「予算なんて大企業がやるものでしょ?」——創業して1〜2年目の経営者から、よくこの言葉を聞きます。日々の売上や資金繰りに追われるなか、来期の数字まで考える余裕がない。その気持ちはよく分かります。しかし、11月という時期は今期の着地がほぼ見え、来期の計画を同時に組み立てられる「年に一度の絶好のタイミング」です。本記事では、予算を作ったことがない方でも半日で完成させられる、月次予算のゼロベース設計手順をワークショップ形式で解説します。
01なぜ11月に「着地予測」と「来期予算」を同時にやるのか
2026年11月時点で、3月決算法人なら7か月分、12月決算法人なら10か月分の実績データが揃っています。個人事業主の場合も1〜10月の10か月分が確定しているはずです。
この時期に着地予測と来期予算を同時に行う理由は3つあります。
- 今期の実績という「事実」が十分に揃っている——感覚ではなくデータに基づいた計画が立てられます。
- 残り期間の打ち手がまだ間に合う——着地予測で赤字が見えれば、年内に経費の見直しや売上施策を実行する猶予があります。
- 来期の意思決定を前倒しできる——人を採用するか、設備投資するか、といった判断を来期が始まる前に確定できます。
ポイント:予算は「当てる」ためのものではありません。経営判断の基準線(ベースライン)を持つことが目的です。月次で実績と比較し、「なぜズレたのか」を考える習慣こそが、創業期の経営力を育てます。
02ワークショップの全体像——半日で完成させる4ステップ
以下の4ステップを順に進めれば、スプレッドシート1枚に今期着地予測と来期12か月分の月次予算が完成します。所要時間の目安は合計3〜4時間です。
- Step 1(30分):今期の月次試算表を横並びに整理する
- Step 2(60分):売上の季節変動パターンと変動費率・固定費を抽出する
- Step 3(30分):今期の着地(残り月の予測)を埋める
- Step 4(90分):来期12か月分の月次予算をゼロベースで設計する
03Step 1:今期の月次試算表を横並びに整理する
まずスプレッドシート(ExcelやGoogleスプレッドシート)を開き、列に月(4月〜3月、または1月〜12月)、行に勘定科目を配置します。最低限必要な行は次の通りです。
- 売上高
- 変動費(売上原価・外注費・仕入など売上に連動するもの)
- 粗利益(売上高 − 変動費)
- 固定費(家賃・人件費・通信費・保険料など毎月ほぼ一定のもの)
- 営業利益(粗利益 − 固定費)
会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生など)から月次推移表をCSVでエクスポートすれば、この作業は10分程度で終わります。
04Step 2:季節変動・変動費率・固定費を数字で把握する
季節変動指数を出す
実績がある月の売上平均を100として、各月の売上を指数化します。例えば、月平均売上が200万円で、8月の売上が140万円なら指数は70、12月が300万円なら指数は150です。この指数が来期予算の「季節カーブ」のベースになります。
変動費率を算出する
変動費合計 ÷ 売上高 で月ごとの変動費率を計算し、平均値を出します。創業期は月ごとのブレが大きいことが多いので、異常値(大きな一時仕入れなど)は除外して平均を取ってください。たとえば平均変動費率が35%であれば、来期の売上予測に0.35を掛けるだけで変動費の見積もりが出せます。
固定費の月額を確定する
家賃・役員報酬・社会保険料・リース料など毎月ほぼ同額の項目を合算し、「月額固定費」を確定します。来期に変更予定があれば(事務所移転、従業員採用など)、その増減額もメモしておきます。
05Step 3:今期の着地予測を埋める
実績がまだない残り月(12月決算なら11月・12月、3月決算なら11月〜3月)を予測で埋めます。
予測の精度を上げるコツは、「確定している数字」と「見込みの数字」を分けて入力することです。
- 確定:すでに契約済み・請求済みの売上、支払いが確定している経費
- 見込み:商談中の案件(受注確度を50%・80%などで加重平均する)
たとえば、11月に商談中の案件が3件あり、それぞれ受注確度80%×50万円、50%×100万円、30%×200万円なら、見込み売上は 40万円+50万円+60万円=150万円 と計算します。これを確定売上に加えれば、着地予測の精度はかなり高まります。
06Step 4:来期12か月の月次予算をゼロベースで設計する
売上予算の組み方
来期の年間売上目標を決めたら、Step 2で算出した季節変動指数を使って12か月に配分します。具体的な計算式は以下の通りです。
各月の売上予算 = 年間売上目標 × (その月の季節変動指数 ÷ 12か月分の指数合計)
たとえば年間目標を3,000万円、季節変動指数の合計が1,200(月平均100×12か月)の場合、指数150の月は 3,000万円 ×(150÷1,200)= 375万円 という配分になります。
経費予算の組み方
- 変動費:各月の売上予算 × 変動費率(Step 2で算出した平均値)
- 固定費:今期の月額固定費 + 来期の増減予定額
利益の確認
売上 − 変動費 − 固定費 = 月次営業利益 を12か月分並べ、赤字月がないか、年間利益が目標に届いているかをチェックします。赤字が続く月があるなら、売上目標の上方修正か固定費の削減か、どちらで対応するかを「予算の段階で」意思決定しておくことが重要です。
注意:創業1期目で実績データが不十分な場合、同業種の平均的な変動費率や季節変動を参考にすることになります。中小企業庁「小規模企業白書」やTKC経営指標(BAST)などの公的統計が参考になりますが、あくまで「たたき台」と割り切り、実績が出るごとに毎月修正していく運用が大切です。
07予算は「作って終わり」にしない——月次レビューの仕組み
せっかく作った予算も、引き出しにしまったまま来期末を迎えてしまっては意味がありません。以下のサイクルを回すことで、予算は「生きた経営ツール」になります。
- 毎月10日までに前月の試算表を確定させる
- 予算と実績の差異(予実差異)を売上・変動費・固定費ごとに確認する
- 差異が売上の5%以上あれば原因を特定し、翌月以降の行動を修正する
この「月次予実管理」の習慣が身につくと、数字への感度が格段に上がります。創業期こそ、この感度が資金ショートを防ぎ、成長投資の判断を支えてくれるのです。
08スプレッドシートの構成サンプル
参考までに、実際に作成するスプレッドシートの構成例を示します。シートは2枚構成がおすすめです。
- シート1「今期実績+着地予測」:行に科目(売上・変動費・粗利・固定費・営業利益)、列に今期12か月(実績月+予測月)。右端に年間合計列。
- シート2「来期月次予算」:同じ行構成で列に来期12か月。季節変動指数・変動費率・固定費月額をパラメータセルとして上部に配置し、売上目標を変えると全月の数字が自動で更新される計算式を組んでおく。
Googleスプレッドシートであれば、共同編集で税理士と一緒に数字を確認しながら完成させることも可能です。
- 11月は今期の着地予測と来期の月次予算策定を同時に進める最適なタイミング
- 今期の月次試算表から「季節変動指数」「変動費率」「月額固定費」の3つを抽出するのが出発点
- 来期の売上予算は年間目標を季節変動指数で12か月に配分し、変動費は売上×変動費率で自動計算する
- 予算は作った後の「月次予実管理」で毎月振り返ることで経営判断の精度が上がる
- 創業1期目でデータが不十分でも、まず「たたき台」を作り、毎月修正していく運用が重要
