「7月に法人を設立したけれど、個人事業の確定申告はどこまでの売上を入れればいい?」「廃業日をまたいで届いた請求書はどちらで処理する?」――年の途中で法人成りした経営者が、翌年の確定申告で頭を抱えるケースは少なくありません。個人側と法人側の売上・経費の切り分けを誤ると、二重計上や申告漏れにつながり、税務調査で指摘されるリスクもあります。本記事では、2026年中に法人成りした場合を前提に、廃業日をまたぐ取引の処理を時系列で整理します。
01法人成りで発生する「二つの申告義務」を理解する
年の途中で個人事業を廃業し法人を設立すると、その年は個人の確定申告(1月1日〜廃業日)と法人の確定申告(設立日〜事業年度末)の二つの申告義務が生じます。たとえば2026年7月31日に個人事業を廃業し、同年8月1日に法人を設立した場合、個人は2026年1月1日〜7月31日の所得を翌年3月15日までに申告し、法人は8月1日〜最初の事業年度末までの所得を事業年度終了後2か月以内に申告します。
ここで最も間違いやすいのが、売上と経費をどちらの主体に帰属させるかという判断です。帰属の原則は「役務の提供や商品の引渡しが完了した日(権利確定主義・債務確定主義)」であり、単に入金日や支払日で分けるわけではありません。
02売上の切り分け——権利確定日がすべての判断基準
個人側に計上すべき売上
廃業日以前に役務提供が完了した、または商品を引き渡した取引の売上は、たとえ入金が法人設立後であっても個人の事業所得に計上します。例として、7月25日に納品が完了したWeb制作代金50万円が8月15日に入金された場合、この50万円は個人側の売上です。
法人側に計上すべき売上
法人設立日以降に役務提供が完了した取引は法人の売上です。廃業日をまたぐ長期プロジェクト(例:6月〜9月の4か月契約でコンサルティングを提供し、報酬が月額20万円)は、月ごとに役務提供が確定するため、6月・7月分の計40万円は個人、8月・9月分の計40万円は法人に帰属します。
ポイント:売上の帰属は「入金日」ではなく「役務提供完了日・引渡日」で判断します。入金ベースで分けてしまうと、個人側の売上が過少になり、法人側で二重計上するリスクがあります。契約書や納品書の日付を必ず確認しましょう。
03経費の切り分けと減価償却の月割計算
経費の帰属ルール
経費も売上と同じく、債務が確定した時点でどちらに帰属するかを判断します。7月分の事務所家賃や外注費は個人の経費、8月分は法人の経費です。ただし、年払いしている保険料や会費は、期間に応じて按分する必要があります。たとえば2026年4月〜2027年3月の火災保険料12万円を個人で一括支払済みの場合、個人側は4月〜7月の4か月分(4万円)を経費にし、残りの8か月分(8万円)は法人へ引き継ぐか精算処理を行います。
減価償却の月割計算
個人事業で使っていた固定資産を法人に引き継ぐ場合、個人側では1月〜廃業月(7月)の7か月分を月割で減価償却費に計上します。たとえば取得価額120万円・耐用年数4年(定額法・償却率0.250)の機械であれば、年間償却額30万円の7/12で17万5,000円が個人側の減価償却費となります。法人側では、引き継いだ帳簿価額(未償却残高)を基に、設立日から事業年度末までの月数で償却を行います。
04青色申告特別控除は適用できるか
年の途中で廃業した場合でも、廃業日までの期間について正規の簿記の原則に基づく記帳を行い、貸借対照表と損益計算書を添付してe-Taxで期限内申告すれば、最大65万円の青色申告特別控除を受けることが可能です。ただし、控除額は所得金額が上限となるため、1月〜7月の事業所得が40万円であれば控除額は40万円にとどまります。
なお、個人事業の廃業届と同時に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出する必要がありますが、これは廃業年の翌年3月15日が提出期限です。廃業届の提出だけで安心し、取りやめ届出を失念するケースがあるため注意してください。
05届出の段取りを時系列で整理する
以下は、2026年7月31日に個人事業を廃業し、8月1日に法人を設立する場合のタイムラインです。
廃業前後(2026年7月〜8月)
- 個人事業の廃業届出書:廃業日から1か月以内(8月31日まで)に所轄税務署へ提出
- 事業廃止届出書(消費税):速やかに所轄税務署へ提出(課税事業者の場合)
- 給与支払事務所等の廃止届出書:廃止日から1か月以内に提出(従業員がいた場合)
- 法人設立届出書:設立日から2か月以内(9月30日まで)に所轄税務署・都道府県・市区町村へ提出
- 法人の青色申告承認申請書:設立日から3か月以内または最初の事業年度終了日のいずれか早い日まで
- 給与支払事務所等の開設届出書(法人):開設日から1か月以内
翌年の確定申告期(2027年2月〜3月)
- 個人の確定申告書:2027年3月15日までに提出(2026年1月1日〜7月31日の所得を申告)
- 個人事業税の申告:廃業年の見込み所得に基づき課税されるため、都道府県税事務所からの通知に対応
- 消費税の確定申告(個人):課税事業者であれば2027年3月31日までに提出
注意:法人設立直後は届出書類が集中します。特に「青色申告承認申請書」は期限を過ぎると初年度は白色申告になってしまうため、設立日から3か月以内という期限を厳守してください。また、個人事業で届出済みの簡易課税制度は法人には引き継がれません。法人で簡易課税を選択するなら、別途「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。
06申告漏れ・二重計上を防ぐチェックリスト
確定申告前に以下の項目を確認することで、よくあるミスを防げます。
- 廃業日をまたぐ売上を、入金日ではなく役務提供完了日で正しく振り分けたか
- 年払い経費(保険料・リース料など)を個人・法人で期間按分したか
- 個人の減価償却費を廃業月までの月割で計算したか
- 法人へ引き継いだ資産の帳簿価額を正しく算定したか(時価との差額に注意)
- 個人側の最終棚卸を廃業日時点で実施したか
- 個人の未収入金(廃業後に入金される売掛金)を個人の確定申告に含めたか
- 法人設立に伴う届出書類をすべて期限内に提出したか
- 個人の事業税について、廃業年の見込み所得に基づく税額を「必要経費」として計上したか
- 年の途中で法人成りすると、個人(1月〜廃業日)と法人(設立日〜事業年度末)の二つの申告義務が発生する
- 売上・経費の帰属は「入金日・支払日」ではなく「役務提供完了日・債務確定日」で判断する
- 減価償却は個人側で廃業月までの月割計算を行い、未償却残高を法人に引き継ぐ
- 青色申告特別控除は廃業年でも要件を満たせば最大65万円まで適用可能
- 法人の青色申告承認申請書は設立日から3か月以内が期限。届出漏れに要注意
- 個人事業税の見込額は廃業年の個人の必要経費に算入できる
