「7月10日の源泉所得税、なんとか納付できた…」とほっとしている創業期の経営者の方も多いのではないでしょうか。納期の特例を利用して半年分をまとめて納付する作業は、慣れないうちはかなりの負担です。しかし、ここで安心して手を止めてしまうと、12月の年末調整で再び慌てることになります。実は、7月のこのタイミングこそ下半期の給与計算体制を整える絶好の機会です。本記事では、創業期の法人・個人事業主が「今やっておくと年末に慌てない」実務アクションを具体的にお伝えします。
01まず振り返り——7月10日納付で何を済ませたのか
源泉所得税の「納期の特例」は、常時使用する従業員が10人未満の事業者が届出を行うことで、毎月の納付を年2回(1月と7月)にまとめられる制度です。7月10日には、前年12月から当年6月までの半年間に給与等から天引きした源泉所得税を一括して国に納付しています。
この上半期分の納付が完了した今、次に意識すべきは「下半期の源泉徴収を正しく行うための土台づくり」です。源泉徴収額が正確でなければ、年末調整で大幅な過不足精算が発生し、従業員にも会社にも負担がかかります。
02扶養控除等申告書の「変更確認」を今すぐ行う
なぜ7月の再確認が重要なのか
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、年初または入社時に従業員から提出を受けていますが、上半期の間に家族構成やライフイベントが変わっているケースは少なくありません。具体的には、次のような異動が起きていないか確認しましょう。
- 結婚・離婚による配偶者控除の適用有無の変化
- 子どもの誕生による扶養親族の追加
- 配偶者のパート収入増加による控除対象配偶者の該当・非該当
- 親を扶養に入れた、または扶養から外れた
- 従業員本人が障害者控除やひとり親控除の対象になった
実務上の進め方
全従業員に対して「上半期中に申告内容に変更がありませんか」と書面やチャットで確認を行い、変更があれば扶養控除等申告書を再提出してもらいます。創業期で従業員が3~5名程度であれば、個別に声をかけるだけでも十分です。この再確認を行うことで、下半期の毎月の源泉徴収税額が正確になり、年末調整の過不足額が小さくなります。
ポイント:扶養控除等申告書は「異動があったとき」に再提出するのが原則ですが、従業員任せにすると申告漏れが発生しがちです。7月と10月の年2回、会社側から能動的に確認する運用を取り入れると、年末調整がスムーズになります。
03マイナンバー管理の点検——漏れと保管方法を見直す
給与支払報告書や源泉徴収票にはマイナンバーの記載が必要です。創業期は従業員の入退社が比較的多く、マイナンバーの収集漏れや、退職者のマイナンバーの廃棄処理が後回しになりがちです。
7月のこのタイミングで以下を点検してください。
- 現在在籍している全従業員のマイナンバーを収集済みか確認する
- 上半期中に入社した従業員のマイナンバーが台帳に反映されているか確認する
- 退職した従業員のマイナンバーについて、法定保存期間(扶養控除等申告書は7年間)を確認のうえ、不要なものは適切に廃棄する
- マイナンバーの保管場所(鍵付きキャビネット、暗号化されたファイルなど)が適切か見直す
従業員数が少ないうちに管理体制を整えておけば、人員が増えたときもルールの延長線上で対応できます。
04住民税の特別徴収額を給与明細と照合する
2026年6月頃に届いた「特別徴収税額の決定通知書」に基づき、6月分(または7月分)から新年度の住民税額に切り替わっています。ここでよくあるミスが、通知書の金額と実際に給与から天引きしている金額の不一致です。
特に注意したいのは次の点です。
- 6月分と7月分以降で月額が異なる場合がある(端数調整のため6月分が多いことが一般的)
- 年度途中で入社した従業員は「普通徴収」から「特別徴収」への切替手続きが必要な場合がある
- 退職者がいる場合、市区町村への異動届出書の提出を忘れていないか
7月の給与計算時に、決定通知書の金額と実際の天引き額を一人ずつ突合しておくと、年間を通じて正確な住民税の徴収ができます。
05下半期に向けて整備したい給与計算の仕組み
給与計算ソフトの設定を見直す
創業当初はExcelや手計算で給与計算を行っている方もいますが、従業員が増えてきたタイミングでクラウド型の給与計算ソフトへの移行を検討する価値があります。2026年現在、月額数千円から利用できるサービスが複数あり、源泉徴収税額の自動計算や年末調整機能が標準搭載されているものがほとんどです。
通勤手当・残業代の計算ルールを明文化する
通勤手当は月15万円までが非課税ですが、この限度額を超えている場合は課税対象となります。また、残業代の計算基礎に含める手当・含めない手当の区分が曖昧なまま運用していると、後から遡って修正が必要になることがあります。下半期に入る前に、就業規則や賃金規程と実際の計算方法が一致しているか確認しましょう。
注意:通勤手当の非課税限度額(月15万円)を超える部分は給与として課税対象になります。また、2026年の税制改正内容を反映した最新の源泉徴収税額表を使用しているか必ず確認してください。国税庁のサイトで最新版を入手できます。
06年末調整を見据えた「今から」のスケジュール
年末調整は12月の給与で精算するのが一般的ですが、準備は秋口から始まります。以下のスケジュールを意識しておくと、直前に慌てずに済みます。
- 7月(今):扶養控除等申告書の異動確認、マイナンバー点検、住民税照合
- 9~10月:生命保険料控除証明書等の届く時期。従業員に「届いたら捨てずに保管してください」と早めにアナウンス
- 10~11月:年末調整書類(保険料控除申告書、基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼年末調整に係る定額減税のための申告書など)の配布・回収
- 12月:年末調整計算、過不足税額の精算、源泉徴収票の作成
- 翌年1月:法定調書の提出、給与支払報告書の市区町村への提出、1月20日までに下半期分の源泉所得税を納付
創業期の会社で従業員5名であっても、年末調整に必要な書類は一人あたり3~4種類になります。回収から計算完了まで最低でも2~3週間はかかると見積もっておきましょう。
07下半期のスタートは「仕組みづくり」の好機
創業期は本業に注力するあまり、バックオフィスの整備が後回しになりがちです。しかし、給与計算や源泉徴収の実務は従業員との信頼関係に直結する重要な業務です。7月の源泉所得税納付をきっかけに、「正しく天引きし、正しく申告・納付する」体制を整えることは、下半期の経営を安定させる土台になります。
特に初めての年末調整を迎える法人にとっては、今のうちに税理士に相談しておくことで、12月に「何をすればよいかわからない」という事態を防ぐことができます。
- 7月10日の源泉所得税納付後は、下半期の給与計算体制を整える絶好のタイミング
- 扶養控除等申告書の異動確認を全従業員に対して行い、源泉徴収額のズレを防ぐ
- マイナンバーの収集漏れ・保管方法を点検し、年末調整や法定調書の提出に備える
- 住民税の特別徴収税額決定通知書と実際の天引き額を照合し、不一致を解消する
- 年末調整のスケジュールを今から逆算し、9~10月の保険料控除証明書の保管アナウンスなど早めに動く
- 給与計算ソフトの導入や賃金規程の見直しなど、仕組みの整備は人数が少ない今が好機
