「10月から最低賃金が上がるらしいけれど、うちのパートさんの時給は大丈夫だろうか」「月給制の社員も確認が必要なの?」——毎年この時期になると、創業間もない経営者の方からこうしたご相談が急増します。最低賃金の改定は毎年10月1日前後に発効し、対応が遅れると労働基準法違反のリスクに直結します。本記事では、2026年10月の改定に向けて「あと1週間で何をすればよいか」を時系列で整理しました。

01まず押さえたい——最低賃金改定の基本ルール

最低賃金は「都道府県別」に決まる

最低賃金には、すべての労働者に適用される「地域別最低賃金」と、特定の産業に適用される「特定最低賃金」の2種類があります。創業期の事業者がまず確認すべきは地域別最低賃金です。事業所の所在する都道府県ごとに金額が異なるため、複数拠点がある場合はそれぞれの都道府県の額を確認する必要があります。

2026年度の改定額を確認する方法

例年、7月下旬から8月上旬に中央最低賃金審議会が目安額を示し、各都道府県の地方最低賃金審議会が8月中に正式な改定額を答申します。2026年度も同様のスケジュールで進行しており、9月下旬の現時点では各都道府県の改定額が官報に公示済みです。確認先は次のとおりです。

  • 厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」ページ
  • 各都道府県労働局のウェブサイト
  • 事業所管轄のハローワークへの電話問い合わせ

2025年度の改定では全国加重平均が1,055円となり、過去最大の引上げ幅を記録しました。2026年度もさらなる引上げが見込まれており、前年よりも影響を受ける事業者が増える可能性があります。必ず自社の事業所所在地の確定額を確認してください。

ポイント:最低賃金の発効日は都道府県によって10月1日から数日ずれる場合があります。自社が所在する都道府県の正確な発効日を必ず確認しましょう。発効日以降に支払われる賃金(発効日以降の労働に対する賃金)から新しい最低賃金が適用されます。

02時給制・月給制それぞれの「最低賃金割れ」チェック方法

時給制の場合

時給制のパート・アルバイトは、支払っている時給額と改定後の最低賃金額を直接比較します。現在の時給が改定後の最低賃金を下回る場合は、最低賃金額以上に引き上げなければなりません。

月給制の場合

月給制の従業員も最低賃金の適用対象です。月給を時間単価に換算して比較します。計算式は次のとおりです。

時間単価 =(月給 − 除外する手当)÷ 1か月の平均所定労働時間

「除外する手当」には以下が含まれます。

  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当
  • 時間外・休日・深夜の割増賃金
  • 賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

たとえば、基本給17万円(除外手当を控除後)で月平均所定労働時間が170時間の場合、時間単価は1,000円です。改定後の最低賃金がこれを上回る場合は月給自体の引上げが必要になります。

03雇用契約書・労働条件通知書の変更手続き

最低賃金改定に伴い時給や月給を変更する場合は、雇用契約書(労働条件通知書)の変更が必要です。口頭だけの通知では後日トラブルになりかねません。以下の手順で対応しましょう。

  1. 対象者の洗い出し:全従業員の時間単価を算出し、改定後の最低賃金を下回る者をリストアップする
  2. 新しい賃金額の決定:最低賃金ちょうどではなく、数十円程度の余裕を持たせておくと翌年の改定時にも対応しやすくなる
  3. 変更通知書の作成・交付:変更後の時給(または月給)、適用開始日を明記した書面を従業員に交付し、署名をもらう
  4. 給与計算ソフトへの反映:10月支給分(または発効日以降の労働分)から新単価が適用されるよう設定を変更する

注意:最低賃金法第4条に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、最低賃金未満の労働契約はその部分が無効となり、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます(最低賃金法第4条第2項)。「知らなかった」は通用しませんので、10月1日までに必ず対応を完了させてください。

04社会保険への波及——随時改定(月変)の判定を忘れずに

標準報酬月額への影響

最低賃金の引上げに伴い基本給を増額すると、社会保険の標準報酬月額にも影響が出る場合があります。固定的賃金が変動し、変動月以降3か月間の報酬の平均が従前の標準報酬月額と比べて2等級以上の差が生じた場合は、「随時改定(月額変更届)」の届出が必要です。

随時改定の判定ステップ

  1. 10月に固定的賃金(時給・基本給)が変動した事実を記録する
  2. 10月・11月・12月の3か月間の報酬総額を集計する(各月とも支払基礎日数17日以上が必要)
  3. 3か月の平均額から新しい標準報酬月額を算出し、従前と2等級以上の差があるか確認する
  4. 該当する場合は「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」を速やかに届出する(届出期限の目安は変動月から4か月目)

パート・アルバイトなど短時間労働者の場合、支払基礎日数の要件が11日以上となるケースもありますので、自社の被保険者区分に応じて判定してください。

0510月1日までの「1週間タスクリスト」

2026年9月27日時点から逆算した、発効日までの実務スケジュールです。

  • 9月27日(本日):自社事業所所在地の改定額・発効日を確認する
  • 9月28日:全従業員の時間単価を算出し、最低賃金割れの有無を判定する
  • 9月29日:新しい賃金額を決定し、変更通知書のドラフトを作成する
  • 9月30日:対象従業員へ変更通知書を交付・署名回収する
  • 10月1日:給与計算ソフトの単価設定を更新し、反映を確認する
  • 10月以降:随時改定の判定に備え、10月~12月の報酬を正確に記録する

タスクが多く感じるかもしれませんが、従業員数が少ない創業期だからこそ、1週間あれば十分に対応できます。初年度にしっかり仕組みを作っておけば、来年以降は流れに沿って処理するだけです。

06創業期だからこそ押さえておきたい注意点

試用期間中の減額特例

最低賃金法には「減額の特例許可」制度がありますが、これは都道府県労働局長の許可を事前に受ける必要があり、手続きも煩雑です。創業期においては原則どおり最低賃金以上を支払う運用が現実的です。

業務委託との区分

「業務委託だから最低賃金は関係ない」と考えがちですが、実態として労働者性が認められる場合は最低賃金法が適用されます。指揮命令下で働いている方がいないか、契約形態だけでなく実態も見直しておきましょう。

助成金の活用

最低賃金の引上げに対応するために賃金を引き上げた中小企業には、「業務改善助成金」の活用が考えられます。設備投資等を伴う場合に助成を受けられる制度ですので、該当する可能性がある方は厚生労働省のページで要件をご確認ください。

この記事のまとめ
  • 最低賃金は都道府県別に決まり、2026年10月1日前後に発効する。自社事業所の所在地の改定額と発効日を必ず確認する
  • 時給制は直接比較、月給制は除外手当を控除して時間単価に換算し、最低賃金割れがないかチェックする
  • 賃金変更時は雇用契約書(労働条件通知書)の変更・交付を書面で行い、給与計算ソフトへの反映も同時に完了させる
  • 固定的賃金の変動により社会保険の随時改定(月額変更届)が必要になる場合があるため、10月~12月の報酬を正確に記録する
  • 最低賃金法違反には50万円以下の罰金規定がある。「知らなかった」では済まされないため、10月1日までに必ず対応を完了させること