「先月の試算表は黒字だったのに、月末に口座残高を見たら資金がほとんど残っていなかった」――創業1〜3年目のスタートアップ経営者から、私たちの事務所にはこうしたご相談が絶えません。損益計算書(PL)の利益とキャッシュ(現金)は別物だと頭では分かっていても、具体的に何がどうズレるのか、そしてどう管理すればいいのかが分からない方は多いのではないでしょうか。本記事では、PLとキャッシュフロー(CF)の数字がズレる3大原因を具体例で示し、「週次で資金残高を追う」ための簡易チェックシートの使い方まで、15分で全体像をつかめるよう解説します。

01PL黒字なのに資金ショート?——よくある「黒字倒産」パターン

実例:月商500万円のWeb制作会社A社のケース

2025年10月に法人を設立したA社。受注は好調で、2026年3月期のPLは月平均で売上500万円、経費400万円、利益100万円の黒字でした。ところが4月に入り、消費税の中間納付と外注費の支払いが集中したタイミングで口座残高が20万円を切り、急きょ役員借入で凌ぐ事態に陥りました。

A社の社長は「黒字なのになぜ?」と困惑していましたが、原因を分解するとシンプルです。PLの黒字=手元資金の増加ではないのです。

なぜPLだけでは危険なのか

PLは「一定期間の収益と費用を対応させて利益を計算する」ための書類です。売上は請求書を発行した時点(発生主義)で計上されるため、入金がまだでもPL上は売上として反映されます。一方、キャッシュは「実際にお金が動いたかどうか」だけを追います。この違いが、黒字倒産という矛盾を生む根本原因です。

02PLとCFの数字がズレる3大原因

創業期に特に押さえておきたいズレの原因は、大きく3つに絞れます。

原因1:売掛金の回収タイムラグ

PLでは請求書を出した月に売上計上しますが、実際の入金は翌月末や翌々月末になることが一般的です。たとえば3月に300万円の売上を計上しても、入金が5月末であれば、3月・4月の2か月間はキャッシュが増えません。売上が伸びるほど「PLは黒字、口座は空」という状態が拡大しやすくなります。

原因2:設備投資・固定資産の減価償却

たとえば120万円のサーバー機器を一括購入した場合、キャッシュは購入時に120万円が一度に出ていきます。しかしPL上では耐用年数(仮に5年)で分割し、月2万円ずつ費用化(減価償却)されます。購入月はPLに2万円しか費用が載らないのに、実際には120万円が口座から消えている、というギャップが生じます。

原因3:借入金の返済元本

創業融資で500万円を借り入れた場合、毎月の返済額のうち元本部分(たとえば月8万円)はPLの費用にはなりません。PLに計上されるのは利息部分だけです。しかしキャッシュは元本+利息の合計額が毎月出ていきます。月々の返済負担を「経費として引いているから大丈夫」と勘違いしている方は少なくありません。

ポイント:この3つのズレを合算すると、月の利益が100万円でも実際のキャッシュ増減がマイナスになるケースは珍しくありません。A社の例では、売掛金の未回収300万円+設備投資120万円+借入元本返済48万円(6か月分)=約468万円がPLには見えないキャッシュアウトとして発生していました。

03「週次」で資金残高を追う理由

月次の試算表は通常、翌月中旬以降に出来上がります。つまり月次管理だけでは「今この瞬間、あといくら使えるのか」が分からないまま2〜3週間を過ごすことになります。創業期は入出金の変動が大きいため、週に1回、できれば毎週月曜日に資金残高を確認する習慣が命綱になります。

週次チェックに必要な時間はたった15分

後述する簡易チェックシートを使えば、ネットバンキングの残高確認から記入完了まで15分程度で終わります。「数字は苦手」という方でも、4つの項目を埋めるだけなので、仕組みさえ作れば負担はほとんどありません。

04週次キャッシュ管理シートの作り方と使い方

シートの4項目

Excelやスプレッドシートで以下の4列を作ります。1行が1週間分です。

  1. 週初残高:月曜日朝のネットバンキング残高(複数口座がある場合は合計)
  2. 今週の入金予定:請求済み・入金確定の金額のみ記入(希望的観測は入れない)
  3. 今週の出金予定:家賃・給与・外注費・カード引落・税金など、確定している支払い
  4. 週末見込残高:「週初残高+入金予定-出金予定」で自動計算

運用の3つのルール

  • 毎週月曜日の朝に更新する:曜日と時間を固定することで習慣化しやすくなります。
  • 4週間先まで埋める:今週だけでなく、向こう4週間分を常にローリングで更新します。これにより「3週間後に資金が足りない」という事態を先回りで察知できます。
  • 残高が「月間固定費の1.5倍」を下回ったら黄色信号:たとえば毎月の固定費が200万円なら、300万円を割り込んだ時点で対策(入金の前倒し交渉、融資の検討、支出の先送りなど)を打ちます。

注意:入金予定には「受注見込み」や「口頭で合意しただけの案件」を含めないでください。PLの売上見通しとキャッシュの入金予定は全く別物です。確実に入金される金額だけを記入することが、このシートの精度を保つ最大のコツです。

05チェックシートを活かす3つのアクション

アクション1:請求サイクルを短縮する

売掛金の回収タイムラグを減らす最もシンプルな方法は、請求書の発行を早めることです。月末締め・翌々月末払い(サイト60日)を月末締め・翌月末払い(サイト30日)に変更するだけで、常時1か月分の売上金額がキャッシュとして早く手元に届きます。新規契約時に支払い条件を交渉しておくのが理想です。

アクション2:大きな支出は「分割」か「リース」を検討する

設備投資によるキャッシュアウトを平準化するために、分割払いやリース契約を選択肢に入れましょう。金利やリース料の負担はありますが、創業期は「手元資金を厚く保つ」ことの方が経営の安定に直結します。

アクション3:融資は「困ってから」では遅い

金融機関は資金繰りに余裕がある企業に融資をしたがります。週次シートで3か月先まで資金の見通しを持ち、余裕があるうちに追加融資や信用保証協会の枠を確保しておくことが、創業期の安全弁になります。

06税理士に相談するベストなタイミング

週次チェックシートの運用を始めると、「この数字の読み方で合っているのか」「資金繰り表と試算表の整合性が取れない」といった疑問が出てきます。こうした疑問が生まれたタイミングこそ、税理士に相談するベストなタイミングです。資金がショートしてからの相談では選択肢が限られてしまいます。

平川文菜税理士事務所では、創業期の資金繰り支援やキャッシュフロー改善のご相談を承っています。「まだ顧問契約は早いかも」という段階でも、スポットでのご相談が可能です。

この記事のまとめ
  • PLの黒字=手元資金の増加ではない。発生主義と現金主義の違いを理解することが第一歩。
  • PLとCFがズレる3大原因は「売掛金の回収タイムラグ」「設備投資と減価償却のギャップ」「借入金の元本返済」。
  • 週次で4項目(週初残高・入金予定・出金予定・週末見込残高)を記録するだけで、資金ショートを先回りで防げる。
  • 入金予定には確定分だけを記入し、残高が月間固定費の1.5倍を下回ったら即アクション。
  • 請求サイクルの短縮・支出の平準化・余裕があるうちの融資確保が、創業期のキャッシュを守る3つの鍵。