「補助金で設備投資をしたのに、翌年の決算で想定以上の税金が発生してしまった」——創業期の経営者からこのようなご相談を受けることは少なくありません。補助金・助成金は返済不要のありがたい資金ですが、税務上は「収益(益金)」として扱われるため、何も対策をしなければ受給年度に多額の課税が生じることがあります。そこで活用すべき制度が「圧縮記帳」です。本記事では、2026年度の決算を迎えるスタートアップ経営者・個人事業主の方に向けて、圧縮記帳の可否判定から仕訳、申告書別表への記載方法までを具体例で丁寧に解説します。

01補助金・助成金が「収益」になる理由を正しく理解する

まず前提として押さえておきたいのは、法人税法・所得税法上、補助金や助成金は原則として受給した事業年度(個人の場合はその年分)の「益金(収入金額)」に算入されるという点です。つまり、500万円の補助金を受け取れば、500万円の利益が増加したものとして課税対象になります。

たとえば、創業期に「ものづくり補助金」で500万円を受給し、1,000万円の製造設備を購入したケースを考えます。設備は耐用年数10年で減価償却しますので、初年度の償却費は100万円。一方、補助金500万円は全額が収益計上されるため、差し引き400万円分の利益が「先に」課税されてしまいます。まだ売上が十分でない創業期にこの税負担は非常に大きいものです。

02圧縮記帳とは何か——課税の「繰延べ」のしくみ

圧縮記帳とは、補助金等で取得した固定資産の帳簿価額を補助金相当額だけ減額(圧縮)し、その減額分を「圧縮損」として計上することで、受給年度の課税所得を減らす制度です。法人税法第42条(国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入)が根拠条文となります。

圧縮記帳の効果を数字で確認する

先ほどの例(補助金500万円・設備1,000万円・耐用年数10年・定額法)で比較してみましょう。

圧縮記帳を適用しない場合

  • 受給年度の益金:500万円(補助金)
  • 受給年度の減価償却費:100万円
  • 差引き課税所得の増加:400万円

圧縮記帳を適用した場合

  • 受給年度の益金:500万円(補助金)
  • 圧縮損:500万円
  • 圧縮後の帳簿価額:500万円(1,000万円 − 500万円)
  • 受給年度の減価償却費:50万円(500万円 ÷ 10年)
  • 差引き課税所得の増加:500万円 − 500万円 − 50万円 = △50万円

圧縮記帳を適用すれば受給年度の課税所得増加をゼロにできます。ただし、翌年度以降の減価償却費は50万円(圧縮なしなら100万円)に減少するため、トータルでは同じ金額が課税されます。あくまで課税の「免除」ではなく「繰延べ」である点を忘れないでください。

ポイント:圧縮記帳は税金をなくす制度ではなく、「受給年度に一度に課税されるのを防ぎ、減価償却期間にわたって少しずつ課税する」仕組みです。創業期のキャッシュフローを守るための重要なツールと考えてください。

03圧縮記帳を適用できる補助金・できない補助金

すべての補助金・助成金に圧縮記帳が使えるわけではありません。適用可否のポイントは大きく以下の3つです。

  1. 国庫補助金等に該当するか:法人税法第42条の対象は「国または地方公共団体の補助金、給付金その他これらに準ずるもので政令で定めるもの」です。ものづくり補助金、IT導入補助金、事業再構築補助金など国の補助金は原則として該当します。
  2. 固定資産の取得または改良に充てたか:運転資金や人件費に充当する助成金(例:キャリアアップ助成金)は対象外です。
  3. 返還義務の有無が確定しているか:交付決定通知を受け取っていても、実績報告前で返還条件が確定していない段階では収益計上のタイミング自体がずれることがあります。

自治体独自の助成金は要注意

都道府県や市区町村が独自に交付する助成金は、法人税法第42条の「国庫補助金等」に含まれる場合と含まれない場合があります。たとえば、地方公共団体が自らの財源で交付する設備投資補助金は対象になりますが、商工会議所や民間団体を経由して交付されるものは対象外となるケースがあります。交付要綱をよく確認し、不明な場合は税理士に相談してください。

注意:雇用関係の助成金(キャリアアップ助成金・トライアル雇用助成金等)は固定資産の取得を目的としていないため、圧縮記帳の対象外です。受給年度に全額が課税所得に含まれますのでご注意ください。

