「従業員にスポーツドリンクを箱買いしたけど、これって経費になる?」「空調服を支給したら給与扱いになるの?」――2026年も記録的な猛暑が続くなか、創業間もない会社や個人事業主の方から、熱中症対策にかかった費用の経費処理についてご相談をいただく機会が増えています。福利厚生費になるのか、消耗品費なのか、それとも給与課税されるのか。この記事では、創業期に多いパターン別に、勘定科目の判断基準と正しい仕訳・証拠書類の残し方を整理します。
01熱中症対策費用が経費になる大前提
まず押さえておきたいのは、熱中症対策費用が経費(損金)として認められるための基本的な考え方です。
「業務上の必要性」と「全従業員への一律支給」
税務上、熱中症対策グッズの支給が福利厚生費として認められるには、次の2つの要件を満たす必要があります。
- 業務遂行上の必要性があること:暑熱環境下での作業など、業務との関連性が明確であること
- 全従業員を対象に一律に支給していること:特定の人だけに支給する場合は給与課税のリスクが高まります
労働安全衛生法に基づく厚生労働省の通達(「職場における熱中症予防基本対策要綱」)では、事業者に対して飲料水や塩分の提供、休憩場所の確保などが求められています。こうした法令上の義務に基づく支出は、業務上の必要性が認められやすく、福利厚生費として処理しやすい費用です。
ポイント:熱中症予防対策要綱では、WBGT値(暑さ指数)が基準を超える環境で作業する場合、事業者は飲料水・塩分の提供を義務づけられています。この義務に基づく支出であることを社内規程等で明文化しておくと、税務調査でも説明がスムーズです。
02アイテム別の勘定科目と税務処理
ここからは、実際に支給することの多い熱中症対策グッズごとに、勘定科目の判断基準を見ていきましょう。
スポーツドリンク・ミネラルウォーター(飲料類)
職場に常備して従業員が自由に飲めるようにする場合は、福利厚生費として処理できます。来客用のお茶代と同じ考え方です。
- 勘定科目:福利厚生費
- 消費税区分:課税仕入れ(軽減税率8%対象)
- 仕訳例:福利厚生費 5,400円 / 現金 5,400円(スポーツドリンク2ケース購入)
ただし、従業員個人が自宅に持ち帰る前提で現物支給する場合や、金額が社会通念上の範囲を超える場合は、給与課税の対象となる可能性があります。目安として、1人あたり月額数千円程度の飲料提供であれば、通常は福利厚生費として問題ありません。
塩タブレット・塩飴・経口補水液
これらも飲料と同様、職場に常備して全員が利用できる形であれば福利厚生費です。
- 勘定科目:福利厚生費
- 消費税区分:課税仕入れ(飲食料品に該当するため軽減税率8%対象)
- 仕訳例:福利厚生費 3,240円 / 現金 3,240円(塩タブレット・経口補水液まとめ買い)
空調服・冷却ベスト(ウェアラブル冷却装備)
空調服(ファン付き作業服)や冷却ベストは、飲料と異なり「個人に帰属する物品」の性質があるため、処理にやや注意が必要です。
- 業務専用で使用し、会社管理とする場合:消耗品費(1着あたり10万円未満の場合)
- 個人に支給して私用にも使える場合:給与課税(現物給与)のリスクあり
建設業・物流業など屋外作業が主な業種で、業務中のみ着用する空調服は、作業着・制服と同様に消耗品費として処理するのが一般的です。1着1万円〜2万円程度のものが多く、少額減価償却資産の要件も満たします。
- 勘定科目:消耗品費(または作業用品費)
- 消費税区分:課税仕入れ(標準税率10%)
- 仕訳例:消耗品費 15,000円 / 現金 15,000円(空調服1着)
社名やロゴを入れる、退職時に返却させるといった運用をすると、業務専用であることがより明確になります。
スポットクーラー・大型扇風機(設備系)
作業現場や倉庫に設置するスポットクーラーや工業用扇風機は、取得価額によって処理が変わります。
- 10万円未満:消耗品費として一括経費
