「プライベートでも使っているスマホの料金、どこまで経費にしていいんだろう?」――創業したばかりの経営者や個人事業主の方から、こうしたご質問をよく頂きます。事業用とプライベート用で回線を完全に分けるのが理想ですが、コスト面から1台のスマホやひとつのWi-Fi回線を兼用している方がほとんどではないでしょうか。本記事では、2026年4月現在の実務にもとづき、通信費の家事按分の考え方から、税務調査で否認されないための証拠の残し方まで具体的に解説します。

01通信費の「家事按分」とは?基本ルールを押さえよう

家事按分の考え方

家事按分とは、プライベートと事業の両方に使っている費用を、合理的な基準で事業用部分だけ経費に計上する方法です。所得税法第45条では「家事上の経費」は必要経費に算入できないとされていますが、同法施行令第96条により、業務の遂行上直接必要であり、かつその必要部分を明らかに区分できる場合は、その部分に限り経費算入が認められています。

法人と個人事業主で異なるポイント

個人事業主の場合、事業とプライベートの按分が必須です。一方、法人の場合は原則として「法人の支出=事業のための支出」となるため、法人名義の契約であれば全額経費にできるケースが多くなります。ただし、法人契約であっても社長個人のプライベート利用が大きい場合は、役員に対する経済的利益(役員給与)として認定されるリスクがある点には注意が必要です。

ポイント:法人の場合は、法人名義で契約し「業務使用に関する社内規程」を整備しておくと、税務調査時の説明がスムーズになります。個人事業主の場合は、合理的な按分割合の根拠資料を用意しておくことが最重要です。

02スマートフォン料金の按分方法と具体例

按分割合の決め方

スマホ料金の按分は、主に以下の基準で行います。

  • 通話時間・通話件数での按分:通話明細から事業用通話の割合を算出する方法。通話がメインの業種に適しています。
  • 使用日数での按分:週7日のうち事業で使う日数を基準にする方法。例えば週5日稼働なら5/7(約71%)が事業割合の目安です。
  • 利用実態による合理的見積もり:アプリの使用時間データ(iOSのスクリーンタイム、Androidのデジタルウェルビーイング等)を活用し、業務用アプリとプライベート用アプリの使用時間比で按分する方法です。

具体例:月額8,000円のスマホ料金

個人事業主Aさんは、月額8,000円のスマホを事業とプライベートで兼用しています。スクリーンタイムの記録から、1日の使用時間のうち業務用アプリ(メール、チャット、クラウド会計等)が約60%を占めていることが確認できました。この場合、月8,000円 × 60% = 4,800円を通信費として経費計上できます。

03Wi-Fi・固定回線の按分方法

自宅兼事務所の場合

自宅で事業を行っている方は、Wi-Fi回線を事業と私用で共有しているケースがほとんどです。按分の基準としては以下が一般的です。

  • 使用時間での按分:1日のうち業務で使用している時間の割合(例:1日8時間業務利用 / 24時間 ≒ 33%、ただし起きている時間ベースで 8時間 / 16時間 = 50%とする方がより合理的な場合もあります)
  • 使用端末数での按分:接続端末のうち事業用端末の割合(例:全5台中事業用2台 → 40%)
  • 部屋の面積按分との組み合わせ:事務所スペースの面積割合をWi-Fi按分にも適用する考え方

具体例:月額5,500円の光回線

個人事業主Bさんは自宅兼事務所で、月額5,500円の光回線を利用しています。自宅の総面積60平米のうち事務所として使用しているスペースが15平米(25%)です。また、業務時間は1日約8時間で、起床時間16時間のうちの50%にあたります。この場合、面積按分25%と時間按分50%の複合で、5,500円 × 25% × 50% = 688円……ではやや保守的すぎるかもしれません。実務上は、より有利な基準を一つ選んで合理的に説明できればよいとされています。たとえば時間按分50%を採用し、月2,750円を経費とする方法も十分に認められる可能性があります。

注意:按分割合は一度決めたら原則として継続適用が求められます。「今月は忙しかったから70%」「来月は暇だったから30%」のように毎月変動させると、合理性を疑われる原因になります。年に一度、実態を確認して見直す程度にとどめましょう。

04クラウドストレージ・SaaSの按分はどう考える?

