「創業1期目が終わったばかりで、消費税のことまで手が回らない」「役員報酬を変えたいけど、いつまでに決めればいいのか分からない」——創業期の経営者にとって、日々の売上を伸ばすことに集中するあまり、税務の届出や判定のタイミングを見逃してしまうことは珍しくありません。実は7月は、消費税の特定期間の売上高が確定するタイミングであり、届出書の提出期限や役員報酬の改定判断など、放置すると翌期以降のキャッシュフローに大きな影響を及ぼす判断が重なる「夏の要注意月」です。本記事では、2026年7月中に確認・対応すべき3つの重要テーマを時系列で整理します。
01特定期間の課税売上高を判定する——上半期の数字が「免税」か「課税」かを分ける
特定期間とは何か
消費税法では、基準期間(原則として2期前)の課税売上高が1,000万円以下であっても、「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えると、翌課税期間から課税事業者になると定められています(消費税法第9条の2)。法人の場合、特定期間は原則として「前事業年度の開始日から6か月間」を指します。たとえば3月決算法人であれば、2025年4月1日から2025年9月30日までが特定期間となります。
なぜ7月に確認すべきなのか
多くの創業期の法人は、設立1期目は基準期間が存在しないため免税事業者としてスタートします。しかし2期目に入り、1期目の上半期(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えていた場合、2期目から課税事業者となります。7月は上半期の売上データが出揃い、会計ソフトへの入力も概ね完了するタイミングです。このタイミングで判定を行わないと、消費税の申告義務に気付かないまま期末を迎えてしまうリスクがあります。
判定の具体的な手順
- 会計ソフトから特定期間(前事業年度開始日から6か月間)の課税売上高を集計する
- 課税売上高が1,000万円を超えているかを確認する
- 超えている場合でも、同期間の「給与等支払額」が1,000万円以下であれば、給与等の金額で判定することも可能(どちらか一方で判定できる)
- 課税事業者に該当する場合は、消費税の経理処理方法や簡易課税の選択を速やかに検討する
ポイント:特定期間の判定では「課税売上高」と「給与等支払額」のいずれかが1,000万円以下であれば免税事業者のままでいられます。給与等支払額には役員報酬や従業員給与が含まれますが、外注費は含まれません。創業期にフリーランスへの外注を多用しているケースでは、売上高は1,000万円超でも給与等支払額は1,000万円以下というケースがあり得ますので、両方の数値を必ず確認しましょう。
インボイス制度との関係
2023年10月に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、自らインボイス発行事業者の登録を行い課税事業者を選択している創業者も多いでしょう。その場合は特定期間の判定にかかわらず既に課税事業者ですが、2割特例(小規模事業者に対する税額控除の経過措置)の適用可否の判断材料として、特定期間の数値は依然として重要です。
02届出書の提出期限を再確認する——「届出漏れ」で損をしないために
7月前後に期限が来やすい届出書
創業期の法人・個人事業主にとって、7月前後に提出期限が集中しやすい届出書は主に以下の3つです。
- 消費税簡易課税制度選択届出書——適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに提出が必要。たとえば、2026年10月1日から始まる課税期間に簡易課税を適用したい場合、2026年9月30日が提出期限です。ただし事前のシミュレーションを7月中に行っておかなければ、判断が間に合いません。
- 所得税の予定納税額の減額申請書——個人事業主で前年の所得税額が15万円以上の場合、7月と11月に予定納税が発生します。業績が悪化している場合は、2026年7月15日までに第1期分の減額申請が可能です。
- 労働保険の年度更新——毎年6月1日から7月10日までが申告・納付期限です。従業員を雇用している創業期の法人は、この手続きも忘れずに行いましょう。
