「事務所の契約更新で支払った更新料、これって全額経費で落とせるの?」「礼金と仲介手数料、仕訳の方法がそれぞれ違うらしいけど、どう処理すればいいの?」——夏から秋にかけて賃貸借契約の更新や移転が増える時期、こうした疑問を抱える創業期の経営者の方は少なくありません。金額や契約期間によって「一括経費」か「繰延資産として償却」かの処理が分かれるため、判断を誤ると税務調査で否認されるリスクもあります。この記事では、2026年現在の税法に基づき、判定フローと具体的な仕訳例を整理します。
01更新料・礼金・仲介手数料は何に該当するのか
まず、事業用賃貸物件に関して支払う主な費用の税務上の位置づけを確認しましょう。
礼金(権利金)
賃貸借契約の開始時に貸主へ支払う「お礼」的な性格の金銭です。税務上は「建物を賃借するために支出する権利金等」として繰延資産に該当します(法人税法施行令第14条第1項第6号ロ、所得税法施行令第7条第1項第1号ヘ)。ただし、金額が少額の場合は一括経費にできる特例があります(後述)。
更新料
契約期間満了時に継続して借りるために支払う費用です。税務上の取扱いは礼金と同様に繰延資産として扱われます。更新後の契約期間にわたって償却するのが原則です。
仲介手数料
不動産仲介業者に支払う手数料です。新規契約時に支払う仲介手数料は、繰延資産ではなく支払手数料として一括経費にできるのが原則です。ただし、契約締結のための費用として繰延資産に含める考え方もあるため、金額が大きい場合は慎重に判断しましょう。
ポイント:「礼金」と「敷金(保証金)」は全く別物です。敷金は退去時に返還される預け金であり、経費にも繰延資産にもなりません。返還されない部分(償却分)がある場合は、その金額が繰延資産となります。
02一括経費にできるか?繰延資産にすべきか?——判定フロー
礼金や更新料を一括経費にできるかどうかは、以下のフローで判定します。
ステップ1:金額が20万円未満かを確認
法人税法施行令第134条(個人は所得税法施行令第139条の2)により、繰延資産の金額が20万円未満であれば、支出した事業年度(年分)に全額を一括経費(損金・必要経費)として処理できます。
ステップ2:20万円以上なら繰延資産として償却
20万円以上の礼金・更新料は、繰延資産として計上し、所定の期間で均等償却します。償却期間は以下のとおりです。
- 契約期間の定めがあり、かつ更新時に再び更新料等を支払う場合:その契約期間で償却
- 契約期間の定めがない場合:5年で償却(税法上のみなし期間)
- 契約期間が5年以上の場合:5年で償却
つまり、償却期間は「契約期間」と「5年」のいずれか短い方が基本です。
判定フローのまとめ
- 支払った礼金・更新料の金額を確認する
- 20万円未満であれば → 一括経費(地代家賃 or 支払手数料)
- 20万円以上であれば → 繰延資産に計上し、契約期間(最長5年)で均等償却
03具体的な仕訳例で理解する
ケース1:礼金15万円(20万円未満)の場合
2026年8月に事務所を新規契約し、礼金15万円を支払ったケースです。
20万円未満のため、一括経費として処理できます。
仕訳:
(借方)地代家賃 150,000円 /(貸方)普通預金 150,000円
※ 勘定科目は「支払手数料」でも構いませんが、賃借に関連する費用として「地代家賃」に含めるのが実務上は一般的です。
ケース2:礼金50万円(20万円以上・契約期間3年)の場合
2026年8月に店舗を新規契約し、礼金50万円を支払い、契約期間が3年のケースです。
支払時の仕訳:
(借方)長期前払費用(繰延資産)500,000円 /(貸方)普通預金 500,000円
決算時の償却仕訳(3月決算法人の場合・初年度8か月分):
500,000円 × 8か月 ÷ 36か月 ≒ 111,111円
(借方)長期前払費用償却 111,111円 /(貸方)長期前払費用 111,111円
ケース3:更新料10万円(20万円未満)の場合
2026年9月に契約更新で更新料10万円を支払ったケースです。
20万円未満のため、一括経費として処理可能です。
(借方)地代家賃 100,000円 /(貸方)普通預金 100,000円
ケース4:仲介手数料30万円の場合
仲介手数料は一般的に支出時の一括経費として処理できます。
(借方)支払手数料 300,000円 /(貸方)普通預金 300,000円
04消費税の仕入税額控除——見落としやすい「居住用」との線引き
事業用賃貸物件に係る礼金・更新料・仲介手数料は、原則として消費税の課税取引に該当し、課税事業者であれば仕入税額控除の対象となります。一方で、以下のケースには注意が必要です。
居住用物件は非課税
住宅の貸付けに係る家賃・礼金・更新料は消費税が非課税です(消費税法別表第一第13号)。自宅兼事務所のように居住用と事業用が混在する場合、事業用部分に対応する金額のみが仕入税額控除の対象となります。
自宅兼事務所の按分が必要なケース
個人事業主が自宅の一部を事務所として使用している場合、礼金や更新料を事業用割合で按分する必要があります。たとえば、床面積の30%を事務所として使用しているなら、礼金の30%が事業経費の対象です。さらに、居住用部分に係る消費税は非課税となるため、消費税の計算上も注意が必要です。
注意:2026年現在、インボイス制度が施行されています。仲介業者や貸主が適格請求書発行事業者であるかどうかを確認し、適格請求書(インボイス)を受領・保存しなければ、原則として仕入税額控除を受けることができません。経過措置の適用割合にも注意しましょう。
05創業期に特に注意すべき3つの実務ポイント
1. 開業前に支払った礼金の取扱い
個人事業主が開業届提出前に支払った礼金は「開業費」として繰延資産に計上する方法と、通常の繰延資産(建物賃借の権利金)として処理する方法があります。建物賃借に係る権利金等は開業費には含まれず、別途繰延資産として計上・償却するのが正しい処理です。
2. 短期間で退去した場合の未償却残高
繰延資産として計上した礼金等について、契約期間の途中で退去した場合は、未償却残高を退去した事業年度に一括で経費処理できます。移転が多い創業期には覚えておきたいルールです。
3. フリーレント期間がある場合
創業支援として数か月のフリーレント(賃料無料期間)が設定されている契約もあります。フリーレント期間があっても、礼金・更新料の繰延資産としての償却期間には影響しません。償却期間はあくまで契約期間で判断します。
06まとめ
- 礼金・更新料は税務上「繰延資産」に該当するが、20万円未満であれば一括経費として処理可能
- 20万円以上の場合は、契約期間(最長5年)にわたって均等償却する
- 仲介手数料は原則として支出時に一括経費処理が可能
- 事業用物件の礼金・更新料は消費税の課税取引だが、居住用部分は非課税。自宅兼事務所の場合は按分が必要
- インボイスの受領・保存がなければ仕入税額控除を受けられないため、適格請求書の確認を忘れずに
- 途中退去した場合は未償却残高を一括経費にできる
