「法人を設立して初めての決算が近づいてきたけれど、減価償却の方法って届出が必要なの?」「定率法と定額法、どちらが得なのかよくわからない」——創業期の経営者からよく寄せられるご質問です。届出書を出すか出さないかで、翌期以降の経費計上額が大きく変わることもあります。2026年8月の今、確認しておきたい実務ポイントをフローチャート付きで解説します。

01そもそも減価償却方法の届出とは何か

法定償却方法と届出の関係

法人税法では、減価償却資産の償却方法について届出をしなかった場合、「法定償却方法」が自動的に適用されます。法定償却方法は資産の種類によって異なりますが、主なものは以下のとおりです。

  • 建物・建物附属設備・構築物:定額法(届出の有無にかかわらず定額法のみ)
  • 機械装置・器具備品・車両運搬具など:定率法(届出をしなければ定率法が適用)
  • ソフトウェア・特許権などの無形固定資産:定額法(届出不要)

つまり、届出書を提出する実益があるのは、機械装置や器具備品、車両運搬具などについて「定額法」を選びたい場合です。定率法のままでよければ、届出書の提出は不要です。

届出書の提出期限はいつか

「減価償却資産の償却方法の届出書」の提出期限は、その届出をしようとする償却方法を採用する最初の事業年度の確定申告書の提出期限です(法人税法施行令第51条)。例えば、9月決算法人であれば、確定申告期限は11月末日となります。

一方、すでに届出済み(または法定償却方法を適用中)の法人が償却方法を変更したい場合は、「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに提出し、税務署長の承認を受ける必要があります。

ポイント:届出書(新規)と変更承認申請書は別の手続きです。新設法人が初めて届出を行う場合は「届出書」、すでに償却方法が確定している法人が変更する場合は「変更承認申請書」を使います。変更承認申請書はみなし承認の規定があり、申請から3か月以内に通知がなければ承認があったものとみなされます。

02定率法と定額法——どちらが有利かを数字で比較

たとえば、取得価額300万円・耐用年数5年の機械装置を取得したケースで比較してみましょう(2026年8月取得と仮定)。

定率法の場合(償却率0.400)

  1. 1年目:300万円 × 0.400 = 120万円
  2. 2年目:180万円 × 0.400 = 72万円
  3. 3年目:108万円 × 0.400 = 43.2万円
  4. 4年目以降:改定償却率を適用し、均等に償却

定額法の場合(償却率0.200)

  1. 毎年:300万円 × 0.200 = 60万円(1年目から5年目まで均等)

定率法では初年度に120万円の経費を計上でき、定額法の60万円と比べて2倍の差があります。創業期に利益が出ている法人にとっては、定率法のまま(届出不要)のほうが節税効果が高いケースが多いといえます。

一方、創業期は赤字が続く見込みで、数年後に黒字化する計画であれば、定額法を選んで将来の黒字期にも安定的に経費を計上するほうが有利になることもあります。

038月に確認すべき実務フローチャート

以下のフローチャートに沿って、届出の要否を判断してみてください。

ステップ1:自社の決算期を確認する

まず、自社の事業年度終了日を確認してください。9月決算であれば確定申告期限は2026年11月末、12月決算であれば2027年2月末が届出期限です。8月のうちに検討を始めれば、多くの決算期の法人が間に合います。

ステップ2:建物以外の固定資産があるか

償却方法の届出に実益があるのは、機械装置・器具備品・車両運搬具など「定率法が法定償却方法となる資産」を保有している場合です。建物・ソフトウェアしか保有していない法人は、届出の必要はありません。

ステップ3:定額法を選びたい理由があるか

  • 創業から数年は赤字の見込みで、繰越欠損金が多額に発生している
  • 毎期の損益を安定させたい(金融機関への決算書提出を意識)
  • 補助金・助成金の圧縮記帳と組み合わせて、特定の期に損金を集中させたくない

上記のいずれかに該当する場合は、定額法への届出を検討する価値があります。

ステップ4:すでに届出済みかどうか確認する

過去に届出書を提出したかどうか不明な場合は、所轄税務署に問い合わせれば確認できます。設立時に税理士へ依頼していた場合は、当時の届出控えを確認しましょう。届出済みの償却方法を変更したい場合は「変更承認申請書」の手続きが必要です。

ステップ5:届出書を作成・提出する

判断の結果、届出が必要であれば、国税庁の様式を使用して届出書を作成し、所轄税務署へ提出します。届出書には、対象となる減価償却資産の種類ごとに採用する償却方法を記載します。

注意:償却方法の届出は資産の「種類」ごとに行います。例えば、器具備品は定額法、車両運搬具は定率法のまま、というように種類ごとに異なる選択が可能です。ただし、同じ種類の資産について一部だけ定額法にするといった個別選択はできません(一部例外として、事業所別の届出が認められる場合があります)。

04届出書の書き方と提出時の注意点

届出書の記載項目

「減価償却資産の償却方法の届出書」に記載する主な項目は以下のとおりです。

  1. 法人名・納税地・代表者名・事業種目
  2. 届出の対象となる資産の種類(例:器具及び備品、車両運搬具など)
  3. 届出をする償却方法(定額法または定率法)
  4. 届出の対象となる最初の事業年度

提出方法

届出書は、所轄税務署へ持参または郵送で提出します。e-Taxでの電子提出も可能です。届出書の控えには収受印をもらうか、電子申告であれば受信通知を保存しておきましょう。

よくあるミス

  • 設立初年度の確定申告期限を過ぎてから届出を出してしまい、初年度には適用できない
  • 資産の「種類」を誤って記載し、意図した資産に届出が及ばない
  • 変更が必要なのに届出書(新規)を提出してしまい、手続きが無効になる

05創業期に多い「届出漏れ」のリカバリー方法

「設立時に届出を出し忘れていた」というケースは、創業期の法人では珍しくありません。この場合、法定償却方法(定率法)がすでに適用されている状態です。

定額法に変更したい場合は、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに「償却方法の変更承認申請書」を提出する必要があります。例えば、2026年10月1日から始まる事業年度で変更したい場合は、2026年9月30日が申請期限です。8月中に判断できれば、翌期からの変更に十分間に合います。

なお、変更承認申請は、原則として現在の償却方法を3年以上継続した後でなければ認められないことが多い点にも注意が必要です(「相当期間」の要件)。ただし、設立初年度に届出を失念したケースなど、合理的な理由がある場合は3年を待たずに認められることもあります。

06まとめ

この記事のまとめ
  • 法人の減価償却方法は、届出をしなければ法定償却方法(建物以外は定率法)が自動適用される
  • 定額法を選びたい場合のみ「償却方法の届出書」を提出する必要がある
  • 届出期限は、採用する最初の事業年度の確定申告書提出期限(9月決算法人なら11月末)
  • 創業期に赤字が続く見込みなら定額法、黒字なら定率法が有利になる傾向がある
  • 届出漏れに気づいた場合は「変更承認申請書」でリカバリーが可能だが、相当期間の継続要件に注意
  • 2026年8月のうちに自社の資産構成と利益予測を確認し、届出の要否を判断しておくことが重要