届出漏れが引き起こす影響
たとえば簡易課税制度の選択届出を出し忘れた場合、原則課税で計算することになり、仕入税額控除の計算が煩雑になるだけでなく、業種によっては納税額が大きく増えるケースもあります。サービス業(みなし仕入率50%)で年間課税売上高が2,000万円の場合、簡易課税なら消費税額は約100万円ですが、原則課税で実際の課税仕入れが少なければ納税額が150万円以上になることもあります。届出書一枚の提出漏れが、数十万円単位の損失につながるのです。
注意:届出書は「届出期限の当日消印有効」ではなく「届出期限までに税務署に到達していること」が原則です(国税通則法の郵送に関する特例あり)。余裕を持って7月中旬までには準備を完了し、e-Taxでの電子提出も検討してください。
03役員報酬改定のラストチャンス——定時株主総会後3か月以内ルールを押さえる
定期同額給与の原則
法人税法上、役員報酬(定期同額給与)を損金算入するためには、事業年度を通じて毎月同額を支給する必要があります。改定が認められるのは原則として「事業年度開始から3か月以内」の改定に限られます(法人税法第34条第1項第1号、法人税法施行令第69条)。
3月決算法人にとっての7月
3月決算法人の場合、事業年度開始は4月1日ですから、役員報酬の改定期限は原則として2026年6月30日(3か月以内)です。しかし定時株主総会を6月下旬に開催し、その決議を経て7月から新しい報酬額を支給開始する場合は、通常認められます。重要なのは、株主総会の決議を経ていること、そして議事録を確実に作成・保存しておくことです。
改定判断のチェックポイント
- 利益予測の精査——上半期の実績をもとに通期の利益を予測し、法人税・所得税・社会保険料のバランスで最適な報酬額をシミュレーションする
- 社会保険の定時決定——7月は社会保険の算定基礎届(4月~6月の報酬をもとに標準報酬月額を決定)の提出時期でもあります。報酬改定と社会保険料の変動を併せて検討しましょう
- 株主総会議事録の作成——改定額、改定時期、出席役員を明記した議事録を作成し、法人で保管する
- 資金繰りへの影響——報酬を上げすぎると法人のキャッシュが不足し、下げすぎると個人の生活費が足りなくなります。創業期は半年先までの資金繰り表と照合して判断してください
事業年度が3月決算以外の場合
12月決算法人であれば事業年度開始は1月1日のため、改定期限は3月末となり、7月時点では既に改定の機会を過ぎています。一方、6月決算法人であれば事業年度開始が7月1日ですから、まさにこれから3か月間(7月~9月)が改定の検討期間です。自社の決算期に合わせてスケジュールを確認してください。
047月アクションリスト——やるべきことを時系列で整理
ここまでの3つのテーマを踏まえ、2026年7月中に取り組むべきアクションを時系列で整理します。
7月第1週(7月1日~7月5日)
- 上半期(特定期間)の課税売上高と給与等支払額を集計する
- 労働保険の年度更新手続きを完了させる(期限:7月10日)
7月第2週(7月6日~7月12日)
- 特定期間の判定結果をもとに、消費税の課税・免税の該当性を確認する
- 予定納税の減額申請が必要な場合は申請書を作成・提出する(期限:7月15日)
7月第3週~第4週(7月13日~7月31日)
- 簡易課税制度の選択・不選択のシミュレーションを行い、届出書の要否を判断する
- 役員報酬の改定が必要な場合は株主総会議事録を作成し、新報酬額を確定する
- 社会保険の算定基礎届を提出する(提出期限:7月10日だが、届出が遅れている場合は速やかに対応)
- 通期の利益予測・資金繰り予測を更新する
- 7月は特定期間(上半期)の課税売上高が確定するタイミング。課税売上高と給与等支払額の両方を確認し、消費税の課税・免税を判定しましょう。
- 簡易課税制度選択届出書や予定納税の減額申請書など、7月前後に期限が来る届出書を確認し、提出漏れを防ぎましょう。
- 3月決算法人は定時株主総会後の役員報酬改定のラストチャンス。利益予測と社会保険料のバランスを考慮して最適な報酬額を決定しましょう。
- 上記の3テーマを7月アクションリストとして時系列で整理し、一つずつ確実に処理していくことが大切です。
