「法人から役員報酬を受け取りながら個人事業も行っている」「年の途中で会社員から独立して個人事業主になった」――こうした創業期の経営者の方が確定申告を行う際、意外と見落としやすいのが「所得金額調整控除」です。給与収入が850万円を超える年に、23歳未満の扶養親族がいるなどの要件を満たせば最大15万円の控除を受けられます。2026年分の確定申告に向けて、適用判定のポイントと申告書への記載方法を確認しておきましょう。
01所得金額調整控除とは何か
所得金額調整控除は、2020年分(令和2年分)の所得税から導入された控除制度です。給与所得控除の上限が195万円(給与収入850万円超の場合)に引き下げられたことに伴い、一定の要件を満たす方の税負担が過度に増えないよう設けられました。
この控除には、大きく分けて2つの種類があります。
(1)子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
給与等の収入金額が850万円を超える方で、以下のいずれかに該当する場合に適用されます。
- 本人が特別障害者に該当する
- 23歳未満の扶養親族がいる
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる
控除額は次の算式で求めます。
(給与等の収入金額(上限1,000万円) − 850万円) × 10%
つまり、給与収入が1,000万円以上の場合は一律15万円(=(1,000万円−850万円)×10%)が上限となります。
(2)給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除
給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額の両方がある方で、その合計額が10万円を超える場合に適用されます。こちらは年齢や扶養親族の有無を問いません。
本記事では、スタートアップ経営者や独立直後の方に特に関係の深い(1)の控除を中心に解説していきます。
ポイント:(1)の控除は共働き夫婦の場合、夫婦それぞれが要件を満たせば両方とも適用を受けることができます。扶養控除のように「どちらか一方のみ」という制限はありません。
02創業期の経営者が対象になりやすいケース
「自分には関係ない」と思われがちなこの控除ですが、以下のようなケースでは適用対象になる可能性があります。
ケース1:法人設立後、役員報酬が高めに設定されている場合
法人を設立し、代表取締役として月額75万円(年額900万円)の役員報酬を受け取っているAさん。2歳のお子さんがいます。この場合、給与収入が850万円を超え、かつ23歳未満の扶養親族がいるため、所得金額調整控除の対象になります。
控除額:(900万円 − 850万円) × 10% = 5万円
ケース2:年の途中で会社員から独立した場合
2026年6月まで年収1,200万円ペースの会社に勤務し、7月に退職して個人事業主として独立したBさん。退職までの給与収入は約600万円で850万円以下のため、この控除の対象にはなりません。
一方、退職時の給与収入が850万円を超えている場合(たとえば10月退職で給与収入が900万円の場合)は、23歳未満の扶養親族などの要件を満たせば適用対象になります。
ケース3:役員報酬と事業所得の両方がある場合
法人の代表者として役員報酬を受け取りつつ、個人名義でも事業を行っている方は珍しくありません。所得金額調整控除の判定は「給与等の収入金額」のみで行いますので、事業所得の金額は判定に影響しません。あくまで給与収入が850万円を超えるかどうかがポイントです。
03適用要件の判定で注意すべき3つのポイント
1. 「23歳未満」の判定時期
23歳未満の扶養親族に該当するかどうかは、その年の12月31日時点の年齢で判定します。2026年分の確定申告であれば、2026年12月31日時点で22歳以下(2004年1月2日以後に生まれた方)であれば要件を満たします。
2. 扶養控除の対象外でも適用できる場合がある
16歳未満の子どもは扶養控除の対象にはなりませんが、所得金額調整控除の「23歳未満の扶養親族」には含まれます。小さなお子さんがいる経営者の方は特に見落としやすいので注意してください。
3. 合計所得金額の要件はない
配偶者控除や扶養控除には「合計所得金額○○万円以下」といった所得制限がありますが、所得金額調整控除(子ども・特別障害者等)にはそのような所得制限がありません。高所得の経営者でも、給与収入が850万円超で要件を満たせば適用できます。
注意:年末調整で所得金額調整控除の適用を受けた場合でも、確定申告が必要な方(事業所得がある場合など)は、申告書に改めて記載する必要があります。年末調整で処理済みだからと省略してしまうと、正しく控除が反映されない可能性があります。
04確定申告書への具体的な記載方法
2026年分の確定申告書(令和8年分)における所得金額調整控除の記載手順を説明します。
- 給与所得の計算時に控除を反映する
所得金額調整控除は、給与所得の金額の計算過程で差し引きます。確定申告書第一表の「給与」の所得金額欄には、給与所得控除後の金額からさらに所得金額調整控除額を差し引いた金額を記載します。 - 「所得金額調整控除申告書」の内容を確認する
年末調整時に勤務先へ提出した「所得金額調整控除申告書」(基礎控除申告書等と兼用の書式)の内容を確認し、適用要件を満たしていることを再確認します。 - 確定申告書第一表・第二表への記載
第一表の給与所得欄に控除後の金額を記載するとともに、第二表の「配偶者や親族に関する事項」欄に、該当する扶養親族の氏名・生年月日等を正しく記入します。 - 国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用する場合
画面の案内に従って給与収入金額・扶養親族の情報を入力すれば、所得金額調整控除は自動的に計算されます。源泉徴収票の内容を正確に入力することが重要です。
手書きで申告書を作成する場合は、控除額の計算を忘れがちです。計算式をもう一度確認しておきましょう。
控除額 =(給与等の収入金額(上限1,000万円) − 850万円) × 10%
05よくある間違いと確認のポイント
- 給与収入と給与所得を混同する:判定は「給与等の収入金額(額面)」が850万円を超えるかどうかで行います。給与所得控除後の金額ではありません。
- 副業の収入を給与収入に含めてしまう:事業所得や雑所得は給与等の収入金額に含みません。あくまで給与・賞与として受け取った金額のみが対象です。
- 共働き夫婦で片方しか申告しない:前述のとおり、夫婦それぞれが給与収入850万円超であれば、同じ子どもを理由に両方とも控除を受けられます。
- 年末調整済みの控除を確定申告で反映し忘れる:源泉徴収票の「給与所得控除後の金額(調整控除後)」欄を確認し、所得金額調整控除が反映されているか確かめましょう。
06まとめ
- 所得金額調整控除は、給与収入850万円超で23歳未満の扶養親族がいる方や特別障害者に該当する方が対象。最大15万円の控除を受けられる。
- 法人の役員報酬が850万円を超える経営者や、年の途中で退職・独立した方は適用可能性を必ず確認する。
- 16歳未満の子どもも「23歳未満の扶養親族」に含まれるため、小さなお子さんがいる方は見落とさないよう注意する。
- 確定申告書の給与所得欄には控除後の金額を記載する。国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用すれば自動計算される。
- 共働き夫婦の場合、夫婦双方が要件を満たせばそれぞれ控除を受けられる。