04収益計上タイミングの実務——期ずれに要注意

補助金の収益計上時期は「交付決定日」ではなく「返還不要が確定した日」が原則です(法人税基本通達2-1-42参照)。実務では以下の流れになります。

  1. 交付申請・交付決定:この時点では返還の可能性が残っているため、原則として収益計上しません。
  2. 事業実施・実績報告:補助対象経費を支出し、実績報告書を提出します。
  3. 確定通知(額の確定):補助金額が確定し、返還不要が確定した時点で収益を計上します。
  4. 補助金の入金:実際の入金は確定通知後になることが多いですが、入金の有無にかかわらず確定時点で計上します。

たとえば、2025年度中に交付決定を受け、2026年7月に額の確定通知が届き、2026年8月に入金される場合、2026年7月期決算の法人であれば当期の収益として処理します。一方、3月決算法人であれば2027年3月期の収益になります。期ずれが起こると圧縮記帳の適用事業年度も変わりますので、決算期との関係を正確に把握することが重要です。

05仕訳と申告書別表の記載方法【具体例】

直接減額方式の仕訳(法人の場合)

補助金500万円を受給し、設備1,000万円を取得したケースの仕訳です。

(1)補助金の確定時

(借方)未収入金 5,000,000 /(貸方)雑収入(補助金収入) 5,000,000

(2)設備の取得時

(借方)機械装置 10,000,000 /(貸方)普通預金 10,000,000

(3)圧縮記帳の適用時

(借方)固定資産圧縮損 5,000,000 /(貸方)機械装置 5,000,000

(4)減価償却(耐用年数10年・定額法)

(借方)減価償却費 500,000 /(貸方)機械装置 500,000

積立金方式を選択する場合

帳簿上の資産価額を減額せず、剰余金処分として「圧縮積立金」を計上する方法もあります。この場合、決算書上の固定資産簿価は1,000万円のまま残りますが、申告書別表四で「圧縮積立金積立額」を減算し、別表五(一)で積立金の残高を管理します。毎期の減価償却に伴い積立金を取り崩す処理が必要になるため、管理コストが高く、創業期の小規模法人には直接減額方式のほうが実務的に簡便です。

申告書別表の記載

直接減額方式の場合、法人税申告書への特別な別表記載は基本的に不要です(会計上で既に圧縮損が計上されているため)。ただし、積立金方式を選択した場合は以下の別表に記載が必要です。

  • 別表四:圧縮積立金の積立額を「減算・留保」として記載
  • 別表五(一):圧縮積立金の期首残高・増減・期末残高を記載
  • 別表十三(一):国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額等の明細を記載

06個人事業主の場合の取扱い

個人事業主が国庫補助金等で固定資産を取得した場合にも、所得税法第42条により圧縮記帳(総収入金額不算入)の適用が可能です。確定申告書に「国庫補助金等の総収入金額不算入に関する明細書」を添付する必要があります。青色申告・白色申告のいずれでも適用可能ですが、固定資産台帳の帳簿価額を圧縮後の金額に修正することを忘れないようにしましょう。

07創業期に特に注意すべき3つの落とし穴

  1. 赤字だからと圧縮記帳を省略する:創業期は赤字のことも多いですが、圧縮記帳を適用しないと翌期以降の減価償却費が大きくなるメリットを活かせる反面、繰越欠損金の期限切れリスクもあります。将来の損益予測を踏まえた判断が必要です。
  2. 消費税の仕入税額控除で補助金分を除外し忘れる:補助金は消費税の対象外ですが、補助金で購入した設備の仕入税額控除は「税込の支払額」が基準です。ただし、補助金の確定申告時に消費税仕入控除税額の報告が求められるケースがあるため、補助金事務局への報告要否も確認しましょう。
  3. 圧縮記帳の適用を申告書で表明し忘れる:圧縮記帳は確定申告で適用を受ける意思表示(仕訳処理または申告調整)が必要です。申告期限後に「やはり適用したい」と思っても原則として認められませんのでご注意ください。
この記事のまとめ
  • 補助金・助成金は受給年度の益金(収益)に算入されるため、圧縮記帳を活用しなければ創業期に大きな税負担が生じる
  • 圧縮記帳は課税の「繰延べ」であり「免除」ではない。減価償却費が圧縮後の帳簿価額ベースになる点を理解する
  • 国庫補助金等で固定資産を取得した場合が対象。雇用系助成金や運転資金の補助金は対象外
  • 収益計上タイミングは「返還不要が確定した日」が原則。交付決定日や入金日ではない
  • 直接減額方式が創業期の小規模事業者には実務的に簡便。積立金方式は別表管理が必要
  • 申告期限までに圧縮記帳の適用意思を示す必要があるため、決算前に税理士へ相談することが重要