- 10万円以上20万円未満:一括償却資産(3年均等償却)
- 10万円以上30万円未満(中小企業者等):少額減価償却資産の特例により即時償却可
03創業期に多いパターン別の注意点
パターン1:ひとり社長(従業員ゼロ)の場合
法人のひとり社長の場合、福利厚生費の概念が使いにくいという問題があります。福利厚生費は「従業員全体の福利厚生のための支出」が前提であり、役員のみ・社長のみが対象の支出は原則として役員に対する給与(役員賞与)と認定されるリスクがあります。
ただし、作業用の空調服や現場に持参するドリンクなど、業務遂行に直接必要な支出は、消耗品費や旅費交通費(出張時の日当規程がある場合)として処理できる余地があります。個人事業主の場合も同様に、事業に直接必要なものは必要経費になります。
注意:ひとり社長が自分用に高額な冷却グッズを購入し福利厚生費で処理すると、税務調査で否認されるケースがあります。業務との関連性を明確にし、社内規程を整備しておくことが大切です。個人事業主の場合は、家事関連費との按分も検討が必要です。
パターン2:パート・アルバイトを含む少人数事業所
従業員が数名いる場合は、福利厚生費として処理しやすくなります。ポイントは「全員一律」の支給であること。正社員にだけ空調服を支給し、パートには支給しないといった運用は、福利厚生費としての要件を満たさない可能性があります。就業規則や福利厚生規程に「暑熱対策として対象者全員に支給する」旨を記載しておきましょう。
パターン3:建設業・配送業など現場作業がある場合
屋外作業がメインの業種では、熱中症対策が安全配慮義務の一環として位置づけられます。この場合、飲料・塩タブレット・空調服・スポットクーラーなどの費用は、業務上の必要経費として認められやすいです。現場ごとに安全対策計画書を作成し、熱中症対策にかかる費用を明記しておくと、証拠書類として有効です。
04証拠書類の残し方と実務上のコツ
税務調査で問題にならないよう、以下の書類・記録を整理しておきましょう。
- 購入時のレシート・領収書:品名が明確に記載されたものを保管(「食料品」だけの記載では不十分。「スポーツドリンク」「塩タブレット」など具体的な品名が分かるようにする)
- 支給記録:誰に・いつ・何を支給したかの記録(空調服など個人に渡す物品は特に重要)
- 社内規程・通知文:「夏季の熱中症対策について」などの社内通知や福利厚生規程を作成し、対策内容と対象者を明文化
- 業務上の必要性を示す資料:作業現場の気温記録、安全衛生計画書、WBGT測定記録など
特に創業期は税務調査の対象になりにくいと思われがちですが、消費税の還付申告をした場合などは早期に調査が入ることもあります。日頃から証拠書類を整理しておく習慣をつけておきましょう。
05勘定科目の判断に迷ったときのフローチャート
最後に、熱中症対策費用の勘定科目を判断するための簡易フローをまとめます。
- その支出は業務上の必要性があるか? → NOなら経費にできない
- 全従業員を対象に一律支給しているか? → YESなら福利厚生費の可能性大
- 支給物品は職場で消費されるか(飲料・塩タブレットなど)? → YESなら福利厚生費
- 支給物品は個人に帰属するか(空調服など)? → 業務専用なら消耗品費、私用兼用なら給与課税リスク
- ひとり社長や役員のみの支出か? → 福利厚生費は使いにくい。消耗品費等で業務関連性を立証
- スポーツドリンク・塩タブレットなど職場で全員が利用できるものは「福利厚生費」で処理可能(軽減税率8%対象)
- 空調服・冷却ベストは業務専用なら「消耗品費」、私用兼用なら給与課税リスクあり
- ひとり社長の場合、福利厚生費は認められにくいため、消耗品費等で業務上の必要性を明確にする
- 社内規程の整備・支給記録・レシートの品名明記など、証拠書類を日頃から整理しておくことが重要
- 労働安全衛生法上の義務に基づく支出であることを文書化しておくと税務調査でも安心
