「海外のデザイナーにPayPalで支払ったけど、送金手数料はどの勘定科目?」「Wiseで払ったときの為替レートはいつ時点で計算すればいいの?」——創業期のスタートアップや個人事業主から、夏のボーナス時期や海外SaaS契約の更新シーズンに寄せられる相談が増えています。海外送金は手数料体系も為替の確定タイミングも決済手段ごとに異なるため、処理を間違えると税務調査で指摘されるリスクがあります。本記事では、PayPal・Wise・銀行振込の3つの決済手段を軸に、2026年7月時点の実務に即して整理します。

01海外送金で発生する「2つのコスト」を分けて考える

海外のフリーランスやSaaSベンダーへの支払いでは、大きく分けて次の2つのコストが生じます。

  1. 送金手数料(サービス手数料):決済サービスや銀行に対して支払う手数料。金額が明示されるため把握しやすい。
  2. 為替差損益:円と外貨の交換レートの変動により生じる差額。送金時だけでなく、期末の外貨建債権債務の換算でも発生する。

この2つは勘定科目も損益の性質も異なります。送金手数料は「支払手数料」、為替差損益は「為替差損」または「為替差益」として処理するのが原則です。混同して全額を「外注費」に含めてしまうケースが創業期に多い処理ミスの代表例です。

02決済手段別——手数料の勘定科目と金額の把握方法

PayPalの場合

PayPalで海外送金を行うと、通常は送金額に対して一定割合の手数料(海外送金手数料)が差し引かれます。加えて、PayPal独自の為替レート(市場レートに数%のマージンを上乗せ)が適用されるため、実質的な為替コストが手数料に埋め込まれている点に注意が必要です。

  • 勘定科目:明示された送金手数料 → 支払手数料
  • 為替マージン部分:実務上、送金時のTTSレートとPayPal適用レートの差額を「為替差損」として計上するか、重要性が乏しければ支払手数料に含めて処理することも認められます。
  • 把握方法:PayPalの取引履歴画面から「手数料」「為替レート」をCSVでダウンロードし、証憑として保存します。

Wiseの場合

Wiseは「ミッドマーケットレート(市場仲値)+明示された手数料」という透明な料金体系が特徴です。たとえば1,000 USDを送金する際に手数料が約900円、為替レートは送金確定時のミッドマーケットレートが適用されます。

  • 勘定科目:Wiseが明示する手数料 → 支払手数料
  • 為替レート:送金を「確定」したタイミングのレートが適用されるため、仕訳上もその確定日のレートを使用します。
  • 把握方法:Wise管理画面の明細書(PDF)に手数料・適用レート・送金日が記載されるため、これをそのまま証憑にできます。

銀行振込(外国送金)の場合

メガバンクや地方銀行の外国送金では、送金手数料(3,000〜7,500円程度)に加え、中継銀行手数料(リフティングチャージ)や受取銀行手数料が発生することがあります。為替レートはTTS(対顧客電信売相場)が基本です。

  • 勘定科目:送金手数料・中継銀行手数料 → 支払手数料
  • 為替レート:銀行が送金を実行した日のTTSレートで換算します。
  • 把握方法:銀行が発行する「外国送金依頼書(控)」や取引明細に手数料・適用レートが記載されます。

ポイント:PayPalやWiseなど電子決済サービスの手数料は「支払手数料」で処理するのが一般的ですが、継続適用を前提に「雑費」で処理しても問題ありません。大切なのは外注費や仕入高に手数料を混入させず、支払対価と手数料を区分して記帳することです。

03為替レートの確定タイミング——「いつのレート」を使うのか

法人税法・所得税法上、外貨建取引の円換算は原則として「取引日の為替レート」で行います(法人税法第61条の8、法人税法施行令第122条の4)。ここでいう「取引日」とは、役務の提供を受けた日や物品の引渡日を指します。