クラウドサービスも通信費として按分可能

Google Workspace、Microsoft 365、Dropbox、iCloudなどのクラウドストレージやSaaSの利用料も、事業で使用している部分は経費にできます。勘定科目は「通信費」のほか「支払手数料」や「消耗品費」とする場合もありますが、一貫性があれば問題ありません。

按分の考え方

  • 事業専用アカウントの場合:全額を経費にできます。法人であれば法人名義のアカウント契約が望ましいです。
  • プライベートと兼用の場合:保存データのうち事業用データの容量割合、またはアカウントの利用目的の割合で按分します。例えば、100GBの保存容量のうち事業用ファイルが70GBなら70%を経費計上できます。

近年は月額1,000円〜2,000円程度のクラウドサービスでも年間にすれば12,000円〜24,000円になります。特に個人事業主の方は、少額でも積み重なる経費をもれなく計上することで節税効果が得られます。

05税務調査で否認されないための証拠の残し方

残すべき記録・資料

按分の合理性を裏付けるためには、以下の記録を日頃から残しておくことが大切です。

  1. 通話明細・利用明細:キャリアのマイページからダウンロードできるPDF等を毎月保存しましょう。
  2. スクリーンタイムの記録:月に1回程度、スマホの使用時間レポートのスクリーンショットを撮影し、日付入りで保存します。
  3. 按分計算の根拠メモ:「何を基準に」「何%と決めたのか」を文書化しておきます。Excelやスプレッドシートでの管理がおすすめです。
  4. 業務日報・カレンダー:稼働日数を基準にする場合、業務を行った日の記録があると説得力が増します。
  5. 契約書・請求書:通信会社やクラウドサービスの契約内容がわかる書類を保管しておきましょう。

電子帳簿保存法への対応も忘れずに

2024年1月以降、電子取引データの電子保存が完全義務化されています。クラウドサービスの請求書がPDFやメールで届く場合、紙に印刷して保管するだけでは不十分です。所定の要件(タイムスタンプの付与または訂正削除履歴が残るシステムでの保存、検索機能の確保等)を満たした電子保存が必要ですので、あわせて対応を確認してください。

06法人・個人事業主それぞれのベストプラクティス

個人事業主の場合

  • 可能であれば事業専用のSIMや回線を契約し、全額経費化する方法が最もシンプルです。格安SIMなら月額1,000円前後から利用可能です。
  • 兼用する場合は、按分割合の根拠資料を年に1回は作成・更新しましょう。
  • 確定申告書の「収支内訳書」や「青色申告決算書」に按分割合を正しく反映させることが大切です。

法人の場合

  • スマホ・Wi-Fi・クラウドサービスはすべて法人名義で契約するのが原則です。
  • 社長や役員がプライベートでも利用する場合は、「通信機器使用規程」を作成し、私的利用の範囲と費用負担のルールを明文化しましょう。
  • 私的利用分を役員から徴収する仕組み(給与天引き等)があれば、役員給与認定のリスクを大幅に下げられます。
この記事のまとめ
  • スマホ・Wi-Fi・クラウドストレージの料金は、合理的な基準で按分すれば事業用部分を経費にできる。
  • 按分基準には「使用時間」「通話件数」「端末数」「データ容量」など複数の方法があり、業態に合ったものを選ぶ。
  • 一度決めた按分割合は原則として継続適用し、年1回程度の見直しにとどめる。
  • 通話明細、スクリーンタイムのスクショ、按分計算メモなど、根拠資料を日頃から保存しておくことが税務調査対策の要。
  • 法人は法人名義での契約と社内規程の整備、個人事業主は按分根拠の文書化が、それぞれ最も重要なポイント。