「下半期に追加融資を受けたい」「金利の低い制度融資に借換えたい」——そう考えている創業期の経営者の方は多いのではないでしょうか。しかし、いざ金融機関に相談すると必ず求められるのが「直近の試算表」です。月次の記帳が2~3か月遅れている、勘定科目の使い方がバラバラ、役員借入金が膨らんだまま……。こうした状態では、実際には業績が改善していても、その事実が金融機関に正しく伝わりません。2026年度も折り返しを過ぎた今、8月の比較的落ち着いた時期を活用して、上半期(1月~6月)の試算表を「見せられる状態」に仕上げておきましょう。
01なぜ8月が試算表整備の絶好のタイミングなのか
金融機関への融資申込みから実行までは、一般的に1~2か月程度かかります。9月・10月に資金が必要になるケースを逆算すると、8月中に書類を整え、遅くとも8月末~9月上旬には相談を始めたいところです。
また、8月はお盆休みなどで営業日数が少なく、比較的バックオフィス業務に時間を割きやすい時期でもあります。「忙しくて帳簿が後回しになっていた」という方にとって、まさにキャッチアップの好機です。
上半期の数字がそろうメリット
- 6か月分のデータがあれば、月平均売上・月平均経費など「傾向」を示せる
- 前年同期比較ができるため、成長率をアピールしやすい
- 通期の着地見込み(業績予測)に説得力が生まれる
02金融機関が試算表で注目する5つの数値ポイント
金融機関の融資担当者は、試算表のどこを見ているのでしょうか。創業期の企業で特に重視される5つの数値を押さえておきましょう。
- 売上高の推移——月次で安定しているか、右肩上がりか。急な変動がある場合は理由を説明できるようにしておく。
- 粗利率(売上総利益率)——原価管理ができているかの指標。業種ごとの目安と大きく乖離していないかがチェックされる。
- 営業利益(本業の収益力)——赤字であっても、赤字幅が縮小しているなら評価されることがある。
- 現預金残高と借入金のバランス——手元資金が月商の何か月分あるかは、返済余力の判断材料になる。月商1.5か月分以上が一つの目安。
- 役員借入金・役員貸付金の残高——役員貸付金が多いと「資金が私的に流出している」と見なされるリスクがある。役員借入金は整理の仕方次第で自己資本の評価に影響する。
ポイント:金融機関は「数字そのもの」だけでなく、「数字の変化を経営者自身が説明できるか」を見ています。試算表の各項目について、増減の理由を2~3文で説明できるように準備しておくと、面談の印象が大きく変わります。
03試算表を整備する5つの実践ステップ
ステップ1:未処理の領収書・請求書を月別に仕分ける
まず物理的な整理から始めます。1月~6月の領収書・請求書を月別に分け、漏れがないかクレジットカード明細・銀行口座の取引履歴と突合しましょう。クラウド会計を使っている場合は、「未確定の取引」が残っていないかを確認してください。
ステップ2:勘定科目の統一ルールを決める
「通信費」と「インターネット費用」、「外注費」と「業務委託費」など、同じ性質の支出が異なる科目に散っていると、金融機関は実態を把握しづらくなります。会計ソフトの勘定科目一覧を見直し、迷いやすいものはルール表を作成しておきましょう。一度決めれば下半期以降の記帳スピードも上がります。
ステップ3:役員借入金・役員貸付金を精査する
創業期に経営者が個人資金を会社に入れた「役員借入金」は珍しくありません。ただし、金額が大きい場合は資本金への振替(DES=デット・エクイティ・スワップ)を検討する余地があります。逆に「役員貸付金」が計上されている場合は、早急に解消策を講じましょう。
注意:役員借入金を資本金に振り替えるDESは、税務上のみなし譲渡や債務消滅益の課税リスクが伴う場合があります。実行前に必ず税理士に相談してください。
ステップ4:減価償却・引当金の月次按分を反映する
年に一度しか減価償却費を計上していない場合、上半期の試算表は利益が過大に表示されてしまいます。月割りで按分した減価償却費を反映し、より実態に近い利益を示しましょう。賞与引当金など季節的な費用も同様です。
ステップ5:残高試算表と合計試算表の両方を出力する
金融機関に提出する際は、「残高試算表」と「合計試算表(または推移表)」の2種類を用意すると丁寧です。残高試算表で現在のストック(資産・負債・純資産)がわかり、月次推移表でフロー(売上・費用の動き)が伝わります。クラウド会計ソフトであれば、ほとんどの場合ワンクリックで出力できます。
04試算表とあわせて用意したい補足資料
試算表だけではカバーしきれない情報を補足資料で補うと、融資交渉の成功率が高まります。
- 資金繰り表(向こう6か月分)——入金・出金の予定を月別に整理し、いつ・いくら資金が必要になるかを可視化する。
- 売上の根拠資料——受注リスト、契約書の写しなど、下半期の売上見込みを裏付ける書類。
- 借入一覧表——既存の借入先・残高・返済条件を一覧にまとめたもの。借換え交渉の場合は特に重要。
- 事業計画書(簡易版)——A4で1~2枚程度のもので十分。試算表の数字と将来の計画をつなぐ「ストーリー」を伝える役割を果たす。
05よくある失敗パターンと対策
失敗1:「数字は税理士任せ」で経営者が内容を把握していない
金融機関との面談で「この科目は何ですか?」と聞かれて答えられないと、信用を損ないます。少なくとも売上・粗利・営業利益・現預金残高の4項目は、自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。
失敗2:赤字を隠そうとして科目を操作する
創業期は赤字であることも珍しくありません。金融機関もそれを理解しています。問題なのは、費用を翌期に先送りしたり、架空の売上を計上したりして数字を良く見せようとすることです。発覚すれば信用は失墜し、今後の融資が一切受けられなくなるリスクがあります。赤字であっても「なぜ赤字なのか」「いつ黒字化する見込みか」を誠実に説明するほうが、はるかに評価されます。
失敗3:提出直前に慌てて作成し、整合性が取れていない
貸借対照表の現預金残高と実際の口座残高が合っていない、売掛金の残高が請求書と一致しないといったケースは、金融機関から「管理ができていない会社」と判断される原因になります。だからこそ、時間に余裕のある8月中に整備を済ませておくことが重要です。
06まとめ——8月の行動が下半期の資金調達を左右する
上半期の試算表を整備することは、単なる「書類準備」ではありません。自社の経営状況を数字で把握し、金融機関と対等に対話するための土台づくりです。2026年度の下半期を攻めの姿勢で迎えるために、ぜひ8月中にアクションを起こしてみてください。
- 下半期の融資・借換え交渉を有利に進めるには、8月中に上半期の試算表を整備しておくことが重要
- 金融機関が注目するのは、売上推移・粗利率・営業利益・現預金と借入のバランス・役員借入金/貸付金の5つ
- 未処理の帳簿整理、勘定科目の統一、役員借入金の精査、減価償却の月次按分、残高試算表と推移表の出力が整備の5ステップ
- 試算表に加えて資金繰り表・売上根拠資料・借入一覧表・簡易事業計画書を用意すると説得力が増す
- 赤字を隠すより、原因と改善策を説明できる経営者のほうが金融機関からの信頼を得られる
