2026年10月の社会保険適用拡大がいよいよ施行されました。「届出はちゃんと出せているだろうか」「給与計算の設定は合っているのか」「パート・アルバイトの従業員にどう説明すればいいのか」——創業間もない小規模法人やスタートアップの経営者の方から、こうした不安の声が当事務所にも数多く寄せられています。本記事では、施行直後のこの時期に実際に発生しやすい実務トラブルを5つに分類し、それぞれの原因と即時対処法を具体的に解説します。

01そもそも2026年10月の社会保険適用拡大とは

2024年10月に従業員51人以上の企業へ拡大された短時間労働者への社会保険適用が、2026年10月からはさらに対象企業の範囲が広がり、従業員数の要件が撤廃される方向で制度改正が進められてきました。これにより、小規模法人であっても、一定の要件(週の所定労働時間20時間以上、月額賃金8.8万円以上、学生でないこと等)を満たすパート・アルバイト従業員を社会保険に加入させる義務が生じます。

創業期の企業にとっては、これまで「うちは小さい会社だから関係ない」と考えていたケースが多く、制度の理解不足がそのままトラブルに直結しています。

ポイント:2026年10月の改正では、企業規模要件が撤廃される見込みです。従業員数にかかわらず、要件を満たす短時間労働者がいれば社会保険の加入手続きが必要となります。自社が「対象外」と思い込まず、従業員一人ひとりの労働条件を改めて確認してください。

02トラブル1:届出漏れ・届出遅延

よくある原因

  • 対象となる従業員の洗い出しが不完全で、加入対象者を見落としている
  • 「被保険者資格取得届」の提出期限(事実発生から5日以内)を認識していない
  • 創業期で社労士や顧問税理士との連携体制が未整備のまま施行日を迎えた

即時対処法

  1. 全従業員の雇用契約書・労働条件通知書を引き出し、週の所定労働時間と月額賃金を一覧表にまとめる
  2. 加入対象者を特定したら、管轄の年金事務所へ速やかに「被保険者資格取得届」を提出する
  3. 届出が遅延した場合でも、資格取得日は2026年10月1日に遡及するため、届出書には正しい取得年月日を記載する

03トラブル2:給与計算ソフトの設定エラー

よくある原因

  • 給与計算ソフトの社会保険料率・等級テーブルが最新版に更新されていない
  • 新たに社会保険加入となった従業員のステータスが「対象外」のままになっている
  • 標準報酬月額の設定を誤り、控除額が過大または過少になっている

即時対処法

  1. 使用中の給与計算ソフトのバージョンを確認し、2026年10月対応のアップデートが適用済みか確認する
  2. 新規加入者の「社会保険区分」を手動で切り替え、標準報酬月額を正しく入力する
  3. 10月分の給与計算を確定する前に、テスト計算を行い、控除額が健康保険料率(協会けんぽの場合、都道府県ごとに約10%前後)と厚生年金保険料率(18.3%)の折半額と一致するか検算する

04トラブル3:従業員への説明不足による混乱

よくある原因

  • 「手取りが減る」ことへの不満が事前に解消されないまま施行日を迎えた
  • 配偶者の扶養から外れることへの不安に対して、十分な情報提供がなされていない
  • 口頭説明のみで書面による通知が行われていない

即時対処法

  1. 対象従業員に対して、書面またはメールで「社会保険加入のお知らせ」を配布する
  2. 手取り額の変動シミュレーションを個別に作成し、将来受け取れる年金額の増加や傷病手当金・出産手当金の受給権が得られるメリットも併せて説明する
  3. 配偶者の勤務先への「被扶養者異動届」の提出が必要になる場合があることを案内する

説明文のテンプレートとしては、以下の要素を含めると効果的です。

  • 制度改正の概要(なぜ加入が必要になったのか)
  • 対象者の要件(自分が該当する理由)
  • 手取り額の変動目安(月額・年額)
  • 社会保険加入によるメリット(厚生年金・健康保険の給付内容)
  • 配偶者の扶養に関する手続き案内

05トラブル4:労働時間の調整要望への対応ミス

よくある原因

  • 従業員から「社会保険に入りたくないので労働時間を減らしてほしい」と要望があり、安易に応じてしまう
  • シフト調整の結果、人手不足が深刻化し、事業運営に支障をきたす
  • 形式的に労働時間を短縮しても、実態として週20時間以上勤務している場合、加入義務は免れない

即時対処法

  1. 労働時間の調整を行う場合は、雇用契約書を書面で変更し、実態とも一致させる
  2. 「契約上は週19時間だが実際は週22時間働いている」といった乖離がないよう、勤怠管理を徹底する
  3. 人員計画を見直し、必要であれば新規採用や業務効率化で対応する方針を立てる

注意:社会保険の加入逃れを目的とした意図的な労働時間の調整は、年金事務所の調査で指摘されるリスクがあります。実態と契約内容が乖離している場合、遡及して保険料を徴収される可能性もあるため、書面と実態を必ず一致させてください。

06トラブル5:社会保険料の資金繰りへの影響

よくある原因

  • 新たに発生する会社負担分の社会保険料を資金計画に織り込んでいなかった
  • パート・アルバイトが5名加入した場合、月額で約15万~25万円(会社負担分)のコスト増となるケースもある
  • 創業期で資金に余裕がなく、納付遅延が発生する

即時対処法

  1. 加入対象者全員分の会社負担額を試算し、月次・年次の資金繰り表に反映させる
  2. キャッシュフローが厳しい場合は、年金事務所へ納付猶予の相談を早めに行う
  3. キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)など、活用可能な助成金制度がないか確認する

07施行直後の緊急チェックリスト(時系列整理)

以下のチェックリストを使って、2026年10月中に対応すべき事項を時系列で確認してください。

  1. 即日対応:全従業員の労働条件を一覧化し、加入対象者を特定する
  2. 3日以内:届出漏れがないか確認し、未提出の「被保険者資格取得届」を年金事務所へ提出する
  3. 1週間以内:給与計算ソフトの設定を確認・修正し、テスト計算を実施する
  4. 2週間以内:対象従業員へ書面で加入通知と手取り変動の説明を行う
  5. 月末まで:資金繰り表を更新し、社会保険料の会社負担増を反映させる
  6. 月末まで:助成金の活用可否を確認し、申請準備を始める

一つずつ確実に潰していくことで、施行直後の混乱を最小限に抑えることができます。不明点があれば、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。

この記事のまとめ
  • 2026年10月の社会保険適用拡大により、企業規模要件が撤廃され、小規模法人も短時間労働者の社会保険加入義務を負う
  • 施行直後に多いトラブルは「届出漏れ」「給与計算エラー」「従業員説明不足」「労働時間調整の対応ミス」「資金繰りへの影響」の5つ
  • 届出の提出期限は資格取得日から5日以内。遅れても遡及適用されるため、早急に手続きを進める
  • 給与計算ソフトの更新確認とテスト計算、従業員への書面通知は10月中に必ず完了させる
  • 社会保険料の会社負担増を資金繰り表に反映し、助成金の活用も検討する