「ふるさと納税も住宅ローン控除も配当控除も、全部使えるはずなのに、なぜか還付額が思ったより少ない」——創業期の経営者からこうしたご相談を受けることが増えています。役員報酬と配当を併用しているケースでは、3つの控除が互いに干渉し合い、適用順序や申告方法を誤ると「控除しきれない=節税効果ゼロ」になる部分が発生します。2026年分の確定申告に向けて、年末までに確認すべきポイントを具体例とともに整理しました。
01なぜ「三重適用」で損が生まれるのか——控除の適用順序の基本
所得税の税額計算では、各種控除が決まった順番で適用されます。この順序を理解しないまま3つの控除を重ねると、一部が「使い残し」になるリスクがあります。
所得税における控除の適用順序
- 配当控除(税額控除)——課税総所得金額に対する算出税額から差し引く
- 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)——配当控除の後に差し引く
- ふるさと納税の寄附金控除——所得控除として課税所得の計算段階で反映(税額控除ではなく所得控除)
ここで重要なのは、ふるさと納税は「所得控除」であり課税所得を下げる効果がある一方、配当控除と住宅ローン控除は「税額控除」であり算出税額から直接差し引く点です。課税所得が下がると算出税額も小さくなるため、そこから配当控除と住宅ローン控除を引くと税額がゼロに到達しやすくなります。税額ゼロを超えて控除しきれなかった部分は原則として切り捨てられるため、結果的に「もったいない」状態が生じるのです。
ポイント:住宅ローン控除は所得税で控除しきれなかった場合、一定額(最大97,500円)まで翌年度の住民税から控除できます。一方、配当控除の所得税分は控除しきれなくても住民税に持ち越せません。この非対称性が三重適用の戦略を複雑にしています。
02具体例で見る——年収600万円・配当100万円のケース
以下の前提で、控除の組み合わせによる手取りの違いをシミュレーションします。
前提条件
- 役員報酬:600万円(給与所得控除後の給与所得:436万円)
- 上場株式の配当所得:100万円(源泉徴収済み・所得税15.315%+住民税5%)
- 住宅ローン控除の控除可能額:21万円(残高3,000万円、控除率0.7%)
- ふるさと納税:8万円(自己負担2,000円を含む)
- 社会保険料控除・基礎控除等の所得控除合計:約130万円
パターンA:配当を総合課税で申告し、3つすべて適用
配当100万円を総合課税にすると、課税総所得金額は約406万円から約498万円に増えますが、配当控除(10%=10万円)が使えます。ここにふるさと納税の所得控除(約7.8万円)を加え、課税所得は約490万円。算出税額は約50.4万円。ここから配当控除10万円、住宅ローン控除21万円を差し引くと、所得税額は約19.4万円となります。配当の源泉徴収税額(約15.3万円)と合わせて精算すると、実質的な納税額は約4.1万円です。
パターンB:配当を申告不要(源泉分離)にして、住宅ローン控除とふるさと納税のみ適用
配当を申告に含めない場合、課税総所得は約298万円。算出税額は約20.2万円。住宅ローン控除21万円を引くと所得税額はゼロ。ふるさと納税は所得控除として反映済みですが、住宅ローン控除だけで税額ゼロに到達しているため、住宅ローン控除の一部(約0.8万円)が所得税で使い切れず住民税に回ります。一方、配当にかかる源泉所得税15.3万円はそのまま納付済みとなり還付されません。
このケースでは、パターンAのほうが手取りベースで年間約10万円以上有利になります。ただし、配当を総合課税にすると住民税の課税所得も増えるため、住民税側の影響を含めた試算が不可欠です。
