「去年は売上が好調だったのに、今年に入って受注が落ち着いた。それなのに税務署から高額の予定納税の通知が届いて、資金繰りが一気に苦しくなった」――創業から数年以内の経営者や個人事業主の方から、こうしたご相談をいただくことは少なくありません。予定納税は前年の実績をベースに計算されるため、売上が大きく変動する創業期ほど実態と合わないケースが生じやすい制度です。本記事では、予定納税の基本的な仕組みから、資金繰りを守るための「減額承認申請」の手続き・期限・必要書類まで、実務に直結する情報を整理して解説します。

01そもそも予定納税とは? 基本の仕組みを確認

予定納税が発生する条件

予定納税とは、前年の確定申告で算出された所得税(予定納税基準額)が15万円以上だった場合に、その年の所得税の一部を前払いする制度です。税務署から6月中旬ごろに通知書が届き、年2回に分けて納付します。

  • 第1期:7月1日~7月31日
  • 第2期:11月1日~11月30日

各期の納付額は、原則として予定納税基準額の3分の1ずつです。たとえば前年の予定納税基準額が45万円であれば、第1期・第2期にそれぞれ15万円を納付し、残りの15万円相当は翌年3月の確定申告で精算する形になります。

創業期に予定納税が負担になりやすい理由

創業から2~3年目の事業者は、スポット案件の有無や顧客基盤の変動によって、年間売上が前年比で大きく上下することが珍しくありません。たとえば2025年度に大型案件が集中して所得税が60万円発生した場合、2026年度には第1期・第2期でそれぞれ20万円、合計40万円の予定納税を求められます。しかし2026年度の受注が減り、実際の年間所得税が20万円程度に落ち着く見込みであれば、先に40万円を納付するのは過大な前払いとなり、確定申告で還付されるまでの間、資金繰りを大きく圧迫します。

02減額承認申請とは? 制度の概要と対象ケース

こうした「前年ベースの予定納税額が今年の実態に合わない」状況を救済するのが、所得税法第111条に定められた「予定納税額の減額承認申請」です。一定の要件を満たし、申請書を税務署に提出して承認を受ければ、予定納税額を減額(場合によってはゼロに)することができます。

減額が認められる主なケース

  • 廃業・休業、または業況の悪化により所得が大幅に減少する見込みがある場合
  • 災害・盗難などにより雑損控除を受けられる場合
  • 医療費控除や寄附金控除など、各種所得控除が前年より大幅に増える見込みの場合
  • 事業所得以外の収入(不動産の譲渡など)が前年限りの一時的なものであった場合

創業期の経営者にとって最も身近なのは、最初のケース——「業況悪化・売上減少」による申請でしょう。前年に特需があった、大口取引先との契約が終了したなど、具体的な事情がある場合に活用できます。

03申請の期限と手続きの流れ

2つの申請期限を押さえる

減額承認申請には、申請対象となる期に応じて2つの期限があります。2026年(令和8年)分の場合、以下のとおりです。

  1. 第1期分と第2期分の両方を減額したい場合
    申請期限:2026年7月15日
    その年の6月30日時点の状況に基づき、年間の所得税見込額を算出して申請します。
  2. 第2期分のみを減額したい場合
    申請期限:2026年11月15日
    その年の10月31日時点の状況に基づき、年間の所得税見込額を算出して申請します。

注意:申請期限は厳格に運用されます。1日でも遅れると申請が受理されず、原則どおりの予定納税額を納付する義務が残ります。特に第1期分の減額は7月15日が期限であり、予定納税の通知が届く6月中旬から実質1か月程度しか猶予がありません。通知が届いたら速やかに対応を検討してください。

申請に必要な書類

  • 「予定納税額の減額承認申請書」(所得税法施行規則に定められた様式。国税庁サイトからダウンロード可能)
  • 申告納税見積額の計算根拠となる資料:6月30日(または10月31日)時点の損益計算書、売上台帳、試算表など

