「届出を出していないだけで、税額が数十万円変わることがある」と聞いたら驚くでしょうか。実は、創業1〜2期目の法人や個人事業主の多くが、届出書を提出しないまま”デフォルト適用”の税務処理を受け、結果的に損をしているケースが少なくありません。特に9月末は、棚卸資産の評価方法・減価償却方法・消費税の課税方式選択という3つの届出期限が集中する時期です。本記事では、2026年9月末を目前に控えた今、それぞれの届出の判断基準と提出手順をわかりやすく解説します。

01なぜ「9月末」が届出の山場になるのか

多くの法人は3月決算を採用しています。3月決算法人にとって、翌事業年度(2027年4月〜2028年3月)に適用したい届出の提出期限が「2026年9月30日」に集中するケースがあります。また、12月決算の個人事業主も、翌年分に関する届出を年内に提出する必要があり、準備期間を考えると9月中に方針を固めておくことが重要です。

届出を出さなかった場合、税法が定める「法定の評価方法」や「法定の償却方法」が自動的に適用されます。これがいわゆるデフォルト適用です。デフォルトが不利な方法であっても、届出を出さない限り変更できません。創業期に税理士を付けずに設立した法人は、こうした届出が未提出のまま2期目・3期目に突入しているケースが多く見られます。

02届出その1:棚卸資産の評価方法の届出

デフォルトは「最終仕入原価法による原価法」

法人税法施行令第28条の2では、届出がない場合の棚卸資産の評価方法を「最終仕入原価法による原価法」と定めています。仕入価格が期末に向けて上昇傾向にある業種では、最終仕入原価法は期末棚卸高を高く評価しやすく、結果的に売上原価が小さくなり、利益が大きく計算されてしまいます。

選択できる評価方法と判断基準

  • 個別法:高額品を少量扱う業種(不動産、宝飾品など)に適する
  • 先入先出法:仕入価格が変動しやすい業種で、実態に近い原価配分が可能
  • 総平均法・移動平均法:仕入頻度が高く、価格変動を平準化したい場合に有効
  • 低価法:原価法と時価を比較し低い方を採用。在庫の値下がりリスクが高い業種に向く

提出先と期限

法人の場合、「棚卸資産の評価方法の届出書」を設立第1期の確定申告書の提出期限までに所轄税務署へ提出します。変更する場合は「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに提出する必要があります。3月決算法人であれば、2027年4月開始の事業年度に変更を適用したい場合、2027年3月31日が期限です。ただし、承認までに時間がかかるため、9月中に方針を固めて早めに申請することを強くおすすめします。

ポイント:棚卸資産の評価方法の「変更承認申請」は、税務署の承認が必要な手続きです。届出書(設立時)とは異なり、提出すれば自動的に認められるわけではありません。3カ月以内に承認・却下の通知がなければ承認とみなされますが、余裕をもって準備しましょう。

03届出その2:減価償却方法の届出

デフォルトは「定率法」(建物等を除く)

法人税法上、届出がない場合の減価償却方法は、建物・建物附属設備・構築物を除き「定率法」がデフォルトです。定率法は取得初期に多くの償却費を計上できるため、利益が出ている法人には有利に見えます。しかし、創業期で赤字が続いている場合、定率法で大きな償却費を計上しても課税所得を減らす効果が薄く、将来黒字化した後に使える償却費が少なくなるという逆効果が生じます。

定額法を選ぶべきケースとは

  • 創業1〜2期目は赤字だが、3期目以降に黒字化を見込んでいる
  • 毎期安定した利益を計上しており、経費の平準化を図りたい
  • 金融機関への融資申込みを予定しており、利益の急激な変動を避けたい

例えば、取得価額600万円・耐用年数6年の機械装置の場合、定率法では初年度に約200万円の償却費が発生しますが、定額法なら毎年100万円ずつ均等に計上されます。赤字期に200万円を計上しても節税効果はゼロですが、黒字期に100万円ずつ使えれば6年間にわたって課税所得を圧縮できます。

提出先と期限

「減価償却資産の償却方法の届出書」は、設立第1期の確定申告書の提出期限までに提出します。変更の場合は「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに提出します。こちらも承認制のため、早めの行動が肝心です。

04届出その3:消費税の課税方式選択届出

簡易課税 or 本則課税、インボイス制度下での判断

2023年10月に開始したインボイス制度の影響で、免税事業者からあえて課税事業者を選択したスタートアップも多いでしょう。課税事業者である以上、消費税の計算方式を「本則課税」と「簡易課税」のどちらにするかは大きな分岐点です。

簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択でき、仕入税額控除を「みなし仕入率」で計算します。実際の仕入や経費が少ない業種(コンサルティング、IT開発など)では、本則課税よりも簡易課税の方が納税額を抑えられるケースが多くあります。

提出期限に要注意

「消費税簡易課税制度選択届出書」は、適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに提出が必要です。3月決算法人が2027年4月〜2028年3月の事業年度から簡易課税を適用したい場合、2027年3月31日が提出期限となります。ただし、届出書の作成には売上構成の分析やみなし仕入率の確認が不可欠ですので、2026年9月中に検討を始めることが現実的なスケジュールです。

注意:簡易課税制度を選択すると、原則として2年間は本則課税に戻せません。また、調整対象固定資産(税抜100万円以上)の取得を予定している場合、仕入税額控除を受けられなくなるリスクがあります。設備投資の計画を必ず確認してから届出書を提出してください。

053大届出の期限・提出先一覧

以下に、3月決算法人を例とした主要な届出の期限と提出先をまとめます。

  • 棚卸資産の評価方法の届出書:設立第1期の確定申告書提出期限(設立初年度のみ)/変更承認申請は変更事業年度開始の日の前日まで/提出先:所轄税務署
  • 減価償却資産の償却方法の届出書:設立第1期の確定申告書提出期限(設立初年度のみ)/変更承認申請は変更事業年度開始の日の前日まで/提出先:所轄税務署
  • 消費税簡易課税制度選択届出書:適用を受けようとする課税期間の開始日の前日まで/提出先:所轄税務署

個人事業主の場合、所得税における棚卸資産の評価方法や減価償却方法の届出期限は、その年分の確定申告書の提出期限(翌年3月15日)までです。消費税の届出は法人と同様、適用を受けようとする課税期間の開始日の前日(個人の場合は前年12月31日)までとなります。

06デフォルト適用で損をする典型パターン

パターン1:赤字期に定率法で償却費を使い切る

先述のとおり、創業期の赤字が続く中で定率法を適用すると、黒字化後に残る償却費が少なくなります。売上が安定してきた3期目・4期目に「もっと経費にできるはずだったのに」と気づくケースは珍しくありません。

パターン2:仕入が少ないのに本則課税を選択

サービス業やコンサルティング業で、課税仕入がほとんど発生しないにもかかわらず本則課税のままでいると、納税額が膨らみます。簡易課税のみなし仕入率(第五種事業:50%)を使えば、納税額を大幅に圧縮できた可能性があります。例えば、年間課税売上高2,000万円のコンサルティング会社の場合、本則課税で仕入税額控除が30万円しかなければ消費税の納税額は約170万円ですが、簡易課税なら約100万円で済み、差額は約70万円にもなります。

パターン3:在庫評価方法が実態に合っていない

仕入単価が大きく変動する商品を扱いながら最終仕入原価法を適用していると、期末の仕入単価だけで在庫全体が評価されるため、利益が実態とかけ離れた金額になることがあります。

07今すぐ確認すべき3つのアクション

  1. 過去の届出状況を確認する:設立時に税務署へ提出した届出書の控えを確認しましょう。控えが見当たらない場合は、所轄税務署に問い合わせれば届出の提出状況を確認できます。
  2. 現在の処理方法が最適か検証する:棚卸資産の評価方法、減価償却方法、消費税の課税方式のそれぞれについて、現在の適用方法が自社の業態・利益構造に合っているかを見直しましょう。
  3. 変更が必要なら9月中に方針を決定する:変更承認申請や届出書の作成には、過去の決算データや将来の事業計画の確認が必要です。2026年9月中に方針を固め、遅くとも事業年度開始の前日までに提出を完了させましょう。
この記事のまとめ
  • 9月末は棚卸資産の評価方法・減価償却方法・消費税の課税方式選択の届出準備を始める重要な時期
  • 届出を出さないと税法上の「デフォルト」が自動適用され、業態によっては不利な税額計算になる
  • 創業1〜2期目で赤字が続く法人は、定率法のデフォルト適用で将来の償却費を先食いしている可能性がある
  • 仕入の少ないサービス業では、簡易課税を選択するだけで年間数十万円の消費税を節約できるケースがある
  • まずは過去の届出状況を確認し、変更が必要なら2026年9月中に方針を固めて早めに手続きを進めることが大切