「売掛金の回収が不安だけど、貸倒引当金ってどう計上すればいいの?」──創業1〜2年目の経営者にとって、年末の決算で初めて貸倒引当金に向き合う場面は少なくありません。12月決算法人や個人事業主の方は、まさにこの2026年末が最初の判断タイミングです。本記事では、個別評価と一括評価の使い分けから繰入限度額の計算手順、仕訳例までを一気に解説します。

01そもそも貸倒引当金とは?創業期にこそ知っておくべき理由

貸倒引当金とは、将来の貸倒れ(売掛金や貸付金の回収不能)に備えて、あらかじめ費用として見積計上する会計上の引当金です。決算書に適切に反映することで次の効果があります。

  • 利益を「回収リスク」込みで正しく表示でき、決算書の信頼性が向上する
  • 金融機関の融資審査で「リスク管理ができている会社」と評価されやすくなる
  • 税務上の損金算入が認められる範囲であれば、節税効果も得られる

特に創業期は取引先との実績が浅く、回収リスクを見落としがちです。最初の決算だからこそ、しっかり理解しておきましょう。

02個別評価と一括評価──どちらを使うかの判定フローチャート

貸倒引当金の繰入方法は大きく「個別評価」と「一括評価」の2種類です。以下のフローで判定します。

ステップ1:債権ごとに回収状況を確認する

期末時点で保有するすべての売掛金・受取手形・貸付金について、相手先ごとに回収状況を整理します。

ステップ2:「個別評価」に該当するか判定する

次のいずれかに該当する債権は、個別評価金銭債権として個別に引当金を計上します。

  1. 相手先が会社更生法・民事再生法の申立てなど法的整理手続の開始を受けている
  2. 相手先が債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがない
  3. 相手先について、更生計画の認可決定等により弁済猶予・棚上げが行われている
  4. 外国政府等の為替制限などで回収困難な海外債権

ステップ3:該当しなければ「一括評価」で計上する

上記に該当しない通常の売掛金等は、一括評価金銭債権としてまとめて引当金を計上します。青色申告者(法人・個人とも)であれば一括評価の繰入が認められます。

ポイント:個別評価に該当する債権は個別評価で引き当てた上で、残りの正常債権を一括評価の対象とします。両者は併用可能ですが、同一の債権を重複計上することはできません。

03一括評価の繰入限度額──青色申告者が使える法定繰入率

法人の場合(中小法人)

資本金1億円以下の中小法人は、法定繰入率を用いた簡便法が利用できます。業種別の法定繰入率は以下の通りです(租税特別措置法第57条の9関連)。

  • 卸売業・小売業(飲食店業含む):1.0%(10/1000)
  • 製造業:0.8%(8/1000)
  • 金融・保険業:0.3%(3/1000)
  • 割賦販売小売業等:1.3%(13/1000)
  • その他の事業:0.6%(6/1000)

計算式は次の通りです。

繰入限度額 =(期末一括評価金銭債権の合計額 − 実質的に債権と見られない金額)× 法定繰入率

個人事業主の場合(青色申告)

青色申告を行う個人事業主も一括評価の繰入が認められています。繰入率は年末の貸金残高の5.5%(55/1000)が上限です(所得税法第52条第2項)。

計算例(12月決算の小売業法人)

以下の条件で計算してみましょう。

  • 2026年12月末の売掛金残高:800万円
  • 個別評価対象の債権:なし
  • 業種:小売業(法定繰入率 10/1000)

繰入限度額 = 800万円 × 10/1000 = 8万円

仕訳は次のようになります。

(借方)貸倒引当金繰入額 80,000円 /(貸方)貸倒引当金 80,000円

04個別評価の繰入──債権の区分と証拠書類の整え方

繰入限度額の考え方

個別評価では、債権の区分ごとに繰入限度額が異なります。

  • 更生計画認可決定等で弁済猶予されている部分 → その弁済猶予額(取立て等見込額を除く)
  • 債務超過が相当期間継続し回収不能と認められる部分 → 取立て等見込額を控除した残額
  • 法的整理の申立てがあった場合 → 債権額から担保処分見込額等を控除した額の50%

用意すべき証拠書類

個別評価は税務調査で論点になりやすいため、以下の書類を整備しておくことが重要です。

  1. 取引先の法的整理の申立書の写しや官報公告のコピー
  2. 取引先の直近の決算書(債務超過を証明するもの)
  3. 内容証明郵便など催促・督促の記録
  4. 弁護士や管財人からの通知書

仕訳例(法的整理申立ての場合)

売掛金100万円のうち、担保なし、法的整理申立てにより50%を引き当てるケース:

(借方)貸倒引当金繰入額 500,000円 /(貸方)貸倒引当金 500,000円

注意:個別評価の貸倒引当金を損金算入するには、確定申告書に繰入額の計算に関する明細書(別表十一(一)等)を添付する必要があります。添付を忘れると損金として認められない場合があるため、申告書の作成時に必ず確認してください。

05翌期首の戻入処理と洗替法

貸倒引当金は「洗替法」が原則です。翌事業年度の期首に前期末計上分を全額戻し入れ、改めて当期末の残高に基づいて繰り入れます。

翌期首の仕訳:

(借方)貸倒引当金 80,000円 /(貸方)貸倒引当金戻入益 80,000円

この処理を忘れると引当金が二重計上になり、決算書の正確性を損なうので注意が必要です。

06融資審査での評価──引当金の「計上」が信頼につながる

「引当金を計上すると利益が減って融資に不利では?」と心配される経営者もいますが、実際は逆です。金融機関の審査担当者は、リスクを適切に開示している決算書を高く評価します。

  • 売掛金の回収リスクを織り込んだ「保守的な利益」は信頼性が高い
  • 決算書の注記に貸倒引当金の計上方針を明記すると、会計の透明性が伝わる
  • 創業期から適切な会計処理を行うことで、2期目以降の融資交渉がスムーズになる
この記事のまとめ
  • 貸倒引当金は将来の回収不能に備える費用計上であり、創業期の決算書の信頼性向上に直結する
  • 債権の回収状況を確認し、法的整理等に該当する債権は「個別評価」、それ以外は「一括評価」で繰り入れる
  • 一括評価の繰入率は、法人は業種別の法定繰入率(例:小売業10/1000)、個人事業主は55/1000が上限
  • 個別評価は証拠書類の整備と申告書への明細添付が不可欠
  • 翌期首に洗替処理(戻入)を行うことを忘れずに
  • 適切な引当金計上は融資審査でも好印象──リスク管理ができる経営者として評価される