「経理も営業も制作も、全部自分でやっている」——創業期の経営者なら、多くの方がうなずくのではないでしょうか。コストを抑えるために何でも自分でこなすのは自然なことですが、その判断は本当に「得」なのでしょうか。自分の1時間にいくらの価値があるかを把握していないと、実は外注した方が利益が増えるケースを見逃しているかもしれません。本記事では、経営者の時間単価を数字で算出し、業務ごとに「自分でやるべきか、手放すべきか」を判断する具体的な方法を解説します。

01なぜ「経営者の時間単価」を知ることが重要なのか

創業期は資金が限られているため、外注費やツール導入費を節約したくなるのは当然です。しかし、経営者がすべてを自分で抱え込むと、本来注力すべき営業活動や事業戦略の時間が奪われます。結果として売上機会を逃し、節約した外注費以上の損失を出していることも珍しくありません。

この「見えない損失」を可視化するのが、経営者の時間単価という考え方です。自分の1時間あたりのコストを把握すれば、ある業務を外注した場合のコストと比較して、どちらが経済合理的かを数字で判断できるようになります。

02経営者の時間単価を算出する3ステップ

ステップ1:年間の総報酬額を把握する

法人の場合は役員報酬の年額、個人事業主の場合は事業所得(生活費として使える金額)を基準にします。ここでは社会保険料の会社負担分も含めた「会社が経営者にかけている総コスト」で計算するとより正確です。

たとえば、月額役員報酬40万円の場合、年間報酬は480万円です。社会保険料の会社負担分(概ね報酬の約15%)を加えると、年間の総コストは約552万円になります。

ステップ2:年間の実稼働時間を算出する

創業期の経営者は土日も働いていることが多いですが、ここでは持続可能な稼働時間を前提にしましょう。仮に月22日稼働、1日10時間とすると、年間の実稼働時間は以下のようになります。

22日 × 10時間 × 12か月 = 2,640時間

ステップ3:時間単価を計算する

総コストを実稼働時間で割ります。

552万円 ÷ 2,640時間 = 約2,091円/時間

つまり、この経営者が何かの業務に1時間費やすたびに、約2,091円のコストが発生しているということです。

ポイント:ここで算出した時間単価はあくまで「コストベース」の数字です。経営者にしかできない業務(営業・戦略立案など)で生み出す売上を考慮すると、実質的な時間価値はさらに高くなります。たとえば年間売上2,000万円を経営者の営業活動で生み出しているなら、営業に充てる1時間の価値は時間単価の数倍に相当する可能性があります。

03業務ごとの外注コスト・ツール費用と比較する

時間単価がわかったら、次は業務ごとに「自分でやった場合のコスト」と「外注・ツール導入した場合のコスト」を比較します。以下に創業期によくある業務の比較例を示します。

比較例:月額役員報酬40万円(時間単価 約2,091円)の場合

  • 記帳・経理業務:自分でやると月10時間 × 2,091円 = 約20,910円。クラウド会計ソフト(月額約2,000〜4,000円)+ 税理士への記帳代行(月額1〜3万円程度)で代替すれば、自分の時間を10時間分解放できる。
  • 請求書・見積書作成:自分でやると月3時間 × 2,091円 = 約6,273円。請求書作成ツール(月額数百円〜数千円)の導入で作業時間を月1時間程度に短縮可能。
  • SNS運用・コンテンツ制作:自分でやると月15時間 × 2,091円 = 約31,365円。外注すると月3〜10万円程度。内容や品質次第では外注の方が割高になることもあるため、慎重な判断が必要。
  • ホームページの軽微な修正:自分で調べながらやると月5時間 × 2,091円 = 約10,455円。制作会社へのスポット依頼なら1回5,000〜1万円程度で済むケースが多い。

04損得分岐点を見極める判断フレームワーク

単純にコストだけで比較するのではなく、次の3つの視点で総合的に判断することが重要です。

  1. 時間単価との比較:外注の時間単価が自分の時間単価より低ければ、外注が合理的。
  2. 解放された時間の使い道:浮いた時間を売上に直結する活動(営業・商談・商品開発など)に充てられるかどうか。充てられるなら外注の効果は倍増する。
  3. 業務の戦略的重要性:経営判断に直結する業務や、自社のコアコンピタンスに関わる業務は、コストに関係なく自分で行うべき場合がある。

この3つの視点を使うと、業務は大きく以下の3つに分類できます。

  • 自分がやるべき業務:経営戦略、重要な営業・商談、コア事業の品質管理など
  • 外注・自動化すべき業務:記帳、給与計算、定型的なデータ入力、清掃など
  • 段階的に手放す業務:SNS運用、コンテンツ制作、カスタマーサポートなど(最初は自分で型を作り、仕組み化してから外注)

注意:外注先の選定を誤ると、品質の確認やリテイク対応でかえって時間を取られるケースもあります。特に創業期は信頼できる外注先を見つけるまでに時間がかかることを織り込んでおきましょう。最初は少額の業務から試し、相性を確認してから依頼範囲を広げるのが安全です。

05実践のための具体的アクションプラン

ここまでの内容を踏まえて、今日からできるアクションを3つ紹介します。

  1. 1週間の業務を記録する:まずは自分がどの業務に何時間使っているかを把握します。スマートフォンのメモでもスプレッドシートでも構いません。「記帳2時間」「営業資料作成1.5時間」のように記録しましょう。
  2. 業務ごとにコスト換算する:記録した時間に自分の時間単価をかけて、業務ごとの「自分でやるコスト」を算出します。
  3. 外注・ツール導入の見積もりを取る:コストが高い業務から順に、外注費やツール費用を調べます。自分のコストを上回らない範囲で、解放される時間が大きいものから優先的に検討しましょう。

特に経理・記帳業務は、創業期から専門家に任せることで正確性が担保され、確定申告や決算時のトラブル防止にもつながります。「自分でやるコスト」が見えると、税理士への依頼も投資として捉えやすくなるはずです。

06時間単価の考え方を習慣にする

時間単価の計算は、一度やって終わりではありません。事業の成長に伴い役員報酬が上がれば時間単価も上昇し、外注すべき業務の範囲も変わります。半年に1回程度は見直して、業務の棚卸しを行うことをおすすめします。

2026年現在、クラウド会計ソフトやAIを活用した業務効率化ツールは日々進化しています。以前は外注一択だった業務が、安価なツールで自動化できるようになっているケースも増えています。定期的に選択肢をアップデートする姿勢が、創業期の限られたリソースを最大化する鍵です。

この記事のまとめ
  • 経営者の時間単価は「年間総報酬額(社会保険料含む) ÷ 年間実稼働時間」で算出できる
  • 月額役員報酬40万円・月220時間稼働の場合、時間単価は約2,091円
  • 業務ごとに「自分でやるコスト」と「外注・ツール導入コスト」を比較し、損得分岐点を見極める
  • 判断基準は「コスト比較」「解放時間の活用先」「業務の戦略的重要性」の3つ
  • 経理・記帳など定型業務は早期に外注・自動化し、経営者は売上を生む活動に集中すべき
  • 時間単価は事業成長に伴い変化するため、半年に1回程度の見直しが効果的