「お盆休みの間もオフィスの家賃は発生しているけれど、これは経費にしていいの?」「夏季休業中にオンライン研修を受けたけど、事業経費として認められる?」──創業間もないスタートアップや個人事業主の方から、夏場になるとこうしたご相談が増えてきます。稼働していない期間に発生する固定費や、休業中のスキルアップ費用は、正しく処理しないと税務調査で指摘されるリスクがあります。本記事では、2026年の夏を迎える前に押さえておきたい経費計上の可否と按分ルールを整理します。
01夏季休業中でもオフィス家賃・光熱費は全額経費になるのか
オフィス家賃は「休業中も全額」が原則
事業用として賃貸契約を結んでいるオフィスや事務所の家賃は、夏季休業中であっても全額が必要経費(法人の場合は損金)として計上できます。家賃は契約に基づく固定費であり、実際に稼働しているかどうかにかかわらず、事業を維持するために不可欠な支出だからです。
たとえば月額家賃10万円のオフィスで8月に10日間の夏季休業を取った場合でも、10万円全額を地代家賃として処理して問題ありません。日割りで按分する必要はなく、「事業のために借りている」という事実があれば足ります。
光熱費・水道代はどうなる?
電気代や水道代についても、事業専用のオフィスであれば基本料金を含め全額が経費です。ただし、自宅兼事務所の場合は話が変わります。事業使用割合に基づく按分が必要となり、夏季休業中は事業使用の実態が薄くなるため、通常月と同じ割合で按分してよいか慎重な判断が求められます。
ポイント:自宅兼事務所の場合、年間を通じた合理的な按分割合(例:使用面積比や使用時間比)をあらかじめ決めておけば、月ごとに細かく変動させる必要はありません。ただし、税務調査では「休業期間中に本当に事業利用があったか」を確認されることがあるため、業務日報やPCのログイン記録を残しておくと安心です。
02リモート勤務中の通信費・インターネット代の按分ルール
個人事業主の通信費按分の基本
創業期は自宅でリモートワークをしながら事業を進めるケースが多いでしょう。自宅のインターネット回線やスマートフォンの通信費は、事業使用分のみが必要経費として認められます。
按分方法としては、以下の2つが一般的です。
- 使用時間比:1日のうち業務に使用した時間の割合で按分する方法。たとえば1日8時間業務利用、16時間プライベートなら業務割合は約50%
- 使用日数比:月間の稼働日数で按分する方法。月30日のうち稼働日が22日なら約73%
夏季休業中はリモートワークの稼働日数が減るため、使用日数比で計算している場合は、その月だけ按分割合が下がることになります。年間で一定の按分割合を採用している場合は、月単位で変動させなくても合理的であれば認められますが、実態と大きく乖離しないよう注意が必要です。
法人が従業員に支給する在宅勤務手当
小規模法人で在宅勤務手当を支給している場合、国税庁が公表している「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」に基づき、実費精算方式であれば給与課税されません。一方、一律定額で支給する場合は給与として源泉徴収が必要になります。夏季休業で在宅勤務日数が減る月も手当額を変えないのであれば、定額支給とみなされるリスクが高まるため、日数に連動させる仕組みを整えておくとよいでしょう。
03夏季休業中の研修費・セミナー受講料は経費になるか
経費計上の判断基準は「事業との関連性」
経営者自身がお盆休み期間を利用してオンライン研修やセミナーを受講するケースも増えています。研修費が経費として認められるかどうかの判断基準は、「現在の事業に直接関連するスキルアップかどうか」です。
具体的に経費として認められやすいもの、認められにくいものを整理します。
- 認められやすい:IT企業の経営者がプログラミング講座を受講、飲食店オーナーが食品衛生の最新研修を受講、税務・会計に関するセミナー受講
- 認められにくい:趣味の延長と判断される語学留学(事業上の必要性が不明確な場合)、資格取得が個人の資産形成とみなされるMBA取得費用(業務関連性の立証が困難な場合)
個人事業主と法人で異なる取扱い
法人の場合、役員や従業員の研修費用は業務遂行上必要であれば損金算入が認められます。一方、個人事業主の場合は所得税法上の「家事関連費」との線引きがより厳格です。事業との直接的な関連性を証明するために、以下の記録を残しておきましょう。
- 研修のカリキュラム・内容がわかるパンフレットやWebページの保存
- 受講の目的と事業への活用計画を記したメモ
- 領収書・請求書に加え、受講修了証や成績証明書
注意:研修と合わせて観光を行った場合、旅費・宿泊費のうち観光部分は経費として認められません。研修日程と観光日程を明確に区別し、按分の根拠を書面で残しておくことが重要です。税務調査では旅程表の提出を求められることがあります。
04税務調査で指摘されないための記録の残し方
「稼働していない期間の固定費」こそ記録が重要
創業期の税務調査で指摘を受けやすいのは、「その支出が本当に事業のためのものか」という点です。特に夏季休業中のように事業活動が停滞する期間の経費は、プライベートとの区別が曖昧になりやすく、調査官の目が向きやすいポイントです。
以下の記録を日頃から整備しておくことをおすすめします。
- 業務日報・作業ログ:休業期間中でもメール対応や経理作業など業務を行った場合は、日時と内容を記録
- 按分計算の根拠資料:通信費や光熱費の按分に使用した計算式・基礎データをExcelなどで保存
- 夏季休業の社内通知:法人の場合、休業期間を明示した社内通知や取引先への案内文を保存しておくと、休業期間の特定に役立つ
- 研修関連の一式資料:前述の通り、カリキュラム・受講証明・活用計画をセットで保管
帳簿の摘要欄を活用する
会計ソフトで仕訳を入力する際、摘要欄に「夏季休業期間中のオフィス維持費」「8月分通信費(按分率50%適用)」など、経費の性質や按分の根拠を簡潔に記載しておくだけでも、税務調査時の説明がスムーズになります。創業期は取引量が少ないからこそ、一件一件の仕訳に丁寧な説明を付けることが信頼性の向上につながります。
05創業期に見落としがちな夏の経費チェックリスト
最後に、2026年の夏季休業に向けて確認しておきたい経費項目をまとめます。
- オフィス家賃(事業専用なら全額OK、自宅兼事務所は面積比で按分)
- 光熱費・水道代(事業専用なら全額OK、兼用なら使用実態に基づき按分)
- 通信費・インターネット回線(使用時間比または使用日数比で按分)
- セキュリティサービス・警備費用(事業用物件にかかるものは全額経費)
- リース料・サブスクリプション費用(事業用ソフトウェア等は休業中も全額経費)
- 研修費・セミナー受講料(事業関連性を証明できれば経費計上可能)
- 書籍・教材購入費(事業に関連するものは経費、汎用的な教養書は要注意)
- 事業専用オフィスの家賃・光熱費は夏季休業中も全額経費計上が可能。自宅兼事務所の場合は合理的な按分が必要
- リモートワークの通信費は使用時間比・使用日数比などで按分し、休業による稼働日数の減少も考慮する
- 研修費は事業との関連性が認められれば経費計上可能。カリキュラムや受講証明を必ず保管する
- 税務調査対策として、業務日報・按分計算の根拠資料・帳簿の摘要欄への記載を日頃から徹底する
- 「稼働していない期間だから経費にならない」は誤解。事業維持に必要な固定費は正しく計上し、記録で裏付ける
