「年末調整って12月にまとめてやればいいんでしょ?」──従業員数名の創業期にありがちなこの考え方が、12月の修羅場を生む最大の原因です。保険料控除証明書が届かない、中途入社者の前職源泉徴収票が見つからない、扶養控除等申告書の記載内容が古いまま……。少人数の会社ほど経理担当は社長自身というケースも多く、作業が属人化して抜け漏れが起きやすくなります。本記事では、2026年10月から12月までの3か月間を月次タイムラインで区切り、年末調整をスムーズに終えるためのチェックリストを提供します。

01なぜ「10月スタート」が重要なのか

年末調整の法定期限は、翌年1月31日までに法定調書を提出することです。しかし実務上は12月最終給与(または1月給与)で精算を行うため、計算の完了は12月下旬がデッドラインになります。

従業員5人以下の事業所では、経理専任者がいないことがほとんどです。12月は本業の繁忙期と重なりやすく、年末調整の書類回収と計算を同時並行で進めるのは現実的ではありません。だからこそ、10月から段階的に準備を始めることで、12月の作業量を大幅に減らせます。

02【10月】書類回収と情報更新の月

扶養控除等(異動)申告書の再回収・更新確認

令和8年分の扶養控除等(異動)申告書は、年初に提出を受けているはずです。しかし、この10か月の間に以下のような変動が生じているケースは珍しくありません。

  • 結婚・離婚による配偶者の有無の変更
  • 子の出生や扶養親族のアルバイト収入増加による扶養要件の変動
  • 従業員本人の住所変更
  • 障害者控除・寡婦控除等の適用要件の変化

10月の給与支給日までに、全従業員へ申告書の記載内容を再確認してもらうよう依頼しましょう。人数が少ないからこそ「口頭で聞けばいい」と思いがちですが、書面またはデータでの回収を徹底することで、後からのトラブルを防げます。

中途入社者の前職源泉徴収票の回収

2026年中に中途入社した従業員がいる場合、前職の源泉徴収票がなければ年末調整はできません。回収は早いほど良く、10月中に手元にない場合は本人に催促するとともに、前職の会社への問い合わせも検討してください。

退職後に廃業した会社や連絡が取れない会社からの取得が困難なケースもあります。その場合、従業員本人が確定申告で対応する必要があるため、早期に状況を把握しておくことが重要です。

ポイント:前職の源泉徴収票は「退職後1か月以内」に交付する義務が前職の会社にあります(所得税法第226条)。届いていない場合は、本人から前職の会社に交付を請求するよう伝えましょう。それでも届かない場合は、税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出する方法もあります。

月次の源泉徴収額の確認

1月から9月までの給与支払額と源泉徴収税額の累計を一覧表にまとめましょう。この時点で以下の項目をチェックします。

  1. 毎月の源泉徴収税額が「源泉徴収税額表」(月額表・甲欄または乙欄)に基づいて正しく計算されているか
  2. 甲欄適用者(扶養控除等申告書の提出者)と乙欄適用者の区分に誤りがないか
  3. 賞与の源泉徴収税額が「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に基づいているか

この段階で誤りを発見できれば、年末調整での精算時に想定外の追徴や還付が発生するリスクを減らせます。

03【11月】控除証明書の回収と電子データ対応

保険料控除証明書の回収開始

生命保険料控除証明書や地震保険料控除証明書は、多くの保険会社が10月中旬から11月上旬にかけて発送します。従業員には11月中旬を目安に提出してもらうよう、10月末までにアナウンスしておきましょう。

近年は、マイナポータル連携による電子データでの取得も普及しています。電子データであれば紛失のリスクがなく、会計ソフトへの取り込みも効率的です。従業員にマイナポータルでの電子的控除証明書取得を案内しておくと、回収漏れを防ぎやすくなります。

住宅ローン控除の適用者への確認

住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)を年末調整で適用する従業員がいる場合、以下の2点が必要です。

  • 税務署から交付された「住宅借入金等特別控除申告書」(初年度に確定申告を行った翌年以降分)
  • 金融機関からの「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」(多くは10月〜11月発行)

特に年末残高等証明書は10月下旬以降の発行となることが多いため、11月中の回収を目標に設定します。

令和9年分の扶養控除等申告書の準備

年末調整と同時に、翌年(令和9年分)の扶養控除等申告書を回収する必要があります。11月中に用紙を準備し、12月の年末調整書類と一緒に配布できるようにしておきましょう。

04【12月】計算・精算・納付の月

12月上旬:最終書類チェックと年調計算

12月の最終給与支給日に間に合うよう、以下の作業を進めます。

  1. 全従業員分の控除証明書・申告書が揃っているかの最終確認
  2. 年間の給与総額と社会保険料控除額の確定
  3. 各種控除額(基礎控除、配偶者控除、扶養控除、保険料控除、住宅ローン控除等)の計算
  4. 年税額の算出と、毎月の源泉徴収税額との差額精算

従業員5人以下であれば、クラウド型の給与計算ソフトを使えば1〜2時間程度で計算は完了します。ただし、入力データに誤りがあれば結果も狂いますので、10月・11月に確認した情報が反映されているかを丁寧に見直してください。

注意:納期の特例(従業員10人未満の事業所が届出により源泉所得税の納付を年2回にまとめる制度)を適用している場合、7月〜12月分の源泉所得税の納付期限は翌年1月20日です。年末調整による過不足税額の精算結果を反映した金額で納付する必要があるため、年末調整の計算を1月上旬までに確実に終わらせる段取りが求められます。

12月下旬:源泉徴収票の作成と交付

年末調整が完了したら、各従業員に源泉徴収票を交付します。法定の交付期限は翌年1月31日ですが、従業員が確定申告(医療費控除やふるさと納税等)を予定している場合は、早めの交付が喜ばれます。

05少人数事業所向け・月次チェックリスト

以下のチェックリストを印刷またはスプレッドシートで管理し、各月末に確認してください。

10月チェック項目

  • 扶養控除等(異動)申告書の記載内容更新を全員に依頼したか
  • 中途入社者の前職源泉徴収票を回収済みか(未回収者リストを作成)
  • 1月〜9月の源泉徴収税額の累計を一覧化したか
  • 甲欄・乙欄の適用区分に誤りがないか確認したか

11月チェック項目

  • 保険料控除証明書の提出を従業員に依頼したか
  • 電子的控除証明書の取得方法を案内したか
  • 住宅ローン控除対象者の書類を確認したか
  • 令和9年分の扶養控除等申告書の用紙を準備したか

12月チェック項目

  • 全員分の申告書・証明書が揃ったか(未提出者への最終催促)
  • 年間給与総額と社会保険料控除額を確定したか
  • 年税額を計算し、過不足額を最終給与で精算したか
  • 源泉徴収票を作成・交付したか
  • 令和9年分の扶養控除等申告書を回収したか
  • 法定調書・給与支払報告書の提出準備に着手したか
この記事のまとめ
  • 年末調整は12月だけの作業ではなく、10月からの3か月で段階的に準備することで、少人数の事業所でも慌てずに対応できる
  • 10月は扶養控除等申告書の再確認・前職源泉徴収票の回収・月次源泉徴収額の検証を行う
  • 11月は保険料控除証明書や住宅ローン控除関連書類の回収、翌年分の扶養控除等申告書の準備を行う
  • 12月は最終的な年税額の計算と精算を行い、源泉徴収票の交付・法定調書等の提出準備に移る
  • 属人化しやすい少人数事業所こそ、月次チェックリストで作業を標準化し、抜け漏れを防ぐことが重要