「e-Taxを使わないと青色申告の65万円控除が受けられないって本当?」「うちの法人は電子申告が義務なの?」——創業間もない個人事業主や小規模法人の経営者から、こうしたご質問をいただく機会が増えています。電子申告の対象範囲は段階的に広がっており、2026年分の確定申告(2027年3月申告期限)に向けて、今のうちに正しい知識を整理しておくことが大切です。本記事では、個人・法人それぞれの電子申告義務の有無、書面提出で失う控除額、そして具体的な対応手順を分かりやすく解説します。

01電子申告義務化の全体像——誰が対象で、何が変わったのか

まず「電子申告義務化」という言葉が指す範囲を整理しましょう。現在、電子申告が”義務”となっているのは、主に大規模法人です。2020年4月以後に開始する事業年度から、次の法人は法人税・消費税等の申告をe-Taxで行うことが義務付けられています。

  • 内国法人のうち、事業年度開始時点の資本金の額または出資金の額が1億円を超える法人
  • 相互会社、投資法人、特定目的会社など

つまり、資本金1億円以下の中小法人や個人事業主には、現時点で確定申告の電子申告そのものが「法的義務」として課されているわけではありません。しかし、義務ではないからといって書面提出を選び続けると、実質的に不利益を受けるケースがあります。その代表例が、個人事業主の青色申告特別控除です。

02個人事業主——書面提出で失う「10万円」の控除差

65万円控除を受けるためのe-Tax要件

2020年分の所得税確定申告から、青色申告特別控除の仕組みが改正されました。従来は複式簿記による記帳と貸借対照表の添付で65万円控除を受けられましたが、改正後はそれに加えて次のいずれかの要件を満たす必要があります。

  1. e-Tax(電子申告)で確定申告書および青色申告決算書を提出する
  2. 仕訳帳・総勘定元帳について「優良な電子帳簿」の要件を満たし、届出書を提出する

上記のいずれも満たさずに書面で提出した場合、控除額は55万円に引き下げられます。つまり、その差額は10万円。所得税率が20%の方であれば、住民税と合わせて年間約3万円の手取り減少になります。創業期のキャッシュフローを考えると、決して小さくない金額です。

ポイント:2026年分(2027年3月申告期限)の確定申告でも、この要件は変わりません。e-Taxで申告書を送信するだけで65万円控除の要件を満たせるため、実務上は「優良な電子帳簿」よりもe-Tax利用のほうが圧倒的にハードルが低いといえます。

基礎控除との関係も忘れずに

2020年分の改正で基礎控除が38万円から48万円に引き上げられた一方、青色申告特別控除は書面提出の場合に65万円から55万円に引き下げられました。e-Taxを利用すれば差し引きで10万円の控除増となりますが、書面のままだとプラスマイナスゼロ。改正メリットを活かせるかどうかは電子申告の有無にかかっています。

03小規模法人——義務ではなくても電子申告を選ぶべき理由

資本金1億円以下の小規模法人には電子申告の法的義務はありません。しかし、実務上は次の理由から早期にe-Taxへ移行することを強くおすすめしています。

  • 税務署の受付印に代わる「受信通知(メール詳細)」が融資審査で使える:金融機関の融資審査で確定申告書の提出事実を証明する際、電子申告の受信通知が有効な証拠になります。書面提出の場合に受けていた収受印の押印は2025年1月以降廃止されており、提出事実の証明が煩雑になっています。
  • 将来的な義務化対象の拡大リスク:政府のデジタル化推進方針に鑑みると、義務化対象が段階的に拡大される可能性は否定できません。早い段階で電子申告のオペレーションを確立しておくことで、制度変更に慌てずに対応できます。
  • 郵送コスト・控え管理の手間削減:申告書一式を郵送する手間や返信用封筒の準備が不要になり、提出データはe-Tax上でいつでも確認できます。

注意:法人の消費税申告についても、電子申告義務化の対象は資本金1億円超の法人です。ただし、インボイス制度の導入以降、消費税の申告実務は複雑化しています。電子申告に対応した会計ソフトを活用することで、仕入税額控除の集計から申告書作成・送信までを一気通貫で行えるため、業務効率の面でもメリットがあります。

04e-Taxの始め方——マイナンバーカード方式とID・パスワード方式

e-Taxを利用するには、主に2つの認証方式があります。それぞれの特徴と手順を確認しましょう。

マイナンバーカード方式(推奨)

  1. マイナンバーカードを取得する(交付申請から受け取りまで約1か月)
  2. ICカードリーダーまたはマイナンバーカード読取対応のスマートフォンを用意する
  3. e-Taxの「受付システム」で利用者識別番号を取得する(マイナンバーカードによるオンライン取得が可能)
  4. 確定申告書等作成コーナーまたは対応会計ソフトから、マイナンバーカードで電子署名を行い送信する

マイナンバーカード方式は本人確認と電子署名を一枚のカードで完結できるため、最も確実な方法です。個人事業主の青色申告65万円控除の要件としても問題なく認められます。

ID・パスワード方式

  1. 税務署に本人確認書類を持参し、ID・パスワード方式の届出を行う
  2. 発行されたIDとパスワードで確定申告書等作成コーナーにログインし、申告書を送信する

ID・パスワード方式はマイナンバーカードやICカードリーダーが不要という手軽さがありますが、国税庁はマイナンバーカード方式への移行を推奨しており、暫定的な対応という位置付けです。法人の場合はこの方式は利用できず、電子証明書(マイナンバーカードまたは商業登記に基づく電子証明書等)が必要となります。

05創業期に押さえておきたい実務チェックリスト

2026年分の確定申告に向けて、今から準備しておきたい項目をまとめます。

  • マイナンバーカードの取得状況を確認する(未取得の場合は早めに申請)
  • e-Taxの利用者識別番号を取得し、初期登録を済ませる
  • 利用している会計ソフトがe-Tax連携に対応しているか確認する
  • 法人の場合、電子証明書(商業登記電子証明書またはマイナンバーカード)の有効期限を確認する
  • 青色申告承認申請書を未提出の場合は、期限内に提出する(新規開業の場合は開業から2か月以内、それ以外は適用を受けたい年の3月15日まで)
  • 電子帳簿保存法への対応状況もあわせて確認する

特に創業1年目は、開業届・青色申告承認申請・インボイス登録など届出関係が集中します。e-Taxの初期設定もこのタイミングで一緒に済ませてしまうと、確定申告時期に慌てることがありません。

この記事のまとめ
  • 電子申告の法的義務は現時点では資本金1億円超の大規模法人が対象。個人事業主・小規模法人には義務はないが、実質的に不利益がある。
  • 個人事業主が青色申告特別控除65万円を受けるには、e-Taxでの申告または優良な電子帳簿の保存が必要。書面提出では55万円に減額される。
  • 小規模法人も融資審査や業務効率の観点から、早期のe-Tax移行が望ましい。収受印廃止により、電子申告の受信通知の重要性が増している。
  • マイナンバーカード方式が最も確実な認証方法。ID・パスワード方式は暫定的な位置付けであり、法人は利用不可。
  • 創業期はマイナンバーカード取得・e-Tax初期設定・青色申告承認申請を早めに済ませておくことが重要。