注意:2024年度税制改正により、上場株式等の配当所得について所得税と住民税で異なる課税方式を選択する方法(いわゆる「所得税は総合課税・住民税は申告不要」)は、2024年分以降の申告から利用できなくなっています。2026年分の申告でも同様に、所得税で総合課税を選択すれば住民税も総合課税となる点にご注意ください。この改正により、配当控除を使うかどうかの判断は以前よりシビアになっています。
03「税額ゼロの壁」を意識した最適化の考え方
3つの控除を最大限活かすためには、「算出税額をゼロにしない範囲で控除を積み上げる」という視点が重要です。
最適化の3ステップ
- 住宅ローン控除の控除可能額を確認する——残高証明書をもとに、所得税から控除しきれるかを試算します。控除しきれない場合は住民税への振替額(上限97,500円)も考慮します。
- 配当控除を加えたときに税額ゼロを超えないか検証する——配当を総合課税にして配当控除を得ることで「源泉税の還付」が受けられる一方、税額ゼロを超えると配当控除の余りは捨てることになります。課税所得が695万円以下であれば配当控除率10%が所得税率を下回り有利になりやすいですが、住民税側では配当控除率2.8%に対し税率10%のため不利になる点を忘れないでください。
- ふるさと納税の上限額を再計算する——住宅ローン控除や配当控除で所得税額が圧縮されると、ふるさと納税の「自己負担2,000円で済む上限額」も変動します。一般的なシミュレーターは住宅ローン控除や配当控除を考慮していないものが多いため、手計算またはエクセルでの検証をおすすめします。
04年末までに確認すべき5つの数字
2026年12月31日までに以下の数字を確定・確認しておくことで、確定申告時の判断がスムーズになります。
- 役員報酬の年間総額——定期同額給与の場合、年内の変更は原則として事業年度開始後3か月以内に限られます。
- 配当の受取額と源泉徴収税額——証券会社の年間取引報告書で確認できます。
- 住宅ローンの年末残高——金融機関から届く残高証明書の金額です。繰上返済を予定している場合は、控除額への影響を事前に試算してください。
- ふるさと納税の寄附済み金額——上限を超えた寄附は単なる持ち出しになります。12月中に追加寄附をする場合は、上限額の再計算が必須です。
- 社会保険料・小規模企業共済等の所得控除額——これらが増えると課税所得が下がり、税額控除が控除しきれなくなるリスクが高まります。
05申告書記載の実務ポイント
確定申告書の記載で間違いやすいポイントを整理します。
- 配当所得の記載——総合課税を選択する場合、確定申告書第一表の「所得金額等」の「配当」欄に金額を記入し、第二表の「所得の内訳」に源泉徴収税額を記載します。
- 配当控除の記載——第一表の「税額控除」欄に配当控除額を記入します。控除率は課税総所得金額が1,000万円以下の場合10%、超える部分は5%です。
- 住宅ローン控除との順序——申告書上では、配当控除を先に差し引き、その後に住宅ローン控除を差し引く流れになっています。e-Taxを利用すれば自動計算されますが、手書きの場合は順序を間違えないよう注意してください。
- ふるさと納税のワンストップ特例との関係——確定申告をする場合、ワンストップ特例は無効になります。寄附先すべての受領証明書を申告書に反映する必要があります。
- ふるさと納税は「所得控除」、配当控除・住宅ローン控除は「税額控除」。適用段階が異なるため、課税所得の圧縮が税額控除の使い残しを招くことがある。
- 2024年分以降、配当所得の所得税・住民税で異なる課税方式の選択はできなくなっている。配当を総合課税にするかどうかは住民税への影響も含めて判断が必要。
- 住宅ローン控除と配当控除で税額ゼロに到達すると、控除しきれない部分は原則切り捨て。ふるさと納税の上限額にも影響する。
- 年末までに「役員報酬額・配当額・ローン残高・ふるさと納税額・所得控除額」の5つの数字を確認し、総合的にシミュレーションすることが手取り最大化の鍵。
- 確定申告をする場合はワンストップ特例が無効になるため、寄附先すべての受領証明書の準備を忘れずに。
