「事業用の保険に入ったけれど、経費にできるのかよくわからない」「法人契約と個人契約で処理が変わるらしいが、具体的に何が違うのか」——創業期の経営者からよく寄せられるご質問です。損害保険と生命保険では経費にできる範囲がまったく異なり、法人か個人事業主かによっても処理ルールが変わります。本記事では、2026年度の最新情報をもとに仕訳例・按分方法・損金算入のポイントを整理し、保険コストの最適化に役立つチェックポイントをお伝えします。

01損害保険料と生命保険料——まずは基本の違いを押さえる

保険料の経費処理を理解するために、まず損害保険と生命保険の性質の違いを確認しましょう。

損害保険料の特徴

火災保険、賠償責任保険、自動車保険などが該当します。損害保険は「事業上のリスクに備えるもの」という性格が強く、事業に関連する契約であれば、支払った保険料は原則として全額が経費(法人では損金)になります。掛け捨て型が大半であるため、資産計上が必要になるケースは少ないのが特徴です。

生命保険料の特徴

定期保険、終身保険、養老保険、医療保険などが該当します。生命保険は「貯蓄性」を持つ商品が多く、解約返戻金がある保険では保険料の一部または全部を資産計上しなければなりません。法人と個人事業主で経費にできる範囲が大きく異なる点が最大の注意ポイントです。

02個人事業主の場合——経費にできる保険・できない保険

損害保険料は事業割合で按分

個人事業主が支払う損害保険料のうち、事業に関連する部分は「損害保険料」として必要経費に計上できます。ただし、自宅兼事務所の火災保険や自家用兼事業用の自動車保険など、プライベートと事業の両方に関わる場合は按分が必要です。

たとえば、自宅兼事務所の火災保険料が年間36,000円、事業使用割合が40%の場合の仕訳は次のとおりです。

  • (借方)損害保険料 14,400円 /(貸方)事業主借 36,000円
  • (借方)事業主貸 21,600円 / ※差額は家事費

按分割合は床面積比や使用時間比など、合理的な基準で算定します。

生命保険料は「必要経費」にならない

個人事業主が自分自身を被保険者として支払う生命保険料は、事業の必要経費にはなりません。これは所得税法上、個人の生命保険料は「家事費」に該当するためです。ただし、確定申告で「生命保険料控除」(一般・介護医療・個人年金の3区分、合計最大12万円)を所得控除として受けることはできます。

注意:個人事業主が従業員を被保険者として加入する生命保険(団体定期保険など)は、福利厚生費として必要経費に計上できるケースがあります。ただし、事業主本人や専従者を対象とした保険は原則として対象外です。

03法人の場合——損害保険料の処理はシンプル

法人が事業用に加入する損害保険は、支払った保険料を「損害保険料」勘定で全額損金算入できます。処理が比較的シンプルなのが損害保険の特徴です。

注意すべき期間按分

ただし、決算をまたぐ長期契約の場合は期間按分が必要です。たとえば、2026年4月に2年分の火災保険料240,000円を一括払いした場合(3月決算法人)、初年度に損金算入できるのは以下のとおりです。

  • 当期分(2026年4月〜2027年3月・12か月分):120,000円 → 損害保険料
  • 翌期分(2027年4月〜2028年3月・12か月分):120,000円 → 前払費用(資産計上)

なお、1年以内の短期前払費用については、継続適用を条件に支払時に全額損金算入できる特例(法人税基本通達2-2-14)があります。

04法人の場合——生命保険料は商品タイプで処理が大きく変わる

法人が契約者となり、役員や従業員を被保険者とする生命保険の経費処理は、2019年(令和元年)の法人税基本通達改正により大きくルールが変わりました。保険の種類と最高解約返戻率によって損金算入割合が決まります。

定期保険・第三分野保険(2019年7月8日以後契約)

最高解約返戻率に応じた処理区分は次のとおりです。

  • 最高解約返戻率50%以下:全額損金
  • 最高解約返戻率50%超70%以下:保険料の40%を資産計上、60%を損金
  • 最高解約返戻率70%超85%以下:保険料の60%を資産計上、40%を損金
  • 最高解約返戻率85%超:保険期間の当初一定期間は保険料の「最高解約返戻率×90%」相当額を資産計上

終身保険・養老保険

  • 終身保険:保険料の全額を資産計上(損金算入不可)
  • 養老保険(ハーフタックスプラン):死亡保険金受取人が遺族、満期保険金受取人が法人の場合、保険料の1/2を損金(福利厚生費)、1/2を資産計上

ポイント:創業期に「節税目的」で高額な生命保険に加入するケースが見られますが、最高解約返戻率が高い保険ほど損金算入割合は低くなります。手元資金が限られるスタートアップでは、保険の目的(保障なのか貯蓄なのか)を明確にしたうえで加入を検討しましょう。

仕訳例:定期保険(最高解約返戻率60%)月額50,000円の場合

  • (借方)定期保険料(損金) 30,000円 /(貸方)普通預金 50,000円
  • (借方)前払保険料(資産) 20,000円

※40%を資産計上、60%を損金算入

05「払いすぎ」「計上漏れ」を防ぐ5つのチェックポイント

保険の見直しや決算前に、以下の項目を確認しましょう。

  1. 保険証券の契約形態を確認する——契約者・被保険者・受取人の組み合わせで経理処理が変わります。
  2. 事業使用割合を毎年見直す——自宅兼事務所の面積比や車両の走行距離比は変動する可能性があります。合理的な根拠を記録しておきましょう。
  3. 長期契約の期間按分を忘れない——複数年一括払いの損害保険料は、前払費用として資産計上すべき部分がないか確認してください。
  4. 生命保険の最高解約返戻率を把握する——保険会社から届く設計書で返戻率を確認し、損金算入割合を正しく適用しましょう。
  5. 個人事業主の生命保険料控除を申告し忘れない——必要経費にはなりませんが、所得控除は確実に受けましょう。年間保険料8万円超で各区分最大4万円の控除が受けられます。

06法人成りのタイミングで保険契約も見直す

個人事業主から法人成りする際は、保険契約の見直しが重要です。個人契約のままでは経費にできなかった生命保険を、法人契約に切り替えることで損金算入できるようになるケースがあります。一方、法人契約にすると保険料が役員報酬とみなされ給与課税されるリスクもあるため、契約形態(契約者・被保険者・受取人)の設計は慎重に行いましょう。

また、損害保険についても名義変更や契約者の切り替え手続きが必要です。法人成り前後の保険料の帰属時期を正確に区分し、二重計上や計上漏れを防いでください。

この記事のまとめ
  • 損害保険料は事業関連部分を経費にしやすいが、プライベート兼用の場合は按分が必要。長期契約は期間按分も忘れずに。
  • 個人事業主の生命保険料は必要経費にならず、生命保険料控除(最大12万円)での所得控除のみ。
  • 法人の生命保険料は最高解約返戻率によって損金算入割合が異なる。返戻率が高いほど資産計上割合が大きくなる。
  • 法人成りのタイミングで保険契約を見直すことで、経費計上の幅が広がる可能性がある。
  • 保険証券の契約形態・按分割合・返戻率の3つを定期的に確認し、「払いすぎ」「計上漏れ」を防ぐ。