「夏のボーナスを出したいのに、口座にお金がない」――2026年の夏を迎え、まさに今この状況に直面している創業期の経営者の方は少なくないはずです。売上は順調に伸びているのに、賞与の時期になると資金繰りが一気に苦しくなる。この問題は、毎月の利益を「使える残高」と錯覚してしまうことから生まれます。本記事では、来年の夏に同じ苦しみを繰り返さないために、今日から始められる賞与原資の積立ルールと年間キャッシュフロー設計の方法をお伝えします。

01なぜ創業期の会社は賞与資金が足りなくなるのか

創業から1〜3年目の会社に共通する資金不足のパターンがあります。それは「入ってきたお金がそのまま運転資金口座に混ざり、気づいたら使ってしまっている」という状態です。

たとえば、月の売上が300万円、経常的な支出が250万円の会社を考えてみましょう。毎月50万円が残る計算ですが、突発的な設備投資や広告費の前払いなどで、この50万円は簡単に消えてしまいます。夏のボーナスとして従業員3名に各30万円、合計90万円を支給したいと思っても、ボーナス月にいきなり90万円を捻出するのは至難の業です。

さらに見落とされがちなのが、賞与に伴う社会保険料の会社負担分です。賞与にも健康保険料・厚生年金保険料がかかり、会社負担はおおむね賞与額の約15%前後になります。先ほどの例では、90万円の賞与に対して約13.5万円の追加負担が発生し、実際に必要な資金は約103.5万円に膨らむのです。

ポイント:賞与原資を考える際は、額面金額だけでなく、社会保険料の会社負担分(賞与額の約15%)を必ず上乗せして計算しましょう。「賞与額×1.15」を必要資金の目安にすると、想定外の負担に慌てずに済みます。

02賞与原資を毎月プールする「口座分離」の仕組み

来年の夏に備えるために最も効果的なのは、賞与原資を毎月の売上から自動的に分離してプールする仕組みを作ることです。具体的には以下のステップで進めます。

ステップ1:賞与専用口座を開設する

まず、メインの事業用口座とは別に「賞与積立専用」の普通預金口座をひとつ開設します。ネット銀行でもかまいません。重要なのは、この口座のお金には日常の経費支払いでは絶対に手をつけないというルールを設けることです。

ステップ2:毎月の積立額を逆算する

年間の賞与支給総額(夏・冬合計)を決め、12か月で割って毎月の積立額を算出します。社会保険料の上乗せ分も忘れずに含めましょう。

たとえば、従業員3名に夏・冬各30万円ずつ支給する場合の計算は以下のとおりです。

  • 年間賞与額面合計:30万円×3名×2回=180万円
  • 社会保険料会社負担分(約15%):180万円×0.15=27万円
  • 年間必要資金:180万円+27万円=207万円
  • 毎月の積立額:207万円÷12か月=約17.3万円

毎月17.3万円を賞与専用口座に移すだけで、半年後には夏のボーナス原資が自然と貯まっている状態を作れます。

ステップ3:自動送金を設定する

「毎月やろう」と思っていても、手動では忘れたりサボったりしがちです。メインバンクの自動振替サービスや定額自動送金を利用して、売上入金日の翌営業日などに自動で賞与口座へ送金される設定にしましょう。人間の意志力に頼らない仕組みが、積立成功の鍵です。

03年間キャッシュフロー設計の全体像

賞与原資の積立は、年間キャッシュフロー設計の一部にすぎません。創業期の会社が安定した資金繰りを実現するには、年間を通じて「いつ、いくら必要になるか」を一覧で把握することが大切です。

口座を目的別に分ける「封筒管理法」

おすすめは、以下の4つの口座(または口座内の管理区分)を持つことです。

  1. 運転資金口座:毎月の家賃・仕入れ・人件費など経常支出用
  2. 納税準備口座:法人税・消費税・源泉所得税の支払いに備える積立用
  3. 賞与積立口座:夏季・冬季賞与の原資プール用
  4. 予備資金口座:突発的な支出や売上減少に備えるバッファ用

これは家計管理でよく使われる「封筒管理法」を法人に応用した考え方です。入金があったら、まず各口座に決められた金額を振り分け、運転資金口座に残った金額で事業を回します。

年間キャッシュフロー表を作る

Excelやスプレッドシートで、2026年7月から2027年6月までの12か月間について、月ごとの「売上予測」「経常支出」「賞与・納税等の臨時支出」「各口座の残高推移」を一覧にしましょう。特に資金が集中的に出ていく月を把握することが重要です。

創業期の会社で資金需要が集中しやすい時期の例を挙げます。

  • 7月:源泉所得税の納期の特例による半年分一括納付(1月〜6月分)、夏季賞与
  • 11〜12月:年末調整関連事務、冬季賞与
  • 1月:源泉所得税の納期の特例による半年分一括納付(7月〜12月分)
  • 3月:決算月の会社は法人税・消費税の納付(決算月から2か月後)

これらの支出が重なる月を事前に把握しておけば、「今月は積立額を少し増やしておこう」「来月に備えて支出を抑えよう」といった先手の判断ができるようになります。

注意:納税準備資金と賞与積立資金は、必ず分けて管理してください。「納税用に貯めていたお金をボーナスに回してしまい、税金が払えなくなった」というケースは、創業期に非常によくあるトラブルです。口座を物理的に分けることで、こうしたミスを防げます。

04今月から始める具体的なアクションプラン

2026年6月の今、来年の夏に向けて具体的に何をすべきかを整理します。

  1. 今週中:来年夏の賞与支給額の目標を仮決めする(従業員数×支給額×1.15で必要資金を算出)
  2. 6月中:賞与積立専用の銀行口座を開設する
  3. 7月から:毎月の自動送金を開始する(必要資金÷12か月の金額を設定)
  4. 7月中:年間キャッシュフロー表を作成し、臨時支出の集中月を確認する
  5. 四半期ごと:売上実績と積立状況を照らし合わせ、積立額の微調整を行う

完璧な計画である必要はありません。まずは「毎月一定額を別口座に移す」というシンプルな仕組みを動かすことが最も重要です。売上が変動する月は積立額を調整しても構いませんが、ゼロにはしないことをルールにしましょう。

05賞与の税務上の取扱いで押さえておきたいこと

最後に、賞与に関する税務上の基本ポイントにも触れておきます。

法人が従業員に支給する賞与は、原則として支給した事業年度の損金(経費)に算入できます。ただし、未払計上して損金算入するには、決算期末までに支給額が各人に通知され、かつ決算日の翌日から1か月以内に実際に支給されるなどの要件を満たす必要があります。

また、役員に対する賞与については、事前確定届出給与として税務署に届け出たとおりの金額・時期で支給しなければ、損金算入が認められません。届出と異なる金額を支給した場合、全額が損金不算入となるリスクがありますので、役員賞与を検討されている場合は事前に税理士へご相談ください。

この記事のまとめ
  • 賞与原資の不足は「口座を分けていない」ことが最大の原因。賞与専用口座を開設し、毎月自動で積み立てる仕組みを作る
  • 積立額は「賞与額面×1.15」で社会保険料の会社負担分を含めて計算し、12か月で割った金額を毎月プールする
  • 年間キャッシュフロー表を作成し、賞与・納税・繁閑の波を一覧で把握して先手の資金管理を行う
  • 納税準備資金と賞与積立資金は必ず別口座で管理し、流用を防ぐ
  • 2026年7月から積立を始めれば、2027年夏には慌てずに賞与を支給できる体制が整う