「先月は営業利益率が15%あったのに、今月はなぜかマイナスになっている」——月商数十万円から数百万円規模のスタートアップや個人事業主の方から、こうしたご相談をいただくことが非常に多くあります。売上が小さいうちは、ちょっとした費用の発生タイミングのズレで利益率が大きく振れてしまい、自社の経営状態を正しく把握できなくなりがちです。本記事では、月次の営業利益率がブレる「3つの原因」と、それぞれに対する実務的な平準化テクニックを解説します。

01なぜ創業期の営業利益率は毎月ブレるのか

月商1,000万円を超える企業と、月商50万〜300万円程度の事業者とでは、同じ「月次の営業利益率」でもその安定度は大きく異なります。たとえば月商100万円の事業者が、たまたまある月に年払いの保険料12万円を支払っただけで、その月の利益率は12ポイントも下がってしまいます。一方、月商3,000万円の事業者にとって12万円は利益率にして0.4ポイント程度の影響にすぎません。

つまり、売上規模が小さいほど、個々の収支項目の影響が大きくなるという構造的な問題があるのです。この前提を踏まえたうえで、利益率がブレる主な原因を3つに分解してみましょう。

原因1:売上の計上タイミングのズレ

創業期の事業者に特に多いのが、「入金ベース」で売上を認識してしまっているケースです。たとえば7月に納品した仕事の入金が8月にずれ込むと、7月は売上ゼロ・8月は売上2倍という極端な結果になります。発生主義(役務提供や納品の完了時点で売上を計上する方法)を採用していないと、月ごとの利益率は実態とかけ離れたものになります。

原因2:固定費の支払月の偏り

家賃や通信費のように毎月一定額が発生するコストは比較的安定しています。しかし、年払いの損害保険料、半年払いの顧問料、年1回の税理士決算報酬、ドメインやサーバーの年間契約費用など、「年に1〜2回まとめて支払う固定費」は意外と多いものです。これらを支払った月だけ利益率が大幅に低下し、他の月は高く見えるという歪みが生まれます。

原因3:外注費の突発的な発生

創業初期は、Webサイトのリニューアル、チラシの制作、システムの改修など、スポットで外注費が発生することが頻繁にあります。月商200万円の事業者が30万円のWebサイト改修を行えば、それだけで利益率が15ポイント下がります。こうしたスポット的な支出が、月次の利益率を読みにくくしている大きな要因です。

02利益率を安定させる3つの平準化テクニック

テクニック1:売上は必ず「発生主義」で計上する

まず最も基本的かつ効果の大きい対策は、売上を発生主義で計上することです。具体的には次のルールを徹底します。

  • 物販であれば「出荷日」または「納品日」に売上を計上する
  • サービス業であれば「役務提供が完了した日」に売上を計上する
  • 継続的なサービス(月額契約など)は、対応する月に按分して計上する

たとえば、7月に完了した案件の請求書を8月に発行し、入金が9月になるケースでも、売上は7月に計上します。これだけで月次の売上ブレは大きく改善されます。会計ソフト(freee、マネーフォワードクラウドなど)を使っている場合は、「取引日」に納品日や役務提供完了日を入力するよう習慣づけてください。

テクニック2:年払い・半年払いの固定費は「月割り按分」する

年払いや半年払いの費用は、支払った月にまとめて経費計上するのではなく、12か月(または6か月)に按分して月次の管理会計に反映させましょう。これは税務上の処理とは別に、「経営判断のための数字」として月次の利益率を正しく把握するための手法です。

具体的な例を挙げます。

  1. 年払いの損害保険料120,000円 → 月額10,000円として毎月按分計上
  2. 年1回の税理士決算報酬180,000円 → 月額15,000円として毎月按分計上
  3. サーバー年間契約費用36,000円 → 月額3,000円として毎月按分計上

この処理は、会計ソフト上で「前払費用」の科目を使って仕訳することで実現できます。月次の試算表を見るだけで実態に近い利益率が把握できるようになります。

ポイント:税務申告上の損金算入時期と、月次管理のための按分計上は別の話です。管理会計として月割り按分を行っても、確定申告や法人税申告では支払時期に応じた正しい処理を行います。「管理用の数字」と「税務用の数字」を分けて考えることが重要です。

テクニック3:スポット外注費は「投資的支出」として分離管理する

Webサイト制作やシステム開発などのスポット外注費は、通常の営業活動に必要な経常的コストとは性質が異なります。これらを営業利益の計算に含めてしまうと、月次の営業利益率が大きく歪みます。

おすすめの方法は、スポット的な外注費を「投資的支出」として別枠で管理することです。

  • 月次の損益レポートに「経常的な営業利益」と「投資的支出控除後の利益」の2行を設ける
  • Webサイトリニューアル費、ロゴ制作費、システム初期構築費などは投資的支出として分離する
  • 経常的な営業利益率をモニタリングの主要指標として使う

たとえば月商200万円で通常の経費が140万円、スポットのWeb制作費が30万円かかった月を考えます。全部まとめると営業利益は30万円(利益率15%)ですが、投資的支出を分離すれば経常的な営業利益は60万円(利益率30%)と分かります。翌月以降にスポット支出がなければ利益率30%が本来の実力値だと判断できるわけです。

03月次利益率を安定的に把握するメリット

金融機関への説明力が上がる

創業融資の返済中や追加融資を検討する際、金融機関は月次の試算表を求めてきます。営業利益率が月ごとに大きく振れていると、「経営が不安定なのではないか」と見られてしまうリスクがあります。上記のテクニックで平準化した月次数値を提出できれば、事業の安定性を正しく伝えることができます。

経営判断の精度が格段に上がる

利益率が毎月ブレていると、「今月は調子が良い」「今月は悪い」という感覚的な判断に陥りがちです。しかし、平準化した数値であれば、「前月比で営業利益率が2ポイント低下した。原因は原材料費の上昇だ」というように、変化の原因を正確に特定できます。2026年度の物価上昇局面では、こうしたコスト変動の早期把握が資金繰り管理のうえでも非常に重要です。

注意:管理会計上の月割り按分や投資的支出の分離管理は、あくまで経営判断のための社内用の処理です。税務申告においては、費用の計上時期や資産計上の要否について税法上のルールに従う必要があります。判断に迷う場合は、顧問税理士にご相談ください。

04まずは「3か月分の月次比較」から始めてみよう

ここまで紹介した3つのテクニックを一度にすべて導入するのは大変に感じるかもしれません。まずは直近3か月分の試算表を並べて、以下の3点をチェックしてみてください。

  1. 売上の計上は入金ベースになっていないか(発生主義になっているか)
  2. 特定の月だけ突出して高い経費項目はないか(年払い費用の影響ではないか)
  3. スポット的な外注費が営業利益を圧迫している月はないか

この3点を確認するだけでも、利益率がブレている原因の大部分は特定できます。原因が分かれば、本記事で紹介した按分計上や分離管理の仕組みを順番に取り入れていけば、月次の営業利益率は格段に安定します。

この記事のまとめ
  • 月次の営業利益率がブレる主な原因は「売上計上タイミングのズレ」「固定費の支払月偏り」「外注費の突発発生」の3つ
  • 売上は発生主義で計上することで、月ごとの売上ブレを解消できる
  • 年払い・半年払いの固定費は、管理会計上で月割り按分して平準化する
  • スポット的な外注費は「投資的支出」として分離管理し、経常的な営業利益率を把握する
  • 月次利益率を安定的にモニタリングすることで、金融機関への説明力と経営判断の精度が向上する