「創業1年目に事業用の車両を売却した」「資金調達のために保有株式を手放した」——こうしたケースで確定申告書をどう書けばよいか迷う方は少なくありません。事業所得と譲渡所得が同じ年に発生すると、所得区分の判定、税率の違い、申告書の記載欄と、つまずきやすいポイントが一気に増えます。本記事では2026年分の確定申告を念頭に、創業期に起こりがちな「事業所得+譲渡所得」混在パターンの正しい書き方を解説します。
01まず押さえたい「事業所得」と「譲渡所得」の違い
事業所得とは
事業所得は、個人事業主やフリーランスが事業活動を通じて得た収入から必要経費を差し引いたものです。売上・報酬・業務委託料などが典型で、青色申告特別控除(最大65万円)の適用対象にもなります。
譲渡所得とは
譲渡所得は、資産の売却・譲渡によって生じる所得です。事業で使っていた車両や機械を売却した場合でも、その売却益は原則として「譲渡所得」に区分されます。棚卸資産(在庫)の売却益は事業所得になりますが、固定資産の売却益は譲渡所得になる点が重要です。
ポイント:「事業で使っていた資産だから事業所得」ではありません。所得税法では、棚卸資産や営利を目的として継続的に行う資産の譲渡を除き、資産の売却益は譲渡所得として扱います(所得税法第33条)。この区分を間違えると、税率や損益通算の適用が変わり、過少申告加算税の対象になる恐れがあります。
02譲渡所得の「短期・長期」区分と税率の違い
総合課税の譲渡所得(車両・機械など)
事業用の車両や機械などの譲渡所得は「総合課税」の対象です。所有期間によって以下のように区分されます。
- 短期譲渡所得:取得日から売却日まで5年以内 → 譲渡益の全額が総合課税の対象
- 長期譲渡所得:取得日から売却日まで5年超 → 譲渡益の2分の1が総合課税の対象
いずれも特別控除として最大50万円を差し引くことができます。まず短期から控除し、残額があれば長期から控除する順序です。
分離課税の譲渡所得(上場株式など)
一方、株式や投資信託の売却益は「申告分離課税」の対象です。税率は所得の多寡にかかわらず一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)となります。総合課税の累進税率とは別計算になるため、申告書の記載欄も異なります。
03所得区分の判定フロー——迷ったらここを確認
創業期に資産を売却した場合、以下のフローで所得区分を判定してください。
- 売却した資産は「棚卸資産(商品・製品など在庫)」か? → Yesなら事業所得
- 営利目的で継続的に行う資産の譲渡か?(例:不動産業者の土地売買) → Yesなら事業所得
- 上場株式・投資信託など有価証券か? → Yesなら譲渡所得(申告分離課税)
- 土地・建物か? → Yesなら譲渡所得(分離課税・土地建物等)
- 上記以外の資産(車両・機械・備品など)か? → Yesなら譲渡所得(総合課税)
このフローに沿えば、多くのケースで正しい区分にたどり着けます。判断に迷う場合は、税理士にご相談ください。
04具体的な申告書の記載方法——2026年分確定申告書の場合
ケース設定
ここでは以下の例で解説します。
- 個人事業主Aさん(2025年4月に開業、青色申告)
- 2026年分の事業所得(青色申告特別控除前):500万円
- 事業用車両を売却(取得から3年、売却益80万円) → 短期譲渡所得(総合課税)
- 保有していた上場株式を売却(売却益120万円) → 申告分離課税
確定申告書 第一表・第二表(総合課税部分)
- 第一表の「収入金額等」欄:事業所得の収入を「事業(営業等)」欄に記載し、総合譲渡所得の収入を「譲渡」欄に記載
- 第一表の「所得金額等」欄:事業所得(青色申告特別控除後)を記載。総合短期譲渡所得は「80万円 − 特別控除50万円 = 30万円」を記載
- 第二表の「所得の内訳」欄:それぞれの所得の支払者・金額を記入
事業所得と総合譲渡所得を合算した金額に対して、累進税率(5%〜45%)が適用されます。
確定申告書 第三表(分離課税部分)
- 株式等の譲渡所得がある場合、第三表(分離課税用)を使用します
- 「株式等の譲渡所得等」欄に売却益120万円を記載
- 税額は120万円 × 15.315% = 約18万3,780円(所得税分)。住民税5%分は別途計算されます
- 「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付書類として作成・提出
注意:特定口座(源泉徴収あり)で株式を売却している場合、確定申告をしないことも選択できます。ただし、他の口座の譲渡損失と損益通算したい場合や、繰越控除を受けたい場合は確定申告が必要です。申告するかどうかで国民健康保険料やふるさと納税の上限額にも影響が出るため、慎重に判断しましょう。
05損益通算と繰越控除の注意点
総合課税内の損益通算
事業所得が赤字の場合、総合課税の譲渡所得(車両売却益など)と損益通算が可能です。逆に、総合課税の譲渡所得が赤字(売却損)であれば、事業所得と通算できます。ただし、生活に通常必要でない資産(別荘・趣味用のクルーザーなど)の譲渡損失は他の所得と通算できません。
株式の譲渡損失の扱い
上場株式の譲渡損失は、事業所得など他の総合課税の所得とは損益通算できません。通算できるのは、同じ申告分離課税の枠内にある上場株式等の配当所得や他の株式譲渡益に限られます。通算しきれない損失は、確定申告をすることで翌年以後3年間の繰越控除が可能です。
06申告ミスを防ぐための実務チェックリスト
2027年2月16日〜3月16日の確定申告期間(2026年分)に向けて、以下の項目を確認してください。
- 売却した資産ごとに「棚卸資産か固定資産か」を確認したか
- 固定資産の取得日・売却日から所有期間(5年以内 or 5年超)を正しく計算したか
- 減価償却費を反映した「取得費(簿価)」を正しく算出したか
- 総合課税の譲渡所得には50万円の特別控除を適用したか
- 株式の譲渡所得は第三表(分離課税用)に記載したか
- 計算明細書などの添付書類を準備したか
- 特定口座の源泉徴収の有無を確認し、申告の要否を判断したか
- 事業用の車両・機械の売却益は事業所得ではなく「譲渡所得(総合課税)」に区分される
- 株式の売却益は「譲渡所得(申告分離課税)」として第三表で申告し、税率は一律20.315%
- 総合課税の譲渡所得は所有期間5年で短期・長期が分かれ、長期なら課税対象が2分の1になる
- 事業所得の赤字と総合譲渡所得の黒字は損益通算できるが、株式の譲渡損失は他の所得と通算不可
- 所得区分の判定フローを活用し、第一表・第二表・第三表の使い分けを正確に行うことが申告ミス防止の鍵