ただし実務上は、送金日と取引日がずれることが多く、以下のように整理するとスムーズです。

  1. 取引発生日(請求書日付など):外注費や仕入高を計上するタイミング。この日のTTM(仲値)またはTTSで円換算し、買掛金(外貨建債務)を計上します。
  2. 送金日(決済日):実際に円を外貨に交換して送金する日。送金時の適用レートで円貨額が確定するため、取引発生日との差額が「為替差損益」になります。

たとえば、7月10日付の請求書で1,000 USD(TTM:1USD=158円)の外注費を計上し、7月20日にWiseで送金(適用レート:1USD=160円)した場合の仕訳は次のとおりです。

7月10日(取引発生日)

  • 外注費 158,000円 / 買掛金 158,000円

7月20日(送金日)

  • 買掛金 158,000円 / 普通預金 160,000円
  • 為替差損 2,000円 / (差額)

正確には「買掛金 158,000円+為替差損 2,000円 / 普通預金 160,000円+支払手数料 ○○円」のように手数料も合わせて処理します。

注意:個人事業主で「簡便法」として継続的に送金日のレートのみで処理する場合でも、期末に外貨建債権債務が残っていれば期末時換算が必要です(所得税法基本通達57の3-2参照)。「面倒だから」と換算を省略すると、申告漏れと指摘される可能性があります。

04期末の外貨建債権債務——換算替えのルール

決算期末に外貨建ての買掛金や売掛金、あるいはPayPal・Wise口座に外貨残高が残っている場合、法人は原則として期末時の為替レート(TTMなど)で換算替えを行い、差額を為替差損益として計上します(法人税法第61条の9)。

個人事業主の場合は、取得時のレートのまま据え置く「取得時換算法」が原則ですが、届出により期末時換算法を選択することもできます。

PayPal・Wise口座の外貨残高に注意

見落としがちなのが、PayPalやWiseのアカウントに外貨のまま保有している残高です。これは「外貨預金」と同様の扱いとなるため、法人であれば期末に換算替えが必要です。2026年7月現在、円安傾向が続いているケースでは為替差益が発生しやすく、課税所得を押し上げる可能性がある点にも留意してください。

05創業期に多い3つの処理ミスと対策

  1. 手数料を外注費に含めてしまう:外注費が過大計上され、支払手数料が過少になります。消費税の仕入税額控除にも影響するため、必ず区分しましょう(海外送金手数料は非課税または不課税取引)。
  2. 為替レートを「だいたいの数字」で処理する:TTMやTTSは銀行・日本銀行のサイトで確認できます。根拠のないレートでの記帳は税務調査で否認リスクがあります。
  3. 外貨残高の換算替えを忘れる:特にPayPalやWiseに外貨を「貯めている」場合、期末換算を忘れがちです。決算チェックリストに「外貨残高の確認」を加えておきましょう。

06実務をラクにするための3つのコツ

  • 送金日=取引日に揃える:請求書受領後すぐに送金すれば、取引発生日と送金日の為替差損益を最小化でき、仕訳もシンプルになります。
  • 月次で為替レートを統一する:法人税法上、継続適用を条件に「その月の前月末のTTM」などを社内レートとして使用することが認められています。月に何件も海外送金がある場合は検討の価値があります。
  • CSVデータを活用する:PayPal・Wiseともに取引履歴をCSVでエクスポートできます。会計ソフトへのインポートやExcelでの集計に活用し、手入力ミスを防ぎましょう。
この記事のまとめ
  • 海外送金で発生する「送金手数料」と「為替差損益」は別の勘定科目で処理する。手数料は「支払手数料」、為替変動分は「為替差損」「為替差益」が原則。
  • PayPal・Wise・銀行振込それぞれで手数料の把握方法と為替レートの適用タイミングが異なる。各サービスの明細書・CSVを証憑として保存する。
  • 為替レートは原則「取引日のレート」で換算し、送金日との差額は為替差損益として処理する。
  • 期末にPayPal・Wise口座等に外貨残高が残っている場合、法人は期末時レートでの換算替えが必要。
  • 手数料を外注費に混入させない、根拠あるレートを使う、外貨残高の換算替えを忘れない——この3点が創業期の処理ミス防止の基本。