申請書には、その年の所得見込額や各種控除の見込額を記載し、予定納税基準額との差額を算出します。添付資料で「なぜ減額が必要か」を数字で裏付けることが、スムーズな承認につながります。

申請後の流れ

申請書を所轄税務署に提出すると、税務署が内容を審査し、承認・一部承認・却下のいずれかが通知されます。承認された場合は、減額後の金額で予定納税を行えばよく、差額分の資金を手元に残すことができます。

04具体例で見る減額承認の効果

ここで、創業2年目の個人事業主Aさん(IT系フリーランス)の例を見てみましょう。

  • 2025年:大型プロジェクトが重なり、事業所得が800万円。所得税の予定納税基準額は約48万円。
  • 2026年:主要クライアントの予算縮小により、年間の事業所得は400万円程度に減少する見込み。

減額承認申請をしなかった場合、Aさんは第1期(7月)に16万円、第2期(11月)に16万円、合計32万円を予定納税として先に支払うことになります。しかし実際の所得税が約20万円程度に落ち着けば、約12万円は確定申告まで過払い状態が続きます。

一方、6月30日時点の売上実績と今後の見込みをもとに減額承認申請を行い、予定納税額を各期8万円(合計16万円)に減額できれば、手元に16万円の資金を残したまま事業運営が可能です。創業期においてこの差額は、仕入れや外注費、広告費などに充てられる貴重なキャッシュフローとなります。

ポイント:減額承認申請はあくまで「見込み」に基づく手続きです。結果として年間所得が当初の予定納税基準額どおりだった場合は、確定申告時に不足分を納付すれば問題ありません。減額申請をしたこと自体がペナルティになることはないため、資金繰りに不安がある場合は積極的に検討しましょう。

05創業期に実践したい予定納税への備え

1. 毎月の試算表を作成する習慣をつける

減額承認申請には、6月末または10月末時点の損益状況を示す資料が必要です。普段から月次で試算表を作成していれば、通知が届いてから慌てて資料を整える必要がなくなります。クラウド会計ソフトを活用して、リアルタイムに近い数字を把握しておくことをおすすめします。

2. 納税資金の「見える化」を行う

予定納税は7月と11月に納付期限が集中します。事業用口座とは別に納税資金をプールする口座を設けるなど、資金の「見える化」を図ることで、納付時の資金ショートを防げます。

3. 税理士への早めの相談

予定納税の通知が届いてから7月15日の期限まで、実質的な準備期間は約1か月です。減額承認申請書の作成や見積額の算出には専門知識が必要になるため、顧問税理士がいる場合は通知が届いた段階ですぐに共有してください。顧問契約がない場合でも、スポットで相談できる税理士を事前に見つけておくと安心です。

06よくある疑問とその回答

Q. 法人にも予定納税はある?

法人の場合は「予定申告(中間申告)」という類似の制度があります。前事業年度の法人税額が20万円を超えると、事業年度開始から6か月を経過した日から2か月以内に中間申告を行う必要があります。仮決算による中間申告を選択すれば、実態に合った税額を納付できるため、個人の減額承認申請と同様の効果が得られます。

Q. 減額承認が却下されることはある?

根拠資料が不十分な場合や、見込額の算出が合理的でないと判断された場合には、一部のみの承認や却下となる可能性があります。損益計算書や売上推移表など、客観的な数字を添えて申請することが重要です。

この記事のまとめ
  • 前年の所得税(予定納税基準額)が15万円以上の場合、翌年7月・11月に予定納税の義務が生じる
  • 創業期は売上変動が大きく、前年ベースの予定納税額が実態と乖離しやすい
  • 「予定納税額の減額承認申請」を活用すれば、実態に合った金額に減額できる
  • 第1期・第2期の両方を減額するなら7月15日、第2期のみなら11月15日が申請期限
  • 月次試算表の作成や納税資金のプールなど、日常的な備えが申請時のスムーズな対応につながる
  • 申請には見積額の根拠資料が必要。早めに税理士へ相談することで確実な対応が可能になる