入高に関係なく、業種ごとの「みなし仕入率」で控除額を計算します。

上記と同じ年間課税売上2,200万円(税込)のサービス業(第五種/みなし仕入率50%)であれば、次のようになります。

  • 課税売上にかかる消費税:200万円
  • みなし仕入税額控除:200万円 × 50% = 100万円
  • 簡易課税での納税額:200万円 − 100万円 = 100万円

この例では本則課税78万円のほうが22万円有利です。しかし免税事業者への外注比率が低い事業者や、みなし仕入率が高い業種(卸売業90%、小売業80%など)では簡易課税が有利になるケースも少なくありません。

注意:簡易課税制度を選択できるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限られます。また、「消費税簡易課税制度選択届出書」は原則として適用を受けたい課税期間の開始前日までに提出する必要があります。2026年12月決算法人が2027年1月期から簡易課税を適用したい場合、届出期限は2026年12月31日です。早めに判断してください。

05届出変更の可否を判断する——チェックリスト

シミュレーション結果を踏まえて、届出の変更を検討する際は以下の点を確認しましょう。

  1. 現在の届出状況:本則課税と簡易課税のどちらを選択中か。2割特例の適用を受けていないか。
  2. 基準期間の課税売上高:5,000万円以下であれば簡易課税の選択が可能。
  3. 届出の拘束期間:簡易課税を選択すると原則2年間の継続適用義務があります。翌期以降の事業計画(設備投資の有無など)も考慮してください。
  4. 高額資産の取得予定:本則課税で多額の設備投資を行う場合、仕入税額控除が大きくなり本則課税のほうが有利になることがあります。
  5. 2割特例との比較:インボイス制度を機に課税事業者となった方は、2026年分まで2割特例が使える可能性があります。売上にかかる消費税の2割で済むため、必ず比較してください。

06確定した納税額を資金繰り計画に織り込む方法

納税資金の「見える化」と分離管理

シミュレーションで算出した納税見込額は、運転資金とは別の口座(納税準備預金など)に毎月按分して積み立てるのが鉄則です。たとえば年間納税額が78万円と見込まれるなら、残り11月・12月で月額約39万円ずつ、あるいは既に一部積み立て済みであれば差額を確保します。

確定申告・納付スケジュールの確認

  • 個人事業主:2026年分の消費税確定申告・納付期限は2027年3月31日
  • 12月決算法人:確定申告・納付期限は2027年2月28日(届出により延長の場合あり)

振替納税やダイレクト納付を利用する場合は、事前の届出が必要です。まだ手続きしていない方は11月中に済ませておきましょう。

資金がショートしそうな場合の対処法

納税額が想定以上に大きく資金繰りが厳しい場合は、次の方法を検討してください。

  • 振替納税による約1か月の納付猶予の活用
  • 納税の猶予制度(一時に納付が困難な場合)の申請
  • 日本政策金融公庫や信用保証協会付融資など、低金利の資金調達

07まとめ——11月のアクションが年度末の安心をつくる

この記事のまとめ
  • 2026年10月からインボイス経過措置の控除率が80%から50%へ縮小。免税事業者との取引が多い事業者ほど本則課税での納税額が増加する。
  • 11月は10月分の実績データが揃い、届出変更の検討にも間に合う最適なシミュレーション時期。
  • 本則課税では経過措置の区分(1〜9月:80%、10〜12月:50%)を正確に反映して計算する。
  • 簡易課税はみなし仕入率で計算するため経過措置の影響を受けない。業種・取引構成によって有利不利が逆転するため必ず両方を比較する。
  • 2割特例の適用可否も忘れず確認する。
  • シミュレーションで確定した納税見込額は、納税準備預金などで運転資金と分離して管理し、年末〜翌春の資金繰りに織